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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第一章 序章
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第二話 アルタイル

「隕石ぃ?!」


「と、とにかく避難しなきゃ!!」


 空を見上げながら狼狽える彦乃たち。

 それとは違い、周囲の人々の様子は少し、いやだいぶおかしかった。

 確かに何かを呟いたりはしているようだが、総じて声が出せないでいる。

 これから落ちてくる物に対する恐怖心が、まるで彼らの口を塞いでいるかのようだ。


「…っ!」


「ひ、彦乃ちゃん?何を…」


「……おう、行ったれ彦乃」


 モールの入り口に立っていた三人。

 普通なら中に避難するのが正解なのだろうが、皆してその場を去ろうとはしなかった。

 彦乃にも至ると、竦んで動けなくなっている人々に向かって大声で叫ぶ。


「みなさん!おちついて!こっちです!こっちこっち!」


 彦乃の大きな声に気付いた人々はたどたどしい足取りではあったがゆっくりとモールの方へと向かってくるのが見える。

 最初は何事かと混乱していた親子連れや、バスを待っていて腰を抜かした老人なんかも歩いてくる。

 と、ここで彦乃はある事に気付いた。


「…これは…?」


 すれ違った人の肩がやけに煤けて見えたのだ。

 それだけではない。

 微かに黒い、灰のような粉が舞うように見える。

 彦乃にはそれが、様子のおかしい人々をおかしくさせている原因だとすぐに分かった。

 どうして理解してしまったのかという混乱など投げ捨てて、再び隕石の方へ視線を戻す。


「……来る…」


「彦乃ちゃん、戻ってー!」


「せや、もう十分やから、こっち来いや!はよ!」


 いつまで経っても突っ立ったままの彦乃を、操と織姫が何度も呼びかける。

 しかし彦乃は、その場から一歩も動かずにただ落ちてくるモノから視線が外せずにいた。

 次第に近づいてくるソレは、今になって思えばかなり大きな疑問があった。


「……遅すぎる…?」


 そう。遅すぎるのだ。

 彦乃が天文学や物理学に関する知識は無くとも、だいたいの予想は誰にでも出来る。

 目測で30mはあるんじゃないかと思う程の大きさなら、ああも遅くは無い筈だ。

 それこそ、隕石と言えば地表に近くなればなるだけ加速が加わって落ちてくるイメージが強い。

 実はまだまだ遠く、それこそ成層圏やらを突っ込んできているのかとも思ったがどうも違う。

 落ちてこないんじゃないかとも思い始めた次の瞬間だった。


「……っ!?」


 彦乃が見ている前で、その隕石は急激に加速して落ちてきた。

 場所で言えばバスのロータリーがある場所の中央にある噴水のあたりだろう。


「……あ、あれ…?…う、うわぁっ!!」


「きゃんっ!?ひ、彦乃ちゃんっ!?」


 隕石が落ちてきた上で、疑問に思う事がいくつもあった。

 まず、落ちてきたのにほとんど何も壊れていない。

 まるでこれから誰かが壊す為にわざと残してあるような、そんなわざとらしさが垣間見える。

 次に、隕石が落ちてきた時の衝撃ってかなりのモノだったと思うのだが、そんなものは一切襲ってこなかった。

 一瞬そう考えた彦乃だったが、次の瞬間には強力な突風に足を取られそうになる。

 だが、そこまでだ。

 思わず尻もちをついてしまいそうな程の突風に襲われる以外には何もなかった。

 隕石が落ちた場所以外では…


「だ、大丈夫!それより二人とも、来ちゃダメ!」


「なっ?!なんでや彦乃!」


 彦乃はなおも動こうともせず眼前にある「何か」を見ていた。

 土煙に隠されてよく見えないが、確かに「それ」は光っている。

 SF映画なんかで見た事があるような宇宙戦艦が二階建ての家一軒分くらいにまで縮こまった物のように見える。


「お願い彦乃ちゃん!戻ってきて!」


「……ごめんね、織姫ちゃん……足が震えて…動けないの…」


 振り向いた彦乃は、確かに笑っていた。

 その直後、彦乃は再び突風に襲われ、土煙の中へと姿を消す。


「そんな……彦乃ちゃぁぁぁぁん!!」





『………あ、あれ…?』


 土煙に呑まれ、目の前が真っ暗になったと思っていた彦乃だったが、眼が砂やら石で痛くない事を確認するとゆっくりと目を開く。

 目の前に広がっているのはついさっきまでの夜のような暗闇の中ではなく、もっと明るい場所だった。

 ただ、ここがどこなのかは分からない。

 見た事も無い景色なら、ちゃんと地に足が付いている感覚も無い。

 と、言う事は空を飛んでいるのだろうか?

