どうやら、敵キャラだった者は真の姿にされた様です
輪廻転生。
1人の男の人生が幕を閉じ。
今、その男の記憶を宿した少女の物語が始まった。
発砲音に続く様に誰かの悲鳴が聞こえて来くると、それらの音の元凶はコンビニの入り口に在った。
頭には黒い野球帽にも似た帽子、顔には黒いサングラスに黒のマスク。
黒いダウンジャケットに、作業用の軍手、黒っぽいジーパン、恐らく170センチ程。
誰もが反射的に頭を抑えて蹲る中で春弥の視界に、少し遠目で仰ぎ見た自分と似た身長ぐらいの男だった。
「うるせー!、ダマレェ!客共ぉぉぉ!」
テレビなんかでよく見かける程の典型的なまでに見るからに怪しい男性は、くぐもった怒鳴り声をあげると、
手にした銃を上に向けて、もう一度発砲した。穴の空いた天井から塵状の欠片が舞い落ちる。
静まり返る店内に、誰かの啜り哭く声だけが聞こえてくる。
「テメェらぁ!みんな金目の物をダセェ!、おいっ店員!テメェはレジの金を出しやがれぇ!」
強盗…と、そうこの場に居る誰もが思った。
「は!はい!」
その男性は、出入り口付近を陣取り、1番近くのレジに居る店員へと最初の不幸が舞い落ちる。
こう言う場合を考慮したマニュアルに提示されていたとしても、コチラに向けられた銃の恐怖が無くなる訳でも無い。
男性の店員の声が上ずってしまうのも、仕方のない事だろう。
「金目のモンを床に置いたら、テメェら全員コッチ来て座れぇ!!、地面に顔つけろぉぉぉ!!」
店内を歩く様にしてお客をレジ付近へと誘導すしつつ、金目の物を回収する男。
「オラぁ!!早くしやがれぇ!!」
再び、出入り口傍の給湯器などが、設置された辺りに足を運び店員を怒鳴りつける。
「はっはい…た、ただ今」
男性の店員は、怯えた様にレジを操作し金品をレジに並べる。
安全用の鍵などがあるのだろうか、手間取っていたらしい。
「そこの女ぁ!このバッグに金を詰めろぉ!」
強盗は、コンビニの雑誌売り場にしゃがみ込んで伏せていた女性に、指示を出すと背負っていた鞄を投げつける。
「痛っ…」
「早くしやがれぇ!殺すぞぉ!」
「はっはい!、こ…殺さないで」
女性は、投げつけられた大きな鞄に思わず声を漏らすが、強盗の言葉に怯えレジへと走る。
強盗は落ち着かない様子で辺りを見渡していた時……不幸にもそれは起こった。
「おいっ!そこの女店員、今何をしたぁ!勝手に動いてんじゃねぇ!」
「ひっ…」
強盗は、銃を自分から一番遠いレジの女性…、彩音に向けた。
どうやら、一瞬、強盗の注意がレジから女性客に離れた隙に、彩音は通法ボタンを押した様だ。
更なる緊張が頭を伏せる春弥に、そして彩音の表情に走った。
この日、本来ある筈のモノが一部レジの上に無かった。それが不幸の始まり。
何時もならレジの上で販売されているタバコなどの商品棚が今日は無く、肉や焼き鳥と言った商品の棚だけだった。
新しいシリーズ開始の為に店の奥に移動し、後は業者が持って来るのを待ち、いつでも新しい棚を設置出来る状態にしていたからと言う、そんな仕事上では良くある事が、お客側から、そして強盗から店員達の動きが見やすさへと繋がってしまった。
コンビニの外に設置された非常自体を示す小さな赤いランプが輝き、警察やコンビニ周囲の車や人々に、緊急事態を伝える手段。警備会社に連絡が行き、後は時間の問題。
…ソレを気づかれた、
強盗は慌てた様に、コンビニの出入り口付近の窓を見渡すが、生憎、緊急事態を知らせるランプは店の屋上付近の窓の無い壁の位置、店内から見える事は無い。
春弥が顔を上げた時、彩音は向けられたまま今にも発砲されそうな銃が見えた。
「チクショー!、ふざけんな!、テメェ!今通法しやがったなぁ!ブッコロス!」
強盗が叫ぶ。…その時。
「やめろ!」
ダン!と言う発砲音が二度聞こえ、1人の男性が動いた…そして次いで訪れたドサッと言う何かが地面に落ちる音。
一発は身を屈め様とした彼女の上を、そして…もう一発は。
「し……しゅ…春弥くん?、えっ、イヤーー!」
レジを乗り越えた男性は、店員達が立つ空間へと…彩音の前へと落下する。
遠くからパトカーの音が聞こえてくる。
「クソッ!クソッ!クソオ!、オラっ!女、よこせぇ!」
強盗は、女性客から鞄を無理矢理奪うと外に駆け出した。
「春弥くん!春弥くん!ねぇ春弥くん!?大丈夫!?ねぇ!?」
彩音は、そこまで言った時気付いた。気がついてしまった…。受け入れたく無い現実を。
…春弥のスーツの内側…ワイシャツの左胸が赤く染まっている事を。
