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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第三章 夏の思い出
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第四十九話 もう一人の「アルタイル」後編

「桜ちゃんを…離せぇ!」


 EFに突入するや否や、襲い来る小型のデブリなどには目も暮れず桜を掴んだまま離さないヒトガタを目指す。

 途中でいくらか爆散する小型の破片が身を切るが、そんな事はどうでもいい。


「はあっ!…違うっ?! っっ!」


 ここまで飛んできた上での全運動エネルギーを槍の切先に込め、全てのブースターも全開にして渾身の突きを放つ。

 衝撃波で大きな土煙が上がるが、槍の先にあの敵は居なかった。

 それを彦乃が手応えで理解するのと、すぐ横から現れたアイツが彦乃を蹴り飛ばしたのはほとんど同時だった。

 ロクに防御を取る事も出来なかった彦乃は、腹を蹴られ吹き飛ばされる。


「っ…っ……かはっ…」


 蹴られた衝撃で一瞬ではあるが呼吸が出来なかった。

 禍斗を纏っているこの状態ですら、だ。

 確かに禍斗は防御に優れたものとは言い難いが、それにしたって並のデブリ以上の威力である。


「っ……桜ちゃんを離 っ?!」


 吹っ飛ばされた先だからと、追撃が無いように考えていたらアウトだっただろう。

 咄嗟に体勢を立て直した彦乃は、慌てて防御姿勢を取ろうとする。

 思った通り敵も突っ込んできた。


「…っ! ダメっ!」


 防御などと考えていては殺されかねない。

 そう、彦乃の直感が告げる。

 あながち間違いではない事もすぐに証明される訳だが。


「……」


 急いでその場を飛び跳ねて逃げるように離れた。

 そのすぐ後には、敵の拳が地面にめり込んでいるのがはっきりと見える。

 だがそれよりも彦乃にとっては嬉しい情報も見てとれた。

 桜をすっかり手放していたのだ。


「これならっ!」


「……」


 今が好機。

 槍を握り直した彦乃は全てのブースターを全開にして敵へ突っ込む。

 いくら桜を圧倒する程の強さがあるとは言え、全力の突進を受けては無事では済む訳がない。


「っ! …まだまだぁ!」


「……」


「こんっ…のぉぉぉっ!!」


 切先をいとも容易く受け止められようが彦乃は挫けたりしない。

 ブースターの出力に物を言わせてゴリ押しを貫き通そうとする。

 だが、どれだけ出力を上げようとも槍の切先が敵へ触れる事はなかった。


「っ…」


「……」


 どれだけ強く槍を押し込もうとしても、敵は顔色一つ変えずに槍を苦も無く受け止めていた。

 触れる事も無く、昔のSF映画なんかに見られたような、触れずに物を押し返すような感じの力が働いていた。


「こんっの……うあぁっ!」


「……」


 尚も力で押し切ろうと出力を上げようとした彦乃だったが、いきなり圧倒的な力で押し返されてしまう。

 そのまま反撃が来るかと身構えるも、どうやら反撃をしようとはしないらしい。

 その場で立ったまま、敵は動こうとしなかった。


「……? なんで…」


「……」


 まるで、彦乃の品定めをしているかのように、敵は彦乃の方をじっと見ていた。

 顔がのっぺりとして人の顔とは思えないほど丸くなっているからか、それが彦乃を見ていたのかどうかまでは分からない。

 ただ、彦乃の方を向いているのであろう事は分かる。

 目が合っているとかそう言うのではないが感のような物とでも言えばいいだろうか。


「……」


「……」


 暫く互いの動きを伺っているだけの時間が過ぎて行っていたが、どうやらいつまでもそのままと言う訳にはいかないようだ。

 手に持つ槍が、まるで分解と再構築を繰り返すような挙動で変形していくと、6つの小さな光の弾を吐き出す。

 それらは本体の周囲をグルグルと回ったかと思えば、急にピタリと動きを止めた。


「っ! 桜ちゃんに!」


 弾丸は撃ち出されてこそ居なかったが、あれら全てが自分を狙ってはいないと分かると、では誰を狙う?

