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どうやら、俺はエンディングに介入する様です。

月の少女は、一人、

暗闇の中、考える。


知っている事を頼りに、


知らない事を、恐れながら、


でも、それは仕方の無い事だと知っていても、


月の少女は考えを辞めない。


『Light.and.dark〜太陽と月の兄弟~』



そう名付けなれたゲームのエンディングに置いて、その結末は一つだけだった。


ーー ハッピーエンド、


主人公達は、最良の結末を迎える。

彼等の行動次第で、多少のイベントの差異はあれども、大まかな筋書きは変わらない、


主人公が、出会いと別れを繰り返し、15歳と若いながらに成長する。


そんな有り触れた物語、言い換えたならば一言で表せる。


『王道』と。



今マサト達が迎えている状況も、ゲームの物語においては『最終話』


最後に主人公が自身が助からない、と踏んでその覚悟を胸に秘め仲間を助ける、

海上を飛空する魔王城と共に、海の藻屑(もくず)になったか?に思えるが、結果としては。


その一月後…あの森で。


マサトが好きだった場所、キールとのーー 出会いの森。


そして、レオンが、マサトに己が過去を吐露(とろ)したーー 友情の森


そして、ナターシャと出会った森もまた、その胸に秘められた想いを告げたーー恋の森。


もしかしたら、この世界においては少し違うのかも知れない。



だが、俺の知る限りその場所は、彼らがそれぞれに特別な場所だったのかも知れないと、そう思った。

彼等にとってはマサトの事を想える、そんな場所だったかに思えた。


この世界の始まりの大樹のお膝元、その樹海の前半部分に位置する(ひら)けた空間。

その場に魔王を倒した’‘英雄のマサト’‘の墓が建てられた。


基本的に四人以下のパーティだが、ゲームにおいては最大6人。


その定められた枠の中に、入れ替わり立ち代わり、シナリオに関わる登場人物であるNPCが入っていた。

時に村人、或いは鍛冶屋、またある時は商人、ある時は騎士、そして、何処かの国の王属。


彼の物語を彩って見せたその登場人物だった彼等は、王都の中央広場に建てられたマサトの銅像の前で追悼式を行うのだ。


いまだに、魔王の最終決戦時の王都の被害から復興を迎えては居ないながらにも、時の王の手腕によって真っ先に完成を急がれたソレは。

その偉大な大きさにも関わらす、完成まで僅か一か月と言う、驚愕の速さで式を迎えた。


強力な魔物が道中出るかもしれない、彼等の『思い出の地』には行く事が叶わなかった人々が多く、そう言ったが為の措置だったのかもしれない。



ーー ゲームの続編を発表した際に、製作者さんらのコメントでは、マサトの世話になった鍛冶屋が頑張ってくれた。と言う事らしい。

銅像を建築している様の挿絵なんかを、創作で描いてるゲームファンも居て嬉しかったとも、語って居た。


そうして、それぞれに主人公マサトの居ない一月(ひとつき)を過ごし無事に迎えた式終わった。その後に…。








丁度その日は、式が終わってから数えて一週間後の時の事だ、レオンとナターシャ、そして私事(ボクこと)キールは。

久々に、平和を取り戻しつつある王都の街の一角に位置するギルドで、食事を取って居た。

それぞれが思うままに旅立つ前の、元居た生活に戻りつつも多忙な時を過ごしていた。


私が賢者として、世界の遺跡を探求する旅を続行!…と言う訳では無く。

首都の魔術の研究の盛んな地で、文字通りに缶詰になり。


レオンは、己が領地に帰って治安維持などに、その力を役立てている


ーーー だが…ナターシャは…。




そんな皆が思い思いに過ごしている最中、私が久し振りにと会食の提案を持ちかける手紙を送った。

決して書類の山が嫌になってしまったのではないと、私の名誉にかけて告げておこう。

息抜きがしたいです、などと私は決して言わなかった。うむ、決して。


そうして行われた、何時ものギルドでの会食では。この一か月の事を話し合って楽しい空気が流れて居たかに思う。ただ一人の聖女と言われた彼女を除いて。


最初はその様な感じだった、気づけば旅の思い出を話を皆が避け、これからの事や今の事なども話していた。

時に私は、レオンに恋人出来たか〜?などど、軽口を叩いて居たかに思う。




そうして時が流れて、食器の音だけが彼等の間に聞こえる様になった頃。

賢者と騎士は互いに同じ事で悩んでいた…どう切りだそうか…と、パーティのムードメーカーとも自負していた、賢者のキールでさえ’‘彼’‘の事に関する話題を出すのは二の足を踏んでしまっていた。


