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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第一章 序章
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第一話 初めの第一歩

「んん~~っ!今日もいい天気ぃ!」


 いつもと同じく朝日と真正面から向き合って元気いっぱいに伸びをするのは彼女の日課だ。

 そんな少女の名前は「雲類鷲 彦乃」。苗字はこれで「うるわし」と読む。

 実在しそうでしなさそうに思えて、実はそこそこいるという難読な苗字を、彦乃は実は結構気に入っている。

 元は茨城県に多く見られた苗字らしいことは知っていた。

 なにせ父親の実家が茨城県にあるのだから。


「さって、お爺ちゃんを起こしに……あれ?」


 窓から身を乗り出して朝の陽ざしを浴びていた彦乃。

 周囲を囲むように立ち並ぶ木々がそよ風を彦乃に集中させるかのように揺れる。

 その視線の先では、家の敷地内にいつの間にか入り込んでいたらしき子犬の姿があった。

 生粋の柴犬なのだろう、茶の整った毛並みを持つその獣は困ったように庭をウロウロとしている。

 見れば首輪もあるではないか。

 と、ここで動いたのは彦乃だった。


「コロちゃん?!なんでウチに居るの?倉田さん心配してなきゃいいけど…」


 首輪の柄と毛並みだけでどこの誰かを言い当ててしまう。

 そう、これこそが彦乃の数少ない特技「イヌ暗記」である。

 まぁそれっぽく言ってはみたが、ただ単に犬が大好きだから自然と覚えてしまったというだけだ。


「ほらほらおいでー?よぉしよしよしよし…」


 窓から裸足のまま飛び降りて、コロの近くでしゃがんで移動を促すようにおいでおいでと手招きする。

 以前からその方法で呼んでいたのを知っていたのか、コロはよてよてとたどたどしい足取りで彦乃の所まで辿り着くと甘えるように頭を彦乃の足に擦りつけてくる。

 彦乃もそれに応えて、ひょいっと抱えてやるとどこかの動物好きな人みたいにひたすら撫でて褒めまくる。


「あぁっ、こらこら…ってちょっと?!どこに顔突っ込んでるのっ?!」


 驚くのも無理はない。

 暫く彦乃の手を舐めていた次にコロが顔を突っ込んだ場所、それは彦乃のだらしなくはだけた袴から覗く胸の谷間だったのだから。

 やれやれとんだエロ犬だいいぞもっとやれ。


「あひゃひゃっ!くすぐったいぃ!……うわぁ…下着にまで涎付けちゃってるし……ま、着替えるからいいんだけd」


 彦乃がそこまで言ったその時だ。

 庭の向こうからジャラジャラと、まるで神社のアレを鳴らしたような音が聞こえてくる。

 説明し忘れていたが、ここは神社なのだ。


「誰だろ…?あ、倉田さんかな?探しに来たとか、あと見つかりますようにって…」


「あ、彦乃ちゃん!おはよう」


 表へ出ると立っていたのは、彦乃が思っていたのとは違う人物だった。

 白いワンピースに麦わら帽子を被って小さなカバンを提げている少女を彦乃はとてもよく知っていた。

 琴羽 織姫、彦乃のクラスメイトであり幼馴染の少女である。

 親はとある会社の社長と、文字通りのお嬢様だったりする。

 彦乃も遊びに行った事はあるのだが、世話係の夫婦との三人暮らしにしては家が広すぎるのではないかと思う程なんだとか。


「織姫ちゃん!おはよう!あ、そうだ織姫ちゃん?」


「なぁに…?!い、犬っ?!」


 織姫と呼ばれた少女が視線をほんの少し下げると、そこには彦乃の腕に抱かれた子犬の姿があった。

 それを見た織姫はいきなり数歩後ずさる。

 コロが可愛く吠えれば、またその分だけ後ろに下がる。

 そう、彼女は犬が苦手なのだ。


「うん。倉田さんとこのコロちゃん。多分迷子になってたんだと思うんだよねぇ」


「へ、へぇ…そうなんだ…」


「ちょっと届けてくるからさ、社務所の方でお茶でも飲んで待っててよ。それじゃ!」


「あ、うん…」


 それだけ言うと、彦乃はそのまま鳥居を抜けて街中へと姿を消していく。

 織姫はそんな彦乃を見ながらある事を考えていた。


「……彦乃ちゃん、裸足で行っちゃったけど大丈夫かなぁ…」


 窓から身を乗り出して一目散にコロを助け、そのまま織姫と会いあっと言う間に飛び出していく。

 この動きの間には靴を履くと言う動きが全くなかったことに、はたして彦乃は気付いているのだろうか?