 周囲をうようよしているデブリは仲間だろうし、ヘレン達はそれらに手を焼いているようだ。

 となると、他にこの場に居るのはズタボロで倒れている桜だけである。


「させ…っ?!」


「……」


 桜を守らなければいけないと、頭では分かっているのに身体がどうしても動かない。

 もし、桜を狙っているのが囮だったとして、では本当の狙いは誰なのか。

 最初から彦乃を狙っていたとしたら、逆に桜を巻き込んでしまうのではないか。

 そうした葛藤が彼女の心を蝕んでいく。


「っ…動け…動いてよ……いっつも嫌って程動いてるのにっ…」


「……」


 ブースターで無理に押し出して動こうとしても、まるでそうじゃないだろうと言いたそうに牛頭も馬頭も動こうとしなかった。

 ではどうするか。

 こうすればいい。


「…こ…こっちだ! 私を撃て、この卑怯者ぉ!」


「……?」


 彦乃は、今ほど狩猟者に狙われる動物の気持ちを味わった事は無いだろう。

 武器を構えているのが見えている分、警戒心の強い動物ならとっくに逃げ出している。

 だが彦乃にはそうしちゃいけない理由があった。


「はぁぁぁぁっ!!」


 全ての勇気を振り絞って、槍を再び敵へ向ける。

 そうすれば不思議と、身体が相手へ向かって突き進んでいく。

 例えさっきと同じように弾かれようとかまわない。


「っ?! わ、わ、わぁぁっ!?」


 走り出したかと思えば、彦乃の身体は宙を浮いていた。

 自分がそうしたくてそうした訳でもなければ、牛頭や馬頭がそう動いた訳でも無い。

 敵が手をこちらへ向けている事からも、それは明らかだ。


「ひっ…」


 無防備になった彦乃は、目の前に居る敵の弾丸が一斉に強く光るのが分かった。

 これは単に光が明滅しているとかではない。

 弾丸が発射される前兆だと本能的に理解したのだ。


「っ………あ、あれ…?」


「……」


 これは撃たれた。

 そう思っていた彦乃だったが、撃ち出された弾丸は一発たりとも彦乃には命中しなかった。

 背後からは聞き慣れた爆発音が聞こえてくる。

 鳥形のデブリが突撃を掛けてきたのだろう。

 では、それを撃ち落としたのか。

 何故?デブリは味方ではないというのだろうか。


「……」


 違う、これは仲間なんかじゃない。

 ただ自分の行動に邪魔なだけなんだ。

 これから何をしようとしているのかは分からない。

 けれど、これだけは言える。


「っ~……ん~っ…う、動かない…」


 宙に浮かされたまま、動けない彦乃はただただデブリを撃墜していく相手をみている事しか出来なかった。

 見た目は人間の少女…彦乃と同じ年くらいの背丈だろうか…だというのに、その全身を覆う銀色は顔すらも無機質な物をしている。

 輪郭こそあるものの目や口はなく、のっぺらぼうのような顔立ちは不気味にすら思える。


「このっ…えっ?! な、なにっ?!」


 どうにか抜け出そうとしていた彦乃だったが、急に引き寄せられるように引っ張られる。

 相手の方も近寄ってきて、それこそ触れられるような距離まで接近していた。

 なのに、どちらからも攻撃しようとはしない。

 彦乃は動けないから当然として、相手の方はなぜそんな接近を許したのか。


「……」


「っ!……あ、あれ…?」


 このままやられるかと思った彦乃だったが、相手の行動は考えられるどれとも違ったものだった。

 優しく、まるで泣いている子供をあやすかのように優しく抱き締めてきたのだ。


「…ふぇ?」


「……」


 あまりに突拍子の無い行動に、彦乃もさすがに警戒心を解いてしまう。

 そのまま抱き締められたかと思っていると、ある感覚が彦乃の中へ流れ込んでいくのを感じた。