何故ならナターシャの想いを、彼等は皆…知って居たから。

何よりも、彼女が久しく会ったにも関わらず、極めて静かだ。


パーティを組んだばかりの頃は、マサトの悪ふざけに怒りを見せ、魔王の犠牲となってしまった者達を想い涙し、それでも、彼女は気丈に微笑んで見せていた。

聖女としての微笑みの仮面を被っていた。だが、この場にいる自分達の前では、その仮面もいつの間にか、消えていたかに思う。


マサトと関わっていた時には、花が咲いた様な笑みを浮かべていた。

そして、時には腹を抱えて笑う事も有った。


だが、それも今は見る影もない、何故ならなどと言うまい、その答えは明白だ。

その答えは、私も彼女程で無いにせよ同じなのだから…


レオンもきっと、この気持ちに近しい想いを抱えているのだろうか…、


ーー 違うと、幻聴が聞こえた気がした。


彼との性別に違いは有れども、この気持ちは…きっと、いや、そうだ、レオンの様に、戦友としてだ。


ーーまた、違うよ、と聞こえた気がした。


ナターシャの恋慕と比べた時に、どちらかと言えば、レオンの方に近いのかもしれない。きっとそうだ。


胸に刺す棘の様な痛みに、誰かの声に、そう『自分に』言い聞かせ…押し潰そうとした。


でも、それでも彼女の姿が、有り体がとても羨ましい、と頭の中で誰かが言った気がした。


その頭の中の誰かと共に、気持ちに再び蓋をして。改めて此処に居ない彼の事を思う。


思ってしまえば、考えてしまえば。

彼の存在は自分達にとっては、かけがえのないモノだったのだろう。

何時も傍にある事が当たり前になっていた存在。それはまるで『太陽』の様に。


もしも、彼が生きて居たのならば、蓋をした物が溢れない様に気をつけて置かねば、

そうでないといけない、いけないのだ。



何度か目の…そんな束の間の静寂に、そろそろ『彼』の事を切り出そうかと決意を決めた時、それは起こった。

ナターシャが、大きな声で叫んだのだ。


彼女はテーブルに広がる食事を、ひっくり返さん勢いで両手を叩きつける。鈍器の打つ音が室内に響き渡った。


ーーー皆!マサトの事、忘れてしまったのっ!?



ーーーどうして?どうして彼の事を、誰も言わないの!?



ーーーーこの街の、いいえ、この世界の何処でだって、きっと彼の…マサトの事で持ちきりよ!?



ーーー今や彼は!、そして私達は!英雄と言われているのよ!?


ーー 聖女だって、レオンも光翼の剣聖だって、キールも瞬転の賢者だって…


俯きながらも声を荒げ続けるナターシャを、自分達は眺めているしか無かった。

尚も彼女の独白は続く。


ーー 彼だって!


ーーでも、例え見ず知らずの人からみて私達は英雄だったとしても、


ーー 成し遂げた事『だけ』を知っていたとしても、


ーー 私達の事を本当に知っているのは、仲間だった私達だけなのよ!?