先程の…そのもう一方の弾丸は…悲劇にも彼の左胸に当たっていた事を。
そして、治安部隊…パトカーが訪れ。
客の誰かが呼んでくれたらしい救急車が強盗が去ってから程なくして、やって来た。
警察の捜査が始まった。
他の皆が事情聴取されている中で。怪我人の女性客と彼と共に彩音は救急車へと乗った。、彼の無事を心の中で祈って…
近くの大きな病院に着くと、直ぐさま緊急手術が行われた。
手術室の前で、彼女は今まで口に出さなかった祈りを…言の葉に乗せる。
「神様…どうか春弥君を…助けて…」
彼の家族には病院から、連絡してくれた、もう少しで来てくれるらしい。
彩音は涙が止まらなかった、泣いても仕方ないと思いながらも、それでも涙が止まってくれる事はなく…。
この祈りが届く事を願いながら、手術室の前の廊下に彼女の嗚咽が響く。
だが……
彼女の真摯な祈りは…
……届く事は無かった。
そして、彼を看取る式の中。
「どうして…」
彼女は黒いスーツ姿で彼の遺影に語りかける。
「どうして私を庇ったの?…ねぇ…春弥くん」
……彼女の問いに…答えてくれる声は、
……無かった。
そして、視界は今へと戻ってくる。
あの時、彩音が撃たれると思ったら、咄嗟に身体が動いてしまった。
強盗は去ったのだろうか、彩音は無事になのだろうか、身体が動いてからの記憶が無い事を考えると…俺は…
嫌、前世の事を考えるのは、今はよそう。
問題は今の事だ。まさか、さっきの戦いの最後に撃たれた事で記憶を思い出すとはなぁ…今回は銃弾では死ななかったしな…。
春弥…いや、ナハトは大きく息を吸って考えを切り替え様として、咳き込んだ。
口から血が漏れ出す。
痛みの走る右手を上げて行くと、光の銃弾を受けた胸元には、簡素な鎧の残骸が有った。
どうやらそのお陰なのか、再び命を落とす事は避けられた様だ。
まさか、最後の最後でゲーム時代の主人公『マサト』切り札に《太陽の銃》に撃たれて思い出すとはなぁ…
前世と被ったのか…?
太陽の銃とは、『Light.and.dark〜太陽と月の兄弟』の主人公マサトが使う数種の武器の一つ
元々は太陽の魔法を司る一族の武器で、太陽の出ている時間に様々な能力を使用出来るが、
逆に、太陽が出ていない時間は、弾すら撃てないガラクタになってしまうと言う物だったのだが…
主人公マサトが、旅する内に太陽の遺跡を巡る事で、手に入れた光の剣である《伝説の剣エクスカリバー》
その持ち手の部分を太陽銃に合体させる事で、通常の魔法を扱う媒体にした上に、魔法或いは魔術の弾丸を撃てる、と言う代物に変貌した。
余談だが、エクスカリバーは、持ち手の部分と鞘のみが存在し、
エクスカリバーを剣として使う場合は、持ち手を鞘の刀身が入るであろう溝に入れてから、持ち手を剣を抜く様に引っ張ると、魔力で出来た光の刀身が現れる、と言った感じである、
簡潔に言うと、抜刀した時にのみ光の剣が現れる。
通常時は銃、鞘、そして塚の状態でマサトの魔力に溶け込んでいる。
何故、こんなエクスカリバーにしたのか?と運営スタッフにゲーム雑誌の記者が取材した様だが、
『他のエクスカリバーとかぶらない様に考えた結果』という言葉を頂いたそうだ。
まぁ、確かに、こんなエクスカリバーは無さそうだな…と、その雑誌を読んだ当時のナハトは思った、
いや、だが、アレではまるで…レーザーぶれ…、うん、考えるのはよそう。
昔見た映画を少し思い出したが、うん、よそう。
そんな…我ながらくだらない事を考えていると、目の前の光は完全に女性の姿へと変わっていた…
銀色の膝まで届く髪に、顔は濃い青…藍色の大きめな瞳の下に朱が差し、小さい鼻、ほんのりと赤みの見える唇。
華奢な背格好、肩と胸元の谷間を大きく露出した白い膝丈程のワンピースの様な服の女性の姿。
そして、その小さな口から溢れ出る言の葉は、慈愛に満ちていた。
『…ナハト…』
しかも、ナハトが色々な事を考えている間、呼びかけは聞こえていた。
いい加減何か返答しないと…とナハトは申し訳ない気持ちで口を開けた。
「お前…は?…ゴホッゴホッ」
あれぇ?おかしいな、このシーンでは、まだ目の前の女性をナハトは知らない筈だから…、
申し訳無い気持ちも有って丁寧に、『貴女はどなたですか?』と聞こうとした筈なんだが?。
本当は、首を傾けたい状況なのだが初対面の女性を目の前にした上に、身体中痛くて、傾けられ無い。
ほぼ身体の自由が効いて無い…と、本当に満身創痍と言う状況、本来なら前世の自分では知らない場所、知らない身体、知らない事が多く発狂するのかも知れないが…。
