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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第三章 夏の思い出
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第四十五話 星の意思

「次で決めるぞ!」


「はいなっ!」


 ヘレンの合図でヘレンと操の二人は二体の大型デブリの懐へ突っ込んで行く。

 織姫は遠距離型な事もあり戦闘不能となっている青星姉妹の護りに徹している。

 支援砲撃を打ち込もうにも、二人の動きが早すぎて、下手をすればどちらかに弾丸が当たってしまうかもしれない。


『はぁぁっ!!』


 二人のコンビネーションは、息ピッタリだった。

 ヘレンが先行して突出し、敵からの攻撃を引き受けつつ足場や爪などを突き砕き不安定にしていく。

 そして操がバランスを一気に崩しにかかる。


「そこやっ!」


 体重を支えている後ろ足へ、殴るように刃を通す。

 ただそれだけで、デブリの足からは力が消え失せあっと言う間にバランスを崩して倒れ込んでくる。

 ここまでくればヘレンの独壇場だ。


「後は任せなっ!」


 ニッと笑うとヘレンはその場に立ち止まって剣を水平に構える。

 何も戦意喪失したとかそう言う事ではない。

 着物からはルミナスが金色の輝きを放ち漂い始め、徐々に彼女の足へ集まり始める。


「虎姫流奥義…」


 力を溜めていた脚で地面を思いっきり蹴り飛ばし、瞬間移動とも思えるような速さで目的の場所を突き刺した。

 一度に三か所を同時に突き、確実に後ろ足の腱を斬り飛ばしてバランスを崩させる。


「三段突き…なぁんてな!」


「なにふざけとんですかっ?!ウチにはふざけんな言うたクセに!」


 無邪気な笑みで「なぁんてな」とか言うヘレンだったが、何も戦いの中で戦いを忘れた訳ではない。

 ちゃんとやる事はやっている。

 後は二体同時にトドメを刺せばこの戦いは終わる。


「い、いいだろ別にっ?! それよか行くぞ!」


「んもぅ…そうしましょ?」


『はあぁぁぁ!!』


~~~~~

~~~~


「――と、言う訳で…」


「デルタ隊、大型二体同時討伐おめでとー!!」


 時は暫く経ち、ここは彦乃たちの学校からほど近くにある焼肉店。

 今日はあまり客も居ないからと店長が気を利かせて貸し切り状態にしてくれている。

 幹事を務めていたセレスがジュースのジョッキを持って乾杯の音頭を取ってくれていた。

 一番偉い立場である朱莉はと言えば、セレスにくっついてわいのわいのと大はしゃぎ。


「いやー、よくやってくれたねーホント! お手柄だよー!」


「彦乃にも見せたかったでー、ウチの大活躍!」


「私も活躍したんだよ?! ねぇ、彦乃ちゃん!」


「彦乃ぉ! 残念だったなぁ、今回のビッグボーナスは私達のモンだぜ?」


 姦しく騒ぐ彼女たちが囲んでいる者。

 それは、あの戦場には居なかった彦乃の姿であった。

 あの場に居なかったのにここへお呼ばれした理由も分からず、ただただ大慌てで車へ乗せられて来た彼女は未だに訳も分からずキョトンとしていた。

 身を縮こまらせてジュースをチビチビと飲む横で、桜がニコニコしながら肉を頬張る。


「あのー…ヘレンさん…?」


「あふっ…んぁ? 肉か?ホレ…」


 彦乃に呼ばれたヘレンは半ば強引に彼女の口の中へ取ったばかりの肉を捻じ込んだ。

 こんなに強引な「あーん」はなかなか見る事がないだろう。

 さながら鳥に餌を流し込むかのような。


「っっ?! あふっ! あっふぃい!?」


「なっはっは! どうだ、美味いだろ?」


「彦乃ちゃん、水っ! 水っ!」


 慌てて織姫から水を受け取った彦乃はすぐに口の中へ水を流し込んで火傷しそうになっていた舌をなんとかして冷ます。

 冷めてもちょっとヒリヒリする辺り、火傷したかもしれない。


「ぷはぁ…ありがと、織姫ちゃん」


「どういたしまして…」


 にこりと微笑む織姫は、返してもらったコップに残った水を少しの間ジーッと見ていたかと思えば、中身をグッと飲み干した。