 もしかすると、突風に吹き飛ばされて地面に叩きつけられる寸前なのかもしれない。


「ここどこ…?みんなー?どこー?!」


 周りを見渡しても、見える物は何もなく、ただただ眩しいだけの空間が広がるだけだ。

 気が付けば無意識のうちにどこかへ向けて歩いていたのにも気づく。

 そもそもしっかりと地面を踏んでいる感覚はどこにもないのだが、前へ進んでいるという事だけはハッキリと理解できた。

 目の前に、何か光る物が見えてきたからだ。


「………」


 気が付けば彦乃は、光り輝くそれを無意識に掴んでいた。

 長い棒状のソレに何故か彦乃は握り慣れた感触がある。

 初めて触っているはずなのに、それは彦乃の手に馴染むような気がした。


「…これは……槍…?」


 光がコーティングされたような状態だったそれは、彦乃が触れると徐々に輝きを散らしてその姿を現す。

 棒状だったそれは、ただの棒にしては形状があまりにも現実離れしていた。


「……えっ?!うわぁっ!?」


 光が散り、槍が姿を現したのとほぼ同時だっただろうか。

 今度は彦乃がその光に包まれていく。

 驚きはしたものの、不思議と恐怖は感じなかった。


「……アルタイル…?キミの名前なの…?」


 不意にそんな名前が頭に浮かんでくる。

 誰かが教えてくれた訳でも無く、単に思いついただけかもしれない。

 ただ一つ言える事は、直感的にこの槍の名前がアルタイルだと理解したという事だ。


「……何がなんだか分からないけど、分かった!」


 言葉にするだけだとそうでもないが、こうして文字に起こすと意味がよく分からない。


「…行くよ?アルタイル!」


 その名を呼んだ次の瞬間、彦乃を包んでいた輝きは爆ぜるように散っていく。

 光の中から現れたのは、姿の変わった彦乃の姿だった…



「彦乃ーっ!」


「呼んだ~?」


 未だに立ち込める土煙の中から声がする。

 彦乃の姿を隠していた煙が、一瞬の突風と共に散らされていく。


「……なんやの?その恰好…」


「え?恰好…?………な…なっ…なんじゃこりゃーっ!!?」


 煙の中から現れた彦乃の姿は、つい先ほどまでのラフなTシャツと半ズボン姿ではなかった。

 ファンタジーモノの近未来の巫女とかこんな恰好してるだろうなぁ、といった感じの恰好だ。

 そこに侍女っぽさも絡めてなのか、具足のような物まで履いている。

 髪も渇いた血のような赤黒い髪だったのが、鮮血のように鮮やかな赤に変わっていた。


「……(カシャカシャカシャ」


「えっ?ちょ、織姫ちゃんっ?!やめてよぉ!」


「……アンタなぁ…」


 モールの入り口で操の隣で織姫が何をしていたのか。

 携帯を取り出してカメラで何度もシャッターを切っていた。

 うるさいくらいにカシャカシャいいまくる携帯が、ちょっと耳障りに思う程だ。


「……困ってる彦乃ちゃんも可愛い…(カシャカシャ」


「ちょ、引くわー…」


「あうぅぅ~…やめてよぉぉ~」


「……後でウチにも送ってくれへん…?」


 残念、操もそっち側だった。

 携帯こそ出してはいないが、視線を彦乃から一切外さず手提げの中に手を突っ込んで何かを手探りで探している。

 きっとシャッター音が倍に増えるのも時間の問題だろう。


「っ!?」


 嫌な気配を感じ取った彦乃はふと後ろに振り返る。

 さっきまでそこにあったはずの構造物が、まるで最初からなかったかのように姿を消していた。


「………足元っ?!…ってうわぁぁ!!」


 何かを感じ取った彦乃が、反射的に飛び上がる。

 ただ、その跳躍力が凄まじかったことに、飛び上がった本人が一番驚いていた。

 建物の3階部分まで飛び上がったくらいの高さはあるだろうか。


「お、おちっ…あ、さっきのヤツ!」


 ついさっきまで彦乃が立っていたであろう場所。

 そこは今しがた、土の中から現れたワームみたいなモノに呑み込まれていた。

 もしあのままずっと立っていたなら、一息に呑み込まれていた事だろう。


「あれをなんとかしな…いとぉっ?!」