 その答えはすぐに分かる事となった。


「……あ、彦乃ちゃん帰ってきた…」


「あっついあっついあっつぅぅぅうい!!」


 暫くして帰ってきた彦乃は、涙目になりながら神社の石段を駆けあがってきた。

 ピョンピョンとスキップでもするように飛びはねているのと彼女の言動から何があったかは想像に容易い。


「おかえりなさーい。熱かったでしょ?梅雨明けの日差しに焼かれたアスファルトは?」


「ただいまー!熱いなんてもんじゃないよあれは!やけどしてないかな?」


 玄関口で彦乃を迎え入れた織姫はクスクスと笑いながら彦乃の傍に座る。

 どうやら相当にアスファルトが熱かったらしく、彦乃の足の裏は腫れてこそいないが赤くはなっていた。

 大慌てで飛び出していくからこうなるのだ。


「途中で気付いてたんだけど、その頃にはコロちゃん先に届けた方が早かったからねー。うぅ、ちょっとヒリヒリするー…」


「ふふっ、薬箱取ってくるね。どこに置いてあるの?」


「居間の一番大きいタンスの引き出しの中~」


「はぁい」


 そんなやりとりをして玄関の奥に織姫が薬箱を探しに行った、その直後だっただろうか。


――ミツケタ…――


「…?」


 うっすらと、誰かの声が聞こえた気がした彦乃は玄関の方を振り返る。

 だがそこには当然の如く誰もおらず、声など聞こえるはずもない。

 日曜日だからか遠くの方から子供たちが笑う声は聞こえてくるが質感はまるで違う。

 まるで獲物を見つけた狩人のような、押し殺して聞こえにくくしたような声音だった。

 まぁそれ以上聞こえてきたわけでも無い為、彦乃はそれ以上気にする事は無かったが。


「彦乃ちゃーん、消毒してあげるからこっちおいでー?」


「あ、はーい……気のせいかな」


 織姫に呼ばれて彦乃は居間の方へ歩いて行く。

 きっと彼女には、大きな転機が訪れる事だろう。


======


「――よかったね、火傷までなってなくて」


「せやで?こうやって歩けてるんやから大丈夫やって。やから落ち込むなて、な?」


「うぅぅ……雲類鷲彦乃一生の不覚…」


 あれから暫くして、彦乃たちは近所にある大型のデパートへやってきていた。

 そもそも織姫が来ていた理由も、彦乃へここに行こうと誘いに来たのが理由なのである。

 3階建ての大きなショッピングモールで色々な店が所狭しと並んでいる。

 最近になってほぼ同じ規模のモールを新しく隣接してその規模は更に広くなっている。

 日用品がなんでも揃うのがウリなスーパーから有名なブランドチェーンもあれば果ては映画館まで備わっている。

 駅とも隣接していて交通の便は整えられている。

 昔はひっそりとしたものだったらしいが、十年ほど前に心機一転を狙いモール部分の全てを建て替えていたりするらしい。


「ところで……鵠戸先輩?」


「ん?なんやいきなり余所余所しい呼び方しよって…昔みたいに「みさおちゃん」呼んでええんやで?」


「それはいいとして…私、貴女を呼んだ覚えはないんですけど…?」


 彦乃の隣を歩く金髪の少女。

 名前は「鵠戸(くぐいど) (みさお)」という。

 彦乃たちの通う学校の先輩であり、二人の古くからの幼馴染と言う奴だ。

 頼れるお姉さんのような存在なのだが、今の織姫的にはちょっと邪魔に思っている。

 何も敵視している訳ではないのだが…


「そうなん?ウチは可愛い後輩が二人も、人ごみだらけの所に行こうとしてるのを見てボディガードを買って出ただけやで?」


「おぉぉ…さっすが操ちゃん!なんかカッコいい事言ってる…」


「そんな事言ってても…そのにやけ顔どうにかしないとバレバレですよ…?」


「お互いにな?……高1にもなって二人で今もこうして手なんか繋ぎよって…」


 そうぼやきつつ織姫と彦乃の手に視線を向ける。

 昔から仲良しな二人は、こうしてよく手を繋いで行動している事がある。

 彦乃は特に思う所もなくニコニコしながら一緒に歩いているだけなのだが、織姫の方には「だけ」では片付けられない程数々の思惑があった。


「……?どしたの、二人とも?怖い顔しちゃって………ケンカ…?」


「えっ?!あぁ、ちゃうちゃう。織姫にちょいと気になった所あったんやけど聞けんくて…きっかけくれてあんがとな。織姫、ちょっち動かんといてな…」


「は、はい?」


