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どうやら、何か落ちて来た様ですよ?

一雫の水が水面に波を起こす様に、

その『きっかけ』が起きた。



その時、大きな揺れが2人を襲った。


月下美人の姿に()()()が走り、生憎不慣れな身体では、その衝撃に堪える事が出来なかった俺は、体制を崩し地べたに座りこんでしまった。


「きゃっ!」


『ナフティアっ!』



今の衝撃が始まりだと言わんばかりに、少しずつ天井が崩れ月明かりの覗いた天窓に亀裂が入った。


『どうやら…余り時間が残されていない様です』


『あの子が…魔王を打ち倒した様ですね………小さな月光精達よ…後少しだけ耐えて下さい』


俺の体感では、先程のナハトとの戦闘から、然程の時間が経って居なかったと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。

魔王が座する、この城の王座は満映する奴の魔力によって、特別な空間になっている。宛ら亜空間と言った仕様だった筈だ。外からの干渉は殆ど許されず。時間の流れもまた特殊だった筈だ。

もしも仮に城全てが破壊されたとしても、王座は無事だろうと言った感じらしい、


そのことが何か関わりがあるのだろうか…、それとも…主人公であるマサトの率いるパーティが、そこまで強かったのか…、そのいずれかだったのだろう



『ナフティア…、よく聴いてください、この城にはもう…余り時間が残されて居りません』


天井から、小さなカケラの様なモノが降り注ぎ、少しずつではあるが床が軋みあげている。

月下美人の言う通り猶予は、余り残されて居ないだろう


恐らく…では有るが、今の月下美人の姿を投影して居るのは、月の光の魔力と月光の精霊の力、


人間の肩に乗れる程度の大きさの精霊が寄り集まって、月下美人の姿の映像を作り出してるのだろう、


天井が崩れて来た事に怯えた様子の精霊達が、月下美人の背後から光の玉の様な小さな姿で現れてた。

5人程だろうか、彼女達が月下美人をこの場に投影してくれて居たらしい。

最初のナハトの姿の時には、見る事の出来無かった、彼女達の姿。小さな白いワンピースをその身に纏って居た。


『無理をさせますね、すみません…』


その月下美人の言葉は、小さき彼女達に向けたものだ。


『良い子ですね…』


彼女達に、月下美人が小さく微笑みかけた。

幼い姿の彼女達が、何か言っているのだろう、ちょっと羨ましい…。


…ん?羨ましい?俺、そんな奴だったっけ?