 やりきったぜと言いたげな顔をしながら悦に浸る織姫の皿には、朱莉がコッソリと肉を山盛りにしていく。

 どれもこれも、焼けすぎてしまった肉ばかり。

 つまりはコゲ肉避難所と化していた。


「ちょ、周防さ」


「社長」


「社長さんっ! 私のお皿に何するんですか!?」


「だって? 彦乃ちゃんとイチャイチャしまくってるんだもん? お隣見てみ?」


 隣?と思ってそちらへ目を向けてみると、桜が眉間にシワを寄せて物凄い形相で織姫を睨んでいた。

 彦乃の食事の邪魔をするなと言わんばかりの眼光が織姫を刺すように睨んでいる。

 じゅうじゅうと肉の焼ける音に混じってうぅぅと誰かが唸っているような声が聞こえるのも、きっと気のせいではないだろう。


「ほらね? 桜ちゃんがジェラってる」


「えっ」


「えっ?」


 織姫と朱莉の間にあった空気が、ほんの一瞬の間だけ凍り付く。

 何か間違っていると言う訳ではない。

 言葉が少し古臭いのだ。


「……」


「……」


 そんな様子を見ながら、青星姉妹は美味しそうに肉の味をしっかりと噛み締めていた。

 普段なら滅多に味わう事の無い、焼いたばかりの肉の味だ。

 何も家が貧乏と言う訳では無いのだが、焼き肉にはあまり行くような事が無い。

 ちょっと高級だしなー、とか金持ちの行く所でしょ? という認識がいくらか強いのだ、この二人は。


「お二人とも、ここのお肉は美味しいですか?」


「…? セレス局長…?」


「どうしたんですかー?」


 美波たちが静かに肉を焼いていると、セレスがこちらへやってくる。

 肉が無くなったのかと思ったが、どうやら彦乃たちの方ではまだまだじゃんじゃん焼いているようだ。

 ではなぜこちらへ来たのだろうか?


「お二人とも、身体の調子はどうですか?」


「……検査の時にも言ってたじゃない。問題なしなんでしょ?」


「はい、検査の結果は良好でした」


 美波にも輝にも、彦乃のように身体のどこかが硬質化しているような現象は見受けられなかった。

 視覚も聴覚も嗅覚も、どれも正常だ。


「ですが、実を言えば、焼き肉を選択したのには色々と理由があるのです」


「理由?」


 まず一つ、嗅覚の硬質化においてはCTスキャンなどの視覚的情報では感知しにくい。

 なので匂いの強い食事に呼び出す事で、嗅覚が鈍ったり感覚そのものが麻痺、あるいは硬質化していないかを見つける。

 現に嗅覚を失った彦乃は、酒を飲み酔ったヘレンに絡まれても苦笑いこそ浮かべはしても酒臭さに表情を歪める事は全くない。

 ただ単に彼女の意識が高いだけなのかもしれないが、嗅覚があれば誰だって多少なりは酒臭さに顔を歪めるだろう。


「更にもう一つ」


「?」


 もう一つは、味覚や聴覚と言った表層に出て来にくい物の調査が挙げられる。

 ヘレンは右耳が彦乃と同じように聞こえていないが、彼女は一切そう思わせるような事はない。

 彼女がすっかり片耳での生活に慣れてしまっているからというのもあるだろうが、昨日今日で聴覚に異変が起これば、肉を焼く音のような断続的に甲高い音が出る環境の中に居るのは辛い事だってあるだろう。


「……そう言えば、局長? どうして私達の所へ?」


「虎姫さん琴羽さん鵠戸さんには先に話をし、異常がない事が分かりましたので。 貴女方姉妹で最後です」


「いつの間に…」


 素直に美波が感心しそうになっていたと言うのに、セレスが「私は出来る女ですので」なんて言う物だから美波たちからの評価が一気にグンと下がった。

 肉の焼ける音に混じってギュゥゥンとメーターか何かの減少する音が聞こえたのではないだろうか。

 もう黙々と肉を食べていなければやってられない。

 そんな空気を感じ取ったのか、セレスも「では私はこれで」とだけ言って元居た場所へ戻っていく。


「……異常はない…確かに無いのよ…」


「良い事じゃないの?」


 確かに良い事ではある。

 だが、それだけに腑に落ちないのだ。


「だったら、なんで雲類鷲さんだけあんな事になったのよ…?」


「無茶しそうだからねー、雲類鷲さん」


 本当にそれだけなのだろうか?

 戦闘で無茶をするだけで身体の機能が失われるような後遺症が出るものなのだろうか?