「なぁに……ほれ、ゴミついとったで?」


 そう言って織姫の顔に触れる操だが、実際彼女は何も取ってなどいない。

 織姫もそんな事は分かっている。

 彦乃が二人の間に入って緩衝剤のような役割を果たしているのだ。

 よく夫婦喧嘩していた二人を見て子供が泣きそうになると慌てて子供を宥める親を見かけるが、つまりはそういう感じなのだろう。


「あ、ありがとう……そうだ彦乃ちゃん。一階のフードコートで何か食べよ?」


「うん!操ちゃんもそれでいい?」


「ん?ええで?丁度腹減っとったしな…何がええかなぁ…」


 このモールは一階部分に大きめのフードコートが設置されており、昼飯時には家族やカップル、友達やらでかなりの人数が所狭しと座る。

 たまに席が足りていないんじゃないかとも思うが、実際の所はどうなっているかなんて知る筈も無い。


「どれにしようっかなぁ~…」


「今まだ3階やのにもう飯の事で頭いっぱいかいな…」


「それにしても、今日はやけに人が少なくないですか…?」


 織姫の疑問は最もだ。

 いつもなら人々で賑わっているはずのモールだというのに、今は店員以外だと数える程しか人とすれ違っていない。

 いくら通路だからとはいえ、同じタイミングでどこかしらの店に皆押しかけていると言う事もないだろうに、だ。

 しかしその疑問はすぐに晴れる事となる。


「あ、掲示板が動いてる」


「何々…?特大流れ星を観測ぅ?!昼間やのにか!二人とも、行くで!!」


「は、はいっ!……流れ星…?」

 操が顔色を変えて二人の手を引く。

 そう、彼女は星々を観測するのが大好きなのだ。

 キラキラ光る夜空の星を、大きな望遠鏡から覗きこんで一喜一憂したりロマンチックな思い出に浸る。

 操はその手の物に生き甲斐を感じている人間の一人だったという訳だ。


「面白そう!織姫ちゃん、行こう?ねぇねぇ!」


「う、うん…だからそんなに引っ張らないで…」


「どうしたんや織姫?元気ないなぁ?」


 操がワクワクした瞳のまま織姫を見つめる。

 それに「なんともない」とだけ返した織姫ははやる二人になんとか歩幅を合わせようと必死に付いて行く。

 エスカレーターを一階まで駆け降りて、出口から外に出れば駅前広場が広がっている。

 バスのロータリーも兼ねていてバスを待つ人々がバスを待っている。

 だが、今日は少しそこにいる人たちの様子がおかしかった。

 彦乃たちも外へ出てすぐにその原因が嫌でも目の前に飛び込んでくる。


「なんやこれ!?昼飯前やぞ!?」


「だよね!なんで夜みたいに暗いの!織姫ちゃん?!」


「わ、私に聞かれても知らないよぉ!」


 目の前にはいつもと変わらない風景が飛び込んでくる。

 バスが行き交い大量のハトが行ったり来たり。

 電車はタイミングがそうだったのか見かけなかったが駅前広場の噴水が水飛沫を上げて今がどれくらいの時間なのかを教えてくれている。

 小さな子供は暑くなり始めたこの季節だからなのか、周囲の状況などお構いなしに噴水の周りではしゃぎ回るが、楽しんでいると言うよりは慌てているように見えた。

 様子がおかしいと、きっとこの場に居る誰もがそう思っている事だろう。

 なにせ「周りが夜になったかと思う程に暗かった」のだから。

 時間で点灯するよう設定された古い街灯は機能せず、ショッピングモールと駅からの光だけが周囲を照らす。

 センサー式の街灯なども付いているようだが、どうにも暗かったのだ。


「うっわぁ……なんやこれ…日食か?」


「いえ、日食でもこんなに暗くは…」


「っ!ねえ、あれ何?!」


 彦乃が指差す方向に、二人して視線を移すとそこにはまっすぐこちらへ向かってくる何かがハッキリと見て取れた。

 最初こそ単に何かが光っているだけだろうと思ったが、どうやら少しづつこっちへ近づいてきているらしい。

 肉眼で見ていても分かる程にそれは煌めきを強くしながら徐々に動いているのが見て分かった。

 飛行機とかが光っている訳でも無ければ、そこに何か光る仕掛けがあるわけでも無い。

 はるか上空から何かが近づいてきているのだ。


「隕…石…?」


 織姫の予想はきっと正しいだろう。

 そしてその答えはすぐにでも訪れる事となる…  

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