『ナフティア…再び、男の姿に戻り、その力を使ってココから脱出して下さい、……そして、月の神殿へ来て下さい』


こちらに再び、顔を向けた月下美人は、真剣な様子で語りかけてくる。

その様子に沈みかけた思考を切り替える


「はい」


ゲーム時代にも見た、月下美人の月下美人たる表情に、どこか…もう大丈夫そうだな…と、胸を撫で下ろした。


月下美人が、片手を床に落ちていたナハトだった頃の装備や、その旗印トレードマークとも言われた。

『紫のマフラー』に向けて、手をかざすと青い光の球体の様な姿を形作り、俺と月下美人の間に浮かび上がる。


『そして、貴女にこの《チカラ》を授けます、きっと、貴女の助けになる筈です』


その言葉が終わると共に、ナハトの身体も青い光に包まれた。

どこか先程の温かみを感じる力に、こんな状況にも関わらず安心感を覚えた。


俺の身体を覆う光に、比べて小降りに見える先程の光を月下美人は、ゆっくりと引き入れて行く。



その小さな光が入った瞬間、変化は起こった、

俺の身体の線に沿う様に、身体を覆う大きな光とは異なる強い光が生まれた、その強い光がゆっくりと形作られて行く。

セーラー服などに使われる様な膝より少し上の、青い折り目のプリーツスカート。


藍色の単衣に白の着物で上半身を包み、胸元の下に帯が一巡し、更に帯の上を黄色の鈴がついた青い紐が一巡している。浴衣などに使う『帯留め』にも似ている。

肩から肘までが露出し、肘から手首の辺りまでの肌が隠され白い振袖になっている。

着物や振袖の各所に、紫色、白色、黄色、赤色の『フリージア』の花模様が控えめに添えられている。


『フリージアの花言葉』は色によって示す意味が異なると言う、

紫色は『感受性』、白色は『純潔』を指し、黄色は『親愛の情』を、そして赤色は『慈愛』を指す。


前世の男だった頃には、余り馴染みのなかった花言葉だが、このゲームを通して少しだけ知っていた。



『そのマフラーの本来の姿‘’月光の羽衣‘’です。あの襲撃の際に‘’月の鏡‘’と共に強奪されてしまった物です』


説明してくれている彼女の表情に、僅かに影が指す。


『その使い方も貴女の中に秘めました…』


『きっと貴女の身を守ってくれる事でしょう…』


「分かりました、お母様…」


その言葉を最後に、月下美人の姿が少しずつ天井の穴に向かって溶ける様に光の粒となって消えて行く、


その光の粒子と共に幼い精霊達が、天窓の方へと消えて行く…、小さな瓦礫を慌てて避けながら…。


…気をつけて行ってくれよ、精霊達よ…。



手の平程の小さな妖精の安否を、少し心配しながら、月の光と共に消えて行く、月下美人の残滓を追うように、すっかり夜空が見えて来た天井を見つめると…


「痛っ!」


頭上から小さ欠片が、俺の頭に落ちて来た様だ。人の事を考えてる前に自分も危ないと言う事を思い出した。



「さてと、ココから、どうやって脱出しましょうかしら…」



月下美人が去り、僅かに寂しさの残る気持ちを抑える様に、腕を胸に抱きつつ辺りを見回す。


……逃げなければ、身の危険への不安が押し寄せてくる。


色々と考えて置かなければいけない事は多くあるが、今はいい。

冷静さを失わない様に、心の中で自分に言い聴かせる


「たしか…、こっちだった…筈よね?」


前世の記憶を頼りに、マサト達がこの部屋を訪れる際に通ったであろうボスへと回廊へと足を向けた。

前世の女子高生を思わせる丈のスカートよりも、短めな腰布を翻し駆け出す。


緊急時とは言えども、こんな様子を8歳の日まで身の回りの世話をしてくれていた従者『婆や』に見られたら、なんて言うだろう


ーーーいけません!、はしたない(品が無い)ですよ、お嬢様!!


きっとこんな感じだろうか、

今の自分の幼い記憶の日々の中で、背中の曲がった老婆の姿が思い出された。

コレも記憶復活の一つか…と、今の自分を客観的に見ている自分が呟いた。


程無くして目的の出口にたどり着いた。


「良かった、合ってた」



「急がなくっちゃ!」


初めて来た筈の回廊『現代の神器』或いは『現代の千里眼』とも言うべき《スマートフォン》も無い様な状況で道を知っていると言う、不思議な感覚を覚えつつゲームとして画面を見ながら指を動かすだけとは違い、

自分が身体を動かさなければならない状況に何処か、高揚感の様な不安の様な気持ちが、懐かしい気持ちと混ざって、ドクドクと胸を熱くする。





余り…余計な事を考え過ぎてはいけないとは、思ってみても、やはりどうしても、ふとした時に戸惑ってしまう。記憶にある肉体の感覚の誤差、男の時と違った身体の身軽さ。見える視界の低さなど、この違和感は前世の記憶があるからなのか、それとも10年間のナハトとしての記憶が作用しているからなのかは、わからない

不幸中の幸いとして、城の崩壊の速度は速くは無かった。だが…いつこの崩壊の速度が早まるか?分からない、

慣れない身体に戸惑いを覚えながら急ぐ。




もしも、この時、月下美人の『今一度男の姿に戻り』と言う指示を、部屋を出る以前から…彼女が消えた後直ぐに行なっていたのなら、

この先に訪れる自体は変わっていたのかもしれない。






ーーーー



回廊を壁伝いに進むと、見知ったドアが見えた。




「あら?…この部屋」


いや…この場合は『見慣れた扉』と言うべきか真っ黒な木で出来た扉の元にたどり着いた。



「ここは…たしか私の…部屋?」



そう、ナフティアの…ナハトのだった部屋だ。

主人公マサトがライバルで有り、実の兄だと思っているナハトとの決戦前に訪れる部屋でもある。



この部屋では、《ナハトの日記》がと思われる書物が置かれ、いくつかのアイテムを入手できる。

ラスボス討伐後に訪れると《ナハトの日記》を読む事が出来る様になっている、



《ナハトの日記》では、マサトとの戦闘のお陰で溶けつつある洗脳により思い出しつつある、自分の中の優しさと洗脳による狂気との、せめぎ合いに苦しむナハトの姿が連想される様な事が書かれて居た筈だ。