 空中でそろそろ落ちてきそうになってきたその頃、持っていた槍が突然に火を噴きだす。

 その勢いは凄まじく、彦乃ごと上空へと持ち上げていく。

 アニメなんかでバーニアを吹かして上空へジャンプするロボットなんかはよく見かけるが、それをこの槍一本でやっている感じだろうか。

 彦乃はそれに捕まってぶらさがっているような感じだ。


「……そうだっ!」


 上昇し続けていた彦乃が、急に槍を回して穂先を下へ向ける。

 そうればおのずと噴出している炎は上を向いて、彦乃を地面へ向けて落ちる以上の推力を生み出す事となる。


「このま…まぁぁ!!?ちょ、止まってぇぇ!!」


 足元でウネウネとしながら彦乃を追いかけようと身体を伸ばしてくるワームに、一直線で突っ込んでいく。

 その軌道が安定しないのは、単に彦乃の実力不足だからだろうか。


「わぁわぁあぁぁぁ!!」


 武器に振り回されながら落ちて行った彦乃は、大きな悲鳴と共にその槍をワームめがけて突き刺す。

 あっと言う間に距離がゼロまで縮まった彦乃に、切り裂くとか回避するとかの選択肢はなく、ただ槍の導くがままに、鉄のようにも見えるワームの身体へ槍を突き刺した。


「こん…のぉおおぉぉぉ!」


 槍が更に火を噴くのと同じく、彦乃も力を込めてワームを押し潰しに掛かる。

 最初こそ抵抗していたものの力押しに負けたらしく地面へ叩きつけられ槍に串刺しにされる。

 血液のような物は流れ出たりしていないあたりから察するに、ロボットの類であるかもしれない。


「んっ……よいしょっ!」


「彦乃ぉ!」


「彦乃ちゃん!」


 槍を引き抜いた彦乃の元へ、大慌てで織姫と操が駆けつけた。

 ついさっきまでカメラを取り続けていたのか、二人の手にはカメラが握られている。

 それとほぼ同時だっただろうか?


「あれ?空が…」


「明るくなってく…?」


「……せやな…」


 今の今まで夜のように暗かった空が、まるで雲が風に散らされて晴れて行くように昼の日差しが戻ってきた。

 それと同時に、倒したワームが光の粒子のようになって風と共に消えて行った。

 ただ、もう一つ消えていった物があった事を織姫は決して見逃しはしない。

 なにせ目の前で目撃していたのだから。


「彦乃ちゃん……ごちそうさま!」


「お、織姫ちゃん!鼻血出てるよっ?!あと撮らないでっ!」


「彦乃!服っ!服ぅ!!」


 二人が見た姿とは。

 彦乃の服も暗かった空と同様に光に包まれて消えていく。

 ただ、その下にはいつもの服装…という訳には行かなかった。

 下着どころか髪を結っていた輪ゴムすらも消え去ってしまうという謎現象により、彦乃の服が全て消え去る。

 だが、それも一瞬の出来事だった。


「な、なんじゃこりゃぁぁ…って、アレ?」


「………ぐぬぬぅ…」


「な…なんやったんや今の…?光の悪戯とかそんなアレか…?」


 操の言うとおり、光の悪戯か何かなのか、彦乃の服はすぐにいつもどおりのラフな格好に戻っていた。

 織姫だけがやたらと残念そうな顔をしていたが、きっと彦乃は気付いてすら居ないだろう。




「……はい、ユニットの破壊には成功しました。ただ、遂行中に面白い物を発見しまして…」


 駅の構内、その物陰から電話で話す、一人の女性が居た。

 普通に何事も無く、移動店舗が敷いているテーブルの一つに座っておやつにケーキを食べながら電話をしていた。


「もごっ……もごごごごっ…」


 天然でやっているのか、それともボケを狙ってやっているのか、ケーキを頬張ったまま電話の応対をしているようだ。

 だからか、電話の向こうから誰かが怒鳴っている声が聞こえるや否や慌てて口の中身を呑み込んで謝ったりしている。


「す、すいません……で、ニュースですが、新しいスターライトが見つかりまして……えぇ…」


 一体、この人物は誰なのか。

 それはまだ秘密としか言えません。

 ただ彼女もまた、数奇な運命に魅入られた少女の一人、なのでしょうか。   続く

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