だった、と彼女は言った。

人の目が多いこの場に置いて、その部分だけを切り出して聞いた場合、今は仲間で無い様にも聞こえてしまいそうな、そんな危険を孕んだ言葉は、自分達に向けた言葉の様で、何処か違って聞こえた。


だった…、

その言葉に含まれてしまった悲しみ、この場に居ない彼と自分達へと向けた…その言葉の中に。

彼女の苦悩が見え隠れしていたかに思った。


だが、その言葉の部分だけを自分達に伝えたかったのでは無い。


本当のマサトと言う人物を知るのは、私達。ココが重要なのだと。

彼女の様子からも分かる。




お昼時の人が多い酒場にもかかわらず、彼女はその想いの丈を叫びあげた。力の限り叩きつけたであろう小さく折れてしまいそうな両の拳は、何処か切ってしまったのだろう、血が滴っている。


両手の痛みなど忘れているかの様に何度も、拳を振るいながら声高々に思いの丈を叫んび、その言葉の数々は悲しみに満ちて居た。


ナターシャは、修道女だ、

普段の彼女なら、ココまでの激しい感情は、あまり公には出さない。

微笑みのかめんを被り、本当の気持ちを隠している。


そう言えば、マサトや仲間達には言う事ははっきりと言う素直さを見せて居た。仲間以外と話す時には、聖母もかくやとして居たっけ。


いわば公的な場では、物腰柔らかな丁寧系!猫を被っているツンデレ女子。逆を言えば、それだけ体面を気にする人なのだ。彼女は



そんな彼女から溢れた激情に、

誰もが訪れて来る様な、上流階級御用達でもなんでもない民間のギルドの食事所の、その一角に在わす『魔王を倒した英雄達の食卓』を遠巻き見つめる人々を仲間達だけでは無く目を丸くしていた。



そうして、最後(しまい)には、


ーー皆と会えば…皆と会えば…きっとと思ったのに。


そう譫言うわごとの様に呟きつつ、床に涙ながらに崩れ落ちた。



酒場のマスターから、静かな視線を向けられて来た。

普段から口数は多くない彼だったが、今回ばかりは彼の立場だったら仕方ないだろう。


分かっていると、意思を伝える様に彼に頷いて見せた。

レオンとキールは、彼女に気を使っていたつもりが裏目に出てしまったらしい。慌ててナターシャに謝ると、傷ついた彼女の手を取った。




そんな中、ギルドの酒場に一人の幼い少年が訪れた。

酒場を見回しカウンターに目を向けた。


すっかり静まり帰ってしまった酒場の中で、少年の足音とナターシャの啜り哭く声だけが聞こえた。


酒場の主人マスター、いやギルドマスターの男が、少年に問いかける。


ーーー どうした、親は?依頼か?と、


少年は筋肉モリモリで熊を思わせる程の大男のギルドマスターに、少し怯えながらも小さな手を懸命にカウンターの上へと伸ばした。手には右ポケットから出した。一枚の紙切れが有った。