時折、地鳴りの響く回廊の中。

我知らず、そっと扉にてをかけると…キィ…と言う音を立てて扉が開いた。


中は、明るかった。

簡素なベットに小さな本棚に机、前世の自分と言う比較対象を得て見た『かつての自分の部屋』は、どこか…質素に見えた。

それが寂しくも有り、洗脳されていた頃のナハトがもう居らず、この部屋も使う事も無くなった。

次第に、ここも崩壊するのだ…、ゲームの時の様に嵐の海の中に消える。この部屋の何もかもが…


そこまで考えて部屋の中を見回すと、記憶の中に比べて高くなってしまった椅子や本などの位置が異なっている。

あぁ…そうか、彼らが訪れたのか…と納得した。


そっと机に手を添えると、小さな黒の装飾された手帳と羽ペンが見えた。

ナハトの日記だ…。


それらを、大事に袖の中にしまうと俺は部屋の外へと急いだ。

その瞳から小さな光の一雫を、部屋に残して…。


後ろ髪を引かれる様な気持ちを胸に秘めて『今の自分の身体が過ごした部屋』を後にした。


こんなにも、感情が顔に出やすくなるのだろうか…、と言う疑問の中、目元を拭って

更に、廊下を進み右へ左と記憶を辿りつつ進むと、回廊の端に皹が走っているのが見えた。

その皹がある道を避けて進み、回廊の終わりが見えて来た。



「ふぅ…やっとココまで、来れた…かしら」



慣れない女性の身体で歩いて来た回廊はナハトの時代より長く感じた、当たり前かもしれないが歩幅が大きく違うのだ、今のナフティアが小さ過ぎると言う訳では無いだろうが、それでもハッキリとした身長差があるのだ仕方のない事だろう。


眼前に見える回廊の出口が明るく……、ん?明るく!?


「あれ…?でも、この辺りってまだ、外じゃ無かった筈…よね?」



ボス部屋へ向かう正規のルートを外れ、本来ならゲームでは通れなかった道、(ナハトとしてココに住んで居た時に通れる事は知って居たが)を進み、方角だけは間違えない様にと進んでは来た筈なのに、何故、記憶にある人工的な弱い光では無くあんなに、明るいのだろうか?



記憶では長い廊下を抜けた先は、ポッカリと円形に開いた空間に、壁沿いに螺旋階段がぐるっと続き、円の中央に黒い柱が伸びているものだったと記憶している…筈。


薄っすらと暗く、螺旋階段を上へ上へと登ると、頂上から中央の柱に向かって道が続いている


その柱の中央には、先程のナハトの部屋やナハトとマサトが決戦した部屋に続くワープが存在している筈である。

数々の謎解きや仕掛けを超えた先、魔王を護る最後の砦としてナハトが存在し、そこに辿りつくまでの経路である。


この今いる回廊の道は、螺旋階段の頂上では無く。だいたい中間ぐらいの位置に出る所だった筈だ。


廊下の終わりまで辿りつくと、おもむろに明るさの原因を探るべく、

階段の淵へと佇んで上を見上げた。




……その刹那、





中央の柱の上部で爆発が起こった。


幸いナハトが立っている壁沿いの螺旋階段に、爆発による瓦礫は落ちて来なかったが、思ったより速く本格的な城の倒壊が始まったかも知れない…、




急いだ方が良いかも知れないな…などと考えた矢先…





目の前を、一つの影が通った……。



そして、その影を追う様に先程の爆発で出来たで有ろう、大きな瓦礫が落ちて行った



「えっ、今のはっ!まさかっ!」





その影は、自分の前を通ったのは一瞬…



刹那ともいえる瞬間だった。



だが、見覚えが有った、何故なら…




「そんなっ!?」




その影の名は、『マサト』




ナフティアが知る由もない物語の一部であり、語られずに飛ばされてしまう事の一つ、

全体の物語においては些細な時間の、その瞬間だが確かに有った事を彼女は目の当たりにした。



それは、本来のゲーム時代には無かったシナリオが動き出した瞬間であった。





更新ペースが遅く申し訳有りません、

2ページ構成を1ページに纏めまし。

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