幸い、春弥の頃の実家が仏教だった事や最近のアニメなどを見る機会もあった為に、輪廻転生や異世界転生と言った知識は有った。
もしも魔法の世界に行けたら、などと言う妄想をした事も有った。
混乱しているのだろうと、自分の中に当たりをつけて。とりあえず、今の状況に対して考える。
ナハト…今の『自分』とマサトは、どんだけの死闘だったんだよ…、いやゲームでは知ってるけれどさ…。ほぼ動け無いよ、え、どうすんのコレ、なるべく混乱を表に出さない様に、考えていた筈…なのだが。
『私の名は、アメリア』
『アメリア・M・トリスタン』
混乱してるのが原因なのか、偉そうな口調になってしまったにも関わらずアメリアは、気にしてい無いと言う様に自ら名乗り上げた。
『月の意思を代弁する者、月下美人の名を冠して居る者です。』
「おま…グッ!」
口が自然に会話しようと動くが、しかしそれは叶わなかった。
『このままにして置く訳には、行きませんね、少しの辛抱です…』
女性は、そう述べるとナハトの前まで歩み寄り、そのしなやかな腕をゆっくりと紫の少年へと向ける。
『…ナハト、今、貴女を呪縛から解き放ちます、だから、お願い……思い出して』
すると、ナハトの身体が白い光に包まれ、やがて…その光は水風船が弾けるかの様に消え失せた。
そして、その直後に『何か』が複数落ちる様な音がした。
光が収まった後のナハトの姿を見届けるとアメリアの頬に、一筋の涙が流れた。
『ナハト…やっと、やっと…元に戻す事が出来た』
女性は、愛おしそうな瞳を…彼…いや。
「えっ…コレって…私は…えっ?私!?」
彼女に向けた。
ナハトは、またも動揺していた。
先程まで前世の…云々(うんぬん)考えていた所で、また状況が一変したからである。
「……」
しかもその変わった状況、いや『変わった自分』の事を『物語の一つ』としては知って居た。
だが、このタイミングで変化が訪れるとは、知らなかったのだから、思わず言葉を失ったとしても仕方ない。
すっかり変わってしまった自分の両手を見つめ、動く事さえ叶わない
何にせよゲームの時代では、主人公がボス部屋に入るシーンにはムービーが流れ、その!最後の方に!
…少しだけ流れるワンシーンが今の現状である。
その映像ではナハトの傍に跪いて、まるで愛おしい者に触れるかの様に頰を撫でる、そんな月下美人が映し出されて終わり、ただそれだけなのだ。
エンディングロールにも、そっと挿絵が入った程度だ。分かるわけがない。
しかも、もう一つ重要なのは、外傷の一切がいきなり消えたのだ、驚くなと言う方が無理と言える。
「えっと…」
両手で身体を確かめると、激しい戦闘のせいで、頭から血が出て口からも血が流れていたのは、綺麗に無くなり、床に落ちた暗黒銃剣に自分の姿が映った、着いていた血も消え失せ綺麗な物である。
健康的な赤みかかった頬に、髪は黒い長髪から紫の入った白い長髪になっていた。
壁に背中を預ける様にして両脚を伸ばして座ってる状態で、背中や肩に届いていた髪が、自分の膝丈まで一気に伸びている。
画面越しで見ていた頃の記憶を思い返して見ても、やっぱり結構長いな…。
若干、目の前の女性を見る視点も低いし、声もさっきより高くなって、纏っていた服も黒のジャケットから黒のワンピースになっている、魔法でお着替えとか…かなり便利だ。
ゲームではメニュー画面で直ぐ出来たが、現実となった今ならかなり有ったら便利な手段だ。
肩から腕まで露出して、胸元は目の前の女性程では無いが、僅かに谷間が見えた、先程までつけていた黒いマフラーは、床に落ちている
そして…しかも…自分の事を『俺』と発した筈の声が『私』に変換されている。
要するに、どうゆう訳か、発した言葉が『変換』されているのだ。
大事だから二回とかふざけたい訳では無いが、ソレだけ混乱してるのだろうと、自分の残った冷静な部分で自己分析してみる。
要は、見た目だけは黒い髪の青年が、紫の長髪の美しい女性へと姿を変えたのである……丁寧な女性口調で話す系女子になって、と言うオマケ付きで…。
驚きの2連撃と表すべきか、いや、その度重なる驚きと混乱に、遂にナハトは限界を迎え、
「えっ…ぇぇぇぇ!」
異世界転生の混乱気味を我慢して居たのに、さらなる混乱が訪れ、
ついにナハトは、絶叫してしまったのだった、
……絶叫と呼ぶには、随分と控えめな、“しっかりと口元を手で隠す様な仕草で驚きを露わにしただけ”の様に見える、その程度までに、この身体によって抑えられてしまったのだが…。