ギルドマスターは、その紙を受けると、すぐ様目を通して再び彼等3人の方に視線を向けた。




三人に呼びかけると、依頼だと一言告げ、彼等は一瞬お互いに見つめ合って、再び視線を戻した。

今度は少年へと。


ナターシャが、涙を(ぬぐ)いつつスカートを軽く払って立ち上がると、


ーー恥ずかしい所を見せてゴメン


と皆に詫びた、少年から依頼書を受け取ると、レオン、キールも揃ってナターシャの手元を覗くと、



マスターが一言で言った。



『英雄さんのお墓まで、護衛して。』そんな内容だった。


そこで、彼女らは『彼』と再開を果たす。



森を抜ける直前、思い出の広場に人影が見えて思った。

先客が居る様だ、と

前衛でいち早く気づいたレオンが、そう後衛ニ人に語りかける。


元々、この森には宗教的な考えを持っている人も入り口付近まで訪れ、神域と定められた樹海の奥深く以外はそれなりに人が訪れていた。


魔王が放った魔物達も神域までは立ち入る事は叶わず、今はエルフや精霊達によって、駆逐活動が行われ始めてる。


そして、



樹海の中でぽっかりと空けたその場所に佇む、人影。


小さな身体では茂みで見えにくい少年は、レオンの肩を借りて、皆と同じ様に遠くの人物を覗き込む。


その後ろ姿を彼等は知っていた、少年を除いて。皆が驚愕の表情を浮かべる。



ナターシャが、キールが、少年を肩に乗せたレオンが、駆け出して行く。



勇者一行の最後の1人、太陽の勇者の元へと。




………そして、『画面はエンドロール』へと切り替わる。


そんな、どこか物語で有り触れた様な内容のエンディングだった筈だ。


だが…どうしてマサトは、無事だっだのか?、ソコが、詳しく分かって居ない。



いや…



『Light.and.dark〜太陽と月の兄弟』の続編で、マサトが物語の途中でナフティアと、初めてゲーム上で出会った際、


「貴女はっ!」と言ったり、その時ナターシャを見てナフティアは、人差し指をたてるシーンが有ったり、

関わっている様な描写が、有った様な……。



そこまで考え思考を中断する。





そして、




俺は、暗黒銃を正面に構えた。



時間は無い、




画面越しで見ていたのとは違い、実際に人の命に関わる。



………



『ナフティア、……もう一度、男の姿に戻り、ココから脱出してください。』



…………



そう『月下美人』アメリアは言った。


そのやり方を、私は不思議と知って居た。


それは前世で、画面越しで見ていたからか、


この法衣とマフラー、そして羽衣を持っているからか、



それとも、この身体になる前に、実はナハトが陰ながら行っていたからなのか、


初めての事なのに、初めてじゃ無い、そんな不思議な感覚。


先程この螺旋階段まで来る過程で、味わった感覚に似ている。


ナフティアは、剣と銃が合体した様な暗黒銃を正面に構えると、目を閉ざし優しげなソプラノボイスで歌う様に詠唱する。



ーー『月の巫女の名の下に』


すると、白い月の紋様が描かれた魔方陣が、彼女の足元に現れると、透明な壁が魔法陣から発生する。


ーー 『慈愛と狂気を秘めし、その輝きの元』


ナフティアの露出した肘から肩にかけてに、引っかかって居る羽衣が、しゅるしゅると一人でに動き、空中に浮かぶと、壁の内側を渦を巻く様に大きく戸愚呂(とぐろ)をまく。


ーー 『我に、その輝きの一端を貸し与え(たま)え』


詠唱は、滞る事無く唱える事が出来た。

これで良いはず…と、魔力など未知の感覚だった筈の前世の自分が、初めての『魔法』を行使した。


ナフティアは、最後の一文を唱え暗黒銃の引き金を引く。


その『魔法』の名は…


ーー 『変身(メタモルフォーゼ)



羽衣が大きく伸びナフティアの全身に巻きつくと、魔法陣から光の柱が立ち上る。


そして、内側から銃声がすると、ガラスの割れる様に魔法陣と壁が消える。


そこから現れたのは、




紫の短髪、猫を思わせる、赤い縦の瞳孔の双眸。

闇の中に浮かぶ様に真っ白な肌に、口許を隠す様な膝までの続く黒いマフラー。


赤い装飾された、一見軽装な黒い鎧、


身長は170センチ前後まで伸び、黒と紫のサーコートを羽織って、黒のジーンズに黒いブーツ姿の男性。


『ナハト』である。



『ダッシュ』


小さくそう唱えると白い魔力を纏って、ナハトは、螺旋階段から空中に身を投げだし、瓦礫を足場にしつつ、空中を駆ける。






(マサト)の元を目指して。






こんばんは、サルタナです、


一年程更新を停止して居たこの作品ですが、


なんと、先日、200ポイントの評価を、頂きました!!


その事に気づいたのは、お恥ずかしいながら、つい先程と言う。


こんな作品を評価して頂き、誠に、誠にありがとうございます。


今後も、この作品を手にして頂けるよう、頑張らせて頂きます、


さて、前回の更新で、ナハトの視点も入れますよー、と言って居たにもかかわらず、あまりそう言った感じに、出来たか不安な状態では有りますが、

なんとか、少しでも描けたかな、と思います。


誤字脱字、物語の違和感など、読んで居て変だと思ったら教えて頂けますと幸いです。



物語の違和感が、実は、伏線かも知れませんが……

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