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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第三章 夏の思い出
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第四十話 暗闇の航空路

「…彦乃ちゃん…」


「…分かってるよ、織姫ちゃん…」


 彦乃と織姫、そして桜の三人は空港のある場所へと来ていた。

 電車とモノレールを乗り継いで、空港へほぼ直接になる形でやってきた。

 桜は初めて乗る電車やモノレールにすごく喜んでいた物だったが、ここへ到着してから桜の表情はすっかり変わっていた。

 それと言うのも、目の前の異常な環境がそうさせていた。


「自動運転で良かったよね……じゃなきゃ事故になってたかも知れない…」


「あ、さっきの運転手の人…」


 逃げ惑いあちらこちらを行ったりきたりする人々。

 その中に彦乃は、先程まで乗っていたモノレールを運転していた運転手が走り去るのを見つけた。

 運転手のそんな様子を見て二人は確信する。


「アレだよね…」


「桜ちゃんがあんな様子だし、間違いないよね……行くよ、織姫ちゃん!」


 駅のエントランスで外を警戒するように視線を巡らせていた桜は、明らかにいつもと様子が違う。

 初めて彦乃の下へ来た時と同じ、敵を探す眼をしていた。

 それに加えて暗い空。

 EFが、空港を覆い隠すように発生していると見てまず間違いない。

 デブリこそ見えないが、周囲の人々の恐慌っぷりを見るにまず間違いないだろう。

 今まで戦ってきた市街地などと比べると人が多いからか、ちょっとしたパニック映画のようになっていた。


『アルタイル!』

『ベガ!』


 二人がメテオーブに触れ、名前を呼べばいつも通りスターライトとしての姿へと変身した。

 それに合わせて、桜も戦闘形態に変身したようだ。


「……何、あれ…」


「どうしたの、彦乃ちゃん?!」


 ふと、大きな窓が気になった彦乃はそちらへと視線を向けた。

 昼の筈なのに真夜中のような闇が広がる外では、飛行機を誘導する為の誘導灯がいくつも列をなして光っているのがよく見える。

 なのに、どこか違和感を感じずにはいられない。


「すっごく…嫌な感じがする…」


「嫌な感じ…?」


「彦乃…こっち…」


 いつもなら直感で敵がどれくらい居るかは分かるものだが、今回は少し違う。

 室内にいるからかとも思っていたが、どうにも違う。

 匂うのだ。

 こう、事件の匂いがするとか言うが、それよりももっと明確に「匂う」


「臭い…とかじゃなくてなんて言うか…もっと…こう…」


「彦乃ちゃん? 何言ってるの?」


 獣の本能や蟲の報せというような、第六感を凌駕する勢いで彦乃の心臓は早鐘を打つ。

 胸が苦しくなる程に早まるしんぞうの鼓動に彦乃はその場に崩れるように膝をつく。

 倒れるまでは行かなかったが、どうにも気持ちが落ち着かない。


「彦乃ちゃん?! どうしたの、苦しいの?」


「はぁ…はぁ……ううん、大丈夫…とりあえず外出るよ? 牛頭!」


 すぐに立ち上がって彦乃は槍を呼び出して桜の待つエントランスへ向かう。

 そのすぐ後を、織姫は心配そうな顔をしながらも追いかけ、すぐにエントランスの前に立つ事となる。


「これは私の勘だけど……デブリ達はこの建物までは入って来れない気がする…」


「え、どういう事?」


 織姫が聞き返しても、彦乃は「よく分かんないけど、多分そう」としか答えられなかった。

 何の根拠も証拠も無い。

 ただ、デブリはこの建物、というか屋内に入ってくるように思えなかったのだ。


「ただ、これだけは言えるよ? 私達が安全な屋内に居るべきじゃないって事!」


 人々が怯え竦む合間を縫うように走り抜ける彦乃は、あっという間に出口の戸を開ける。

 すぐ後ろから誰かが開けるなとか正気かとか言っているのが聞こえるが気にしない。


「っ!? やぁっ!」


 外へ出てすぐの段階で、彦乃は弾丸のように飛んでくる何かを篭手で弾く。

 きちんと流れ弾の方向が先程まで居た建物の方へは向かわないよう調整もした。

 当たった感覚からして、拳銃の弾丸のようだと彦乃は感じる。