 最初に感じた鳥肌の立つようなような殺気とは全く違った、暖かさすら感じるような心地よさを。

 それらと一緒に、イメージのような何かが雪崩れ込んでくる。




『……こんにちは、今生のアルタイルさん…』


『…だれ…?』


 気が付けば彦乃は、何処とも分からない場所を漂っていた。

 夜空のように数々の星々が輝きを放つ空間のような場所。

 まるで宇宙に放り出されたような感覚の中で、一人の少女と出会う。


『私は犬塚光。5代前のアルタイルって言った方が早いかな』


『5代前…?』


『そう。大先輩! だけど時間がないから要件だけ言うね? 私は…っ!?』




 光が何かを伝えようとしていたと言うのに、彦乃は意識が急に引き戻されていく感覚によって光と引き離されてしまう。

 気が付けば彦乃は、真っ暗な暗闇にいた。

 いや、違う、何かに顔を覆われている。


「……」


「……っ?! ~~! ~~!?」


 ヒトデや貝の仲間には、覆いかぶさって身体を包み込み丸呑みにする種類がいる。

 彦乃の現状も、まさにそう言えるような物だった。

 声を上げる事こそ出来ても、身体にはまったく力が入らず振り解く事もまるで出来ない。


「っ~! っ……」


 その上、顔を覆われている所為で呼吸も出来ずロクにもがく事も出来ず意識がまたも闇に堕ちて行きそうになる。

 だが、少しずつ目が醒めてきた頭にある感覚が伝わってくる。


「こんのっ! 彦乃返せやっ!」


「そうよっ! こんなのでもっ! 私達のっ! リーダーなんだからっ!」


「んしょ! んしょ! 雲類鷲さん、今助けるからぁっ!」


 聞き慣れた三人の声が、壁越しに聞こえてくるように小さな声だが確かに聞きとれた。

 どうやら間に合ったようだ。

 という事はデブリの掃討は完了したのだろうか。


「……」


「彦乃ぉ! 目ぇ醒ましぃや! 織姫泣いとるでー!」


「何言ってんの! そっちこそっ! 泣いてるっ! くせにぃぃ!」


 みんなの声が、震えていた。

 死んでほしくないと願うあまり、感情が飛び出してきているかのように、操の声も美波の声も震えている。

 みんなをこれ以上悲しませる訳にはいかない。

 そう思う彦乃の心が、ある変化を呼び寄せる。


「……」


「彦乃っ! 輝ちゃん、彦乃頼むでっ!」


「はいっ!」


 急に彦乃は吐き出されてその場に倒れる。

 まるで、食事を中断してまでやらなくてはいけない事が発生したかのように。


「にしてもなんやねんお前は……気持ち悪いやっちゃな」


「本当に…何なのよアンタは…あ、ちょっ!」


 彦乃を吐き出して向き直った相手は、何をするでもなく後ろへ振り返るとそのままどこかへ飛んで行ってしまった。

 まるですぐにでも帰らなければならない用事が出来たかのように。

 それとほぼ同時だっただろうか、EFが解除されはじめたのは。


「逃げた……? EF解除されたから巣に帰ってったんか…?」


「一応、デブリにそういう習性があるのは知ってたけど…あんなヘンテコなのにもあるのかしらね」


「んな事より彦乃や彦乃!」


「そうよ!雲類鷲さんの方は!」



一体、あの人型のデブリは何だったのか。

彦乃の意識の中に現れた少女、犬塚光と名乗る少女がアレの正体なのだろうか。

それが判明するのは、少なくとも今回ではない。

因みに桜も一緒に救助され、暫くした後はコンペイトウ内のベッドで仲良く眠る彦乃と桜の姿があった。


つづく

本作もあと8日で祝一周年となりました。

引き続き執筆は続けて行きますので、読んでくださっている皆様へ。

どうかこれからも応援よろしくお願い致します。

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