風の賢者は闇の中
内容が少し気が重くなってしまうかも知れませんので、短めに分けて更新します。
「ここは…、いったい何処だ?」
自分の姿だけが浮かび上がる様な暗闇のその最中に、ゲイル・ガーランドは居た。
意識を失う直前までの記憶は、確かに有る。
自分をーー自分の背後に有る護るべき村、その存在ごと焼き尽くさんと迫っていた視界いっぱいに迫って来た、その破壊の光がーー。
ーー鮮烈に、そして、その光は己が瞳を超えて。
魔力は底を尽き、あれほどの力の奔流から身を守る手立てはなかった。
己が全てを犠牲にしたとしても、俺は…俺の国の民を護りたかった。例え近しき人を傷つけてしまったとしても…それでも自分は……ガーランド王家の人間として、だから…。
己が最後をーーその覚悟さえした時の光景がーー。
ーーー脳裏に焼き付いて蘇る。
だが…
…だが、こうして自分は意識を取り戻した。何故なのか?。
「俺は生きて居るのか?、何故…俺はこんな所に居る…?」
「この流れは、なんだ…?」
「何故だ…動けん!」
大きく声を張り上げたとて、その声が返ってくる事は無く、闇の中に溶けて行くだけだった。
ソレが、僅かに冷静さが残って居た頭で、理解した。
理解してしまった…何もココには無いのだと。
「それに…マナは…」
僅かに一呼吸空けて呟かれたその者の名、その言葉の続きをゲイルは口にする事はしなかった。
ーーー いや…出来なかった。
彼女を置いて先立ってしまったかも知れない自分に、今更彼女に何が出来ようか?
何も出来ないのではなかろうか?。そんな考えが彼女の名前の続きを口にする事に邪魔をする。
目の前に広がる闇が己が内なる負の感情を、不安な心を掻き立てる。
その心を表す様に、冷たい汗が頬にながれた気がした。
「落ち着け…まだ、ココが死地だと決まった訳では無い…落ち着け…俺」
僅かに、早くなった心音を落ち着かせて考えを切り替えようとして、ゲイルは、ふと気付く。
「心音…?、と言う事は俺は…生きている…のか?」
もしも手足が自由に動いていたならば、無意識にでも利き手を胸に伸ばしていただろう。
足場も無く視界も不確かな闇の中、一つ確かな事を見つけた故か、ゲイルの中に小さな…されど確かな安心感が産まれた。
よくよく考えてみれば、喉で声を出して居た感覚はあった。口も。そんな単純な事さえも気づいて居なかったのだ。
当たり前の事だからこそ、見落とし。冷静を欠いた状態では分からないとは、良く言う物なのかもしれない。
先程までのゲイルを表すならば、『我』を見失った状態だろうか。何も確かな事が分からなくなっていたのだから。
この小さな安心は、それほどに、かけがえないモノだったのだ。
そして、安心感が少しでも産まれた事で、改めて考えを切り替える事が出来た。
自分は、いまだに生きている。あの絶望的な状況下で有ったにも関わらず、だ。
だが、そこまで確かめる事が出来た所で、疑問が残る。
この場所が天国や地獄へと続く空間で無い場合、ココは何だ?
身体は、身動きさえ出来ず、されどココでは無い何処かへと流されて行くかの様な『流れ』が自分を包み込んで居るのが感じられる。
魔力の流れ…と言い表すのが正しいのか、ゲイルには分からなかったが、敢えて例えるので有ればーー『川の流れ』だ。
仰向けに身体の上半身だけ浮かばせて、その流れに身を任せて、上流から下流に向けて流れて行くかの様であった。
コレが本当に、ただの川の流れであったならば、如何様にも使用は有ったのだが…。
残念ながら、そうではないらしい。
水に濡れ冷たさを肌で感じる事は無い、だが、かえってその事がゲイルの心に『不安』と言う冷気にも似た感情をわき立てる。
口を除いて、唯一の自由な目で視線を巡らせても、結果は同じ、『闇』と僅かに感じる『流れ』だけ…。
音も無く蛍の様な小さな明かりさえもないーー 考えだけが自分の中に積もって行く。
今自分の置かれた状況において疑問は多く有る、その疑問を一つ一つ口にしてしまいたいが、何よりも気になっていた事が一つ。
恐らく自分が生きている原因と思われる事だ。
ーーー『変身』
「それに、さっきの声は…誰だ?」
先程の声、自分が意識を失う前、確かに聞こえていた……女性の声。
自分と知己有る者の誰でも無い声であるのは、確かな事だった。
いくら意識が朦朧としていたから、と言ってもアレは…知らない声だった…筈だ。
知らない……?