 同じように弾丸を弾いていた桜も同じように感じていたようだ。

 織姫は彦乃の後ろに居たので飛んではこなかったらしい。


「見られてるね…桜ちゃん!」


「うん…行ってくる!」


 互いを見た二人は、同じタイミングで頷くと真逆の方向へ走り出す。

 彦乃はそのまま空港の方へ、桜は引き返して道路側へと走っていく。


「織姫ちゃんは安全な所から狙撃して!」


「うん!」


 織姫に指示を出した彦乃はそのまま槍に跨って空を飛ぶ。

 以前と比べて、槍で飛ぶ速度がいくらか上がったように彦乃は感じた。

 きっと実際に測ってみれば本当に速度は向上しているのだろう。


「こっちの方から…っ?!」


 何かを感じ取った彦乃は空を蹴って急激に上昇する。

 するとついさっきまで飛んでいた場所では、爆発が起きていた。

 もしあのまま飛んでいれば、あの爆発に巻き込まれていただろう。


「……よし、こっちだけ狙ってるみたい…織姫ちゃん、援護お願いっ!」


『了解!』


 EFの所為で外は暗闇が広がっているとは言え、何も見えない訳ではない。

 それが例え、EFの端から端だろうがきっと織姫には見えていただろう。

 ベガの性能が、彼女の中でもぐんぐんと成長しているのがよく分かる。


「外さないっ!」


「織姫ちゃん、ナイスッ!」


 彦乃へ迫る「何か」を的確に撃ち抜いていく。

 それが小型のデブリだと理解するのに、そう時間は必要なかった。

 一体一体確実に撃ち抜いては爆発を引き起こしていく。


「……あれか……あ…れ…?」


 彦乃は、自分よりもっと上空を飛んでいる鳥型のデブリを見つけた。

 先程から感じていた視線も、このデブリからの物だろう。

 ただ、どうにもおかしい。

 距離感がどうにも合わないのだ。


「……やっぱり! あれで一匹なんだ! 飛行機みたいにデカいよ!」


「彦乃、彦乃! 低空まで叩き落して!」


 彦乃が感じ取った敵の全体像。

 それは、まるでジャンボジェット機のような巨体を持った鳥型のデブリだった。

 幾重にも重なる鉄の羽は風に煽られカチャカチャと音を鳴らし、だがそれ以上に風を切る音が鷹や鳶の鳴き声のようにも聞こえる。

 そんなデブリが、EFの頂上付近をグルグルと旋回しているのだ。

 まるで獲物を探しているかのように。


「うん、やってみる!」


 炎の勢いを強め、巨鳥目指して一気に突っ込む。

 途中、何度も小型のデブリが彦乃を迎撃しようと突っ込んでくるが、いずれも織姫が撃ち落としていく。

 だがどうしても、数が多かった。


「よっし、このま…まっ?!」


 デブリが突っ込んできても、織姫が撃ち落としてくれると思い無視をした。

 だが、その油断がいけなかったのだ。

 確かに織姫は撃ち落としてくれたのだが、どうにもタイミングが遅すぎたらしい。

 手を伸ばせば届くような距離で爆ぜたデブリは、その衝撃と熱を彦乃へ直接浴びせかけた。


「っぁ……っ…」


 脳を揺さぶられ、一瞬だが意識がどこかへ飛んでしまった彦乃が、そのまま空を飛び続けられるかと言われればそうはならない。

 一気に槍を握る手の力が抜け、あっという間に槍から手が滑り落ちるのと一緒に身体もそのまま落下していく。

 デブリがその隙を逃す事はまずなかった。

 落下していく彦乃目掛けて、何十もの小型デブリが襲い掛かる。

 織姫が撃ち落として行こうにも数が多過ぎる。


「彦乃ちゃん、起きてっ! 彦乃ちゃんっ!」


「彦乃! 彦乃ぉ!」


 弾の続く限り狙撃を続けながら、織姫が呼ぶ。

 通行人に襲い掛かる獣型のデブリを切り捨てながら、桜が叫ぶ。

 そしてその二人の声に答えない程、彦乃は暇人ではない。


「うぁぁ……ゴメ…ミス…うわぁぁっ?!」


 なんとか意識を取り戻した彦乃だったが、目の前の状況を見ては驚かずにはいられない。

 大きな爪が目の前に迫っていたのだ。

 まるでクレーンゲームのクレーンかのように、猛禽類のような強靭な脚が彦乃を掴む。


「うぐっ…っは…あぁぁ…」


 掴まれただけだったらどれだけ良かったことか。

 猛禽類の恐ろしい所は、嘴の鋭さや体の大きさにもあるが、その脚の力は見た目よりもずっと怪力なのだ。

 鷹匠などは、腕に分厚い皮で作った手袋などを作ってそこへ鷹を留まらせる。

 そこ以外に捕まられると、怪我どころでは済まない惨事になってしまうからだ。