「それもあるけど、どうしてそんな状態になっててもあんな楽しそうにしてるのよ、彼女は…」


「その辺があの人のカリスマなのかもねー」


「カリスマ…? アレが…?」


 言葉の使い方が少し違うような気もするが、だいたい合っているのかもしれない。

 誰に対しても明るく元気に振る舞い心配をかけまいとする姿勢や、誰かを気遣い優しく声を掛けられる優しさ

 それらはきっと、美波には無い物なのだろう。

 だからこそ、彦乃を羨ましくも思う。


「……そうなのかもね…」


「お姉ちゃんの困り顔、いただきましたー!」


「え、ちょ?! どこから持ってきたのよそのカメラぁ?!」


 気が付けば、輝はどこからか取り出していたデジカメで美波の顔を撮影していた。

 画面に残る美波の表情は、何かを羨みながらも優しく微笑む、そんな表情をしている。

 これは当分お目にかかる事は無いだろう。


「寄越しなさいってば!」


「ダーメだよ! 印刷してアルバムに入れちゃうんだから」


「アルバム?! そんなの作ってるの?!」


 本人に許可を得ていないのだから秘密にしていて当然だ。

 作りたいから作る。

 それが輝のアルバム道のモットーだとも。


「美波ちゃん、ここ座っていい?」


「雲類鷲さん? あっちの方はいいの?」


「みんなご飯に夢中だから…というか、極上のお肉が来たんだよね…」


 向こうを見れば、確かに皆して肉が焼けるのを今か今かと狙っている。

 彦乃はどうやら美波と輝の分を貰ってきてここに居るようだ。


「はい、美波ちゃん。 あーんして?」


「え……ちょ、そんな恥ずかしい事出来る訳ないじゃない?!」


「ひゅーひゅー!」


「茶化すなっ!」


 肉の一枚を取って美波の方へ差し出す。

 労いの意味も兼ねた彦乃からの好意。

 それだけでも、美波にとっては思考回路が停止してしまいそうな程に恥ずかしい事だった。


「えー? でもホラ…」


「んん~~~…っまい! すっごく美味しいよ、お姉ちゃんも食べてみてよ!」


「えっ……そ、そこまで言うなら…」


 恥ずかしながらも口を開け、美波はなかばヤケクソになりながらも彦乃に食べさせてもらえるのを待つ。


「いただきっ!」


 大きな隙を作ってしまった所で、輝はまたしてもデジカメのシャッターを切る。

 いきなり過ぎたのでぼやけてしまっているかもしれないが、この際そんな事は問題じゃない。

 この間抜けとも取れるような表情が取れたのだから、多少ぼやけていたって問題ない。


「……はやくしなさいよ…」


「…う、うん……はい」


「んっ…冷めちゃってるじゃない……おいひぃ」


「「おいひぃ」頂きましたー!」


 まるでカップルのような熱々っぷりを見せつけている中、輝はなおもカメラのシャッターを切り続ける。

 ピピッと音が聞こえる度にカメラのフラッシュが何度も付いたり消えたり。

 かなり眩しいのは美波じゃなく彦乃も同じだ。


「あっはは……あれ?」


 そのまま輝にも肉を食べさせてあげて、いざ自分の座っていた所へ戻ろうと思った時にふと気づく。

 セレスと朱莉の姿が無い。


「……織姫ちゃん、ちょっとトイレ行ってくるね」


「うん、待ってるね」


 自分の皿と箸を織姫に預けて、彦乃はトイレへ向かう。

 セレスと朱莉の事は気になっていたが、トイレに行きたいのもまた事実。

 余計な事よりもまずは用を足す事の方が大事だ。


~~~


「ふ~…」


 まさかこの店が貸し出しているトイレが店の外にあるとは思わなかった。

 一度外へ出て別の入り口から入った所に男女共用のトイレがあるのだ。


「さって、早く戻らない…と?」


 店内へ戻ろうとした矢先、彦乃はふと誰かの話し声が聞こえる事に気付いた。

 道路を走る車や近くを通る電車の音を無視して、集中するとその声だけがクリアに聞こえるようになる。

 本当にメテオーブの与える力という物は、何をさせようとしているのだろうか。

 これではただの盗み聞きではないか。

 そう思いながらも、彦乃は聞かずにはいられなかった。


「…です。雲類鷲彦乃のルミナス分析の結果がこちらになります」


「……うわぁ、えげつないね」


 それは居なくなっていたセレスと朱莉の声だった。

 店舗の裏側で一体何を話しているのだろうか?

 仕事の話をしているのなら立ち聞きする必要はなだろうが、自分の名前が出たとあっては彦乃も引くに引けない。

 それに、えげつない、とは何の事なのか。


「こぶし大まで培養し放出した結果、光速の約半分の速度で地球から離脱。向かった先は観測によればわし座α星…アルタイルとの事です」


「感情や身体機能を莫大なエネルギーに変換してルミナスとして放出する、って所までは知ってたけど…まさか星そのものがエネルギーを賃金として巻き上げてたなんてね……培養実験やってみて成功だったね」


「社長から実験を持ち掛けられた時は何を考えているのかと思いましたが…全く以てその通りです」


「っ…」


 何か、とてつもなく重要な事を聞いた気がする。

 朱莉の事だからいくらか圧縮した言い回しをしているのだろうが、それにしたって酷い物だ。

 朱莉は以前言っていた。

 「一週間後か一カ月後か、人によって誤差はあるが目も治る」と。

 なのに、実態はバカスカ使っていたあの光の粒子は、自身を文字通り身を削って生成していて、それもメテオーブの元となる星に吸い取られていると。

 それではまるで、デブリに精神力を吸い取られる人々のようではないか。


「ここ数年で太陽の活動が3.3%低下したと報告を受けましたが、これもサンのメテオーブを持つ社長の活動記録と照合し、活動低下が確認され始めた時期と社長がスターライトへの変身を制限し始めた時期とほぼ合致します」


「お天道様も、結局はお金…っていうかルミナスが欲しいって訳ね…あんなに輝いてるのにさ…」


「社長、あれは月です」


「わぁってるよ! いちいち言わなくてよろしい……彦乃ちゃん?」


 彦乃が感じていたのは絶望から来る虚無感か、それとも盗み聞いてしまった罪悪感か。

 気が付けば、彦乃はその場を走り去っていた。


つづく

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