「いや……まてよ。」
まるで、自分に確かめ、問いかける様に考えを巡らせて行く中で、僅かに引っかかって居る物が有った。
「この場合は『者』ではあるが…、」
誰も居ない場所で、少しでも気を紛らわせたくなった言葉遊びは置いておき、あの声には、聞き覚えがある。
引っかかっている記憶は、つい最近の事だ。いや…つい先程と言って差し支えない程の新しい記憶。
己が集中を妨げるモノの無い静かな闇の中で、ゲイルの思考は加速し始めた。
『魔族の手に落ちた一族、月の部族だけが持つ、紫の色が入った白い髪の少女』
海岸で自分達が少年と共に助けだした少女。
彼、そして彼女らは数日間眠りから覚める事は無く、仕方なく持ち物や衣類から、何者で在るか調べあげる事にした。
そうして分かった事が、少女の方は怨敵が一つ、月の一族の1人だと言う事。
……その彼女の声だ。
この時、ゲイルは気付いて居なかった。
自分の中の憎しみと言う負の感情が、思考を暗い方へと誘って居る事に。
死を覚悟する事は、いくら責任感や正義感、使命感と言うものを持ってしても、心に大きな負荷を残す。
その負荷によって、不安定になってしまったゲイルの心に。
『暗闇』とは、鬱蒼とした森が昼間でも暗くなってしまい、人によって不気味に見えてしまう様に。
夜、人が就寝に着く前に明日への不安や、自分にとって悪い事が、不安な事ばかりが頭の中を過ぎってしまうかの様に。
人は、『暗闇』を前にすると、自分の内側に潜んで居る『もう一つの暗闇』が顔を出す。
「何なんだよ…いったい」
溜息混じりの声が暗闇の中に響き渡り、再び吸い込まれて行く。
「彼女が自分を助けてくれたのか?、」
否、そう考えるのは早計と言う物だ。ましてや魔族に与した奴らだ、助けなど…そんな訳が無い。
仮に、もしも今の現状が彼女の手による物だったとして、村はどうなった?。
アレだけの攻撃だ、助かる訳がない、では、自分だけが…自分だけが助かったのか?
そんな…ガーランドの…この風の国の王族として、愛する民を護る事が叶わなかったのか?、
仮の身分の一つだった、『冒険者』としても村の守護という役割をこなす事が叶わなかったのか俺は?
わからない…、何も。
「何が起こったんだ…」
『不安』
一度は落ち着きを見せていた心の中に、そのたった二文字の言葉で表すには、時として余りにも強大な重みが、ゲイルの心に再び襲いかかる。
まさか、コレは彼女の仕業なのか?俺が混乱しているのを、何処かで見ていてソレを嘲笑っているのだろうか?
だとしたら、危険だ。
何せ魔族と結託していた一族の者だ、あの状況で邪魔になったゲイルを消そうとしても納得だ。
どうにかして、この状況を打破しなければ、と言うそんな考えが、そんな言葉だけが繰り返して頭の中を満たして行く。
人の上に立つ者として教育を受け、責任感が強い者程、自分の中で『ナニカ』が壊れてしまった時。
気分が沈んで行くと言う、深い深い所へと。
そして、その『ナニカ』と言うキッカケは様々だ。
ごく身近な言葉で表すならば、スイッチが入ってしまった…と、そう言う事なのかもしれない…。
頭を抱えて、背を丸めて蹲ってしまいたい衝動に駆られる。
だが、そんな事さえもココは…この空間は許してはくれない。
『疑問』と『不安』が渦巻く中、頭の中。
それはゲイルの瞳から輝きと共に『ナニカ』を奪って行った。
それは『正気』か、或いは『平静』か。
「……マナ…」
その言葉を最後に、まるで魂しいが抜け出てしまったかの様に、ゲイルは闇の『流れ』に身を任せて行った。
ーーーそんなゲイルを追いかけて行く様に、彼が漂う流れを辿って行く…小さな明かりが一つ。
皆様、おはようございます、こんにちは、こんばんは。
そして、明けましておめでとうございます。サルタナです。
お久しぶりです、
この度長らく更新停滞させてしまい申し訳ありませんでした。
言い訳になってしまい心苦しいのですが、その理由につきましては…、少し感想に書かれた内容にショックを受けてしまい、中々自分の中の筆に手をつける事が出来ませんでした。すみません。
感想を消す、と言う事をしたくないと思っていたのですが、我ながらその中傷的な感想が自分の中では上手く飲み込む事が出来ず、あれほど嬉しかった感想一覧が中傷内容に変わってしまった事が耐えられかった様で、大変その方には申し訳無いのですが書き込みを削除させて頂きました。
重ね重ね、申し訳ありません。
謝罪ばかりのあとがきになってしまいましたが、今後はこの様にならない様に頑張りますので、もし良ければ、こんな作品ですが楽しんで頂けますと幸いです。
では、皆様次の更新でお会いしましょう。