「は、はな…っ?! あぁぁぁぁぁ!!」


 割り箸でも圧し折ろうとするかのような感覚で、デブリは脚に力を込めて彦乃を掴む足に力を入れていく。

 もがけばもがくほどに身体は軋み悲鳴を上げる。

 どうにか助けようと織姫が脚へ弾丸を撃ち込んでくれているが、どうにも大きすぎるからか弾丸程度では威力に欠ける。

 せっかく取り戻した意識もすぐにまた落ちてしまいそうだった。

 だが、次の瞬間には爆発音と共に彦乃は脚から解放される。


「ゲホッ…ゴホッ…お、織姫ちゃんっ?!」


『ひ、彦乃ちゃん…大丈夫…?』


 彦乃を呼ぶ織姫の声は、まるで走り込みでもしてきたかのように息が上がっていた。

 デブリからの攻撃が届かない位置から狙い撃ちしてきたのだろうが、彦乃には何が起こったのかすぐに分かった。


「牛頭! よっと…アレ使ったの?!」


『う、うん……ごめんね…彦乃ちゃん…』


 彦乃の言う「アレ」とは、織姫の扱う弾丸の一種だ。

 いつも使っているのが狙撃銃だとすれば、さっき使った弾丸はバズーカやロケット弾のような物。

 圧倒的な破壊力を持つが、それを扱うには織姫の体力を相当に持って行く危険な代物だった。

 トリガーを引いているだけで体力が削られるというのを考えるとどれほど危険な物か分かって貰えるだろうか。


『彦乃、来てる!』


「うん、分かってる!」


 桜の忠告通り、大型のデブリが大きな口を拡げて彦乃めがけて突っ込んできていた。

 改めてみるとやはり巨大だ。

 本当に飛行機が突っ込んできているかのような大きさだ。

 果たしてそんな大きさの相手に槍の一突きで勝てるのか。

 彦乃が出した結論は一つ。


「……イチかバチか……やってみる! こっちだよーっと!」


 デブリの突撃コースから脱した彦乃は、距離を取るのと同時に高い場所へと上がっていく。

 デブリもそれを追いかけるようにして彦乃だけを追撃してきた。


「よっし……ここでっ!」


 タイミングを見計らった彦乃は、槍の炎を止めて動きを止めた。

 槍を構えたままの恰好で落ちていく彦乃を仕留めるのは、デブリにとって容易な事だ。

 しかし、織姫の放つ弾丸がそうはさせない。

 的確に攻撃の邪魔をするよう狙い撃ち、彦乃を攻撃しようとする小型デブリは的確に撃ち落としていく。

 見れば、桜の方も倒したデブリから引き千切った牙や爪などの部品を投げて迎撃してくれていた。

 まぁ、あまり届いては居なかったが。


「…ルミナス一点集中……エネルギーバイパス全回路直結……射線計算…誤差修正完了…トリガーオープン…」


 槍を構えたままブツブツと呟く彦乃だったが、何もしていない訳ではない。

 槍の穂先の先端部に、全てのエネルギーを集中させて光り輝く球体が精製されていく。

 準備完了を知らせるように槍の柄の一部が変形し、銃のグリップのような物を形作った。

 勿論、そこにはトリガーもしっかりとある。


「最終セーフティ解除…ルミナス充填率100%! スターダストプレイヤー、いっけぇぇぇ!!」


 大型デブリに狙いを定め、全ての力を振り絞ってトリガーを引く。

 集中圧縮された全てのエネルギーが、ビームとなってデブリへと降り注いだ。

 それはまるで流星のような輝きと共に。

 しかし、それではまだ足りない。

 ビームの勢いにも押し負けず、デブリは彦乃へと迫って来ていた。

 足りないのだ、威力が。


「くうぅっ………こうなったらしょうがない! シューティングスターモード、行くよっ!」


 砲撃姿勢は崩さないまま、彦乃は光に包みこまれる。

 刹那の間に姿を変えて再び姿を現した彦乃は、以前のクジラの時と同じく姿が変わっていた。

 すぐさま装甲がスライドして、溢れ出したルミナスが全て槍の穂先へと注がれていく。


「出力120……150………200%! これがっ!私と牛頭のっ! 全力全開だぁぁぁ!!」


 出力を増す毎に撃ち出すビームが巨大になっていき、それはやがて大型デブリ全体を呑み込んで行く。

 全てを破壊し、戦いに決着が着いた。

 それを確信したのと、彦乃が意識を手放したのはほぼ同時だった。


「彦乃っ?!」


「彦乃ちゃんっ!!」


 薄れ行く意識の中で、聞こえてきたのは桜と織姫の声だけだった。


続く

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