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どうやら、前世を思い出した様です

もしも自分の中に、身に覚えの無い気持ちや。

ふと何かをした時に、既視感を感じたのなら、


それは長い時を生きる中で、忘れてしまった事なのか…?

それとも…、それは…


そんな神々しいとも言える光景を、光の無い瞳で見つめながらナハトは内心激しく動揺していた。

いや…混乱していた、とも言える。何故なら…



『月下美人 』アメリア・M・トリスタンの顕現シーンか…


この人が、今の俺の母親だったよな……。


成る程、先程の奴らは主人公の『マサト』のパーティか…。


…って事は…やっぱり、俺…ゲームの中の世界に入ってしまったんだな。



身体中どごもかしくも痛いし…、と言うか!最後に俺撃たれた!?…よな?。


…よく生きてるな…俺。



この光景を、ナハトは知っている。

…否、見た事がある。驚きと共に既視感デジャヴにも似た感覚を、ナハトは味わっていた。




ナハトは、転生者だった。


前世の名を、橘春弥(たちばな しゅんや)と言い30代になる。


月並みな言葉で表すのなら、普通の会社員。


そんな自分の趣味は、たったの一つだけ…この歳の男性なら当たり前かも知れない、ゴルフやジムでは無い…酒や車でも無い…『ゲーム』だ。


まぁ、趣味がゲームだからと言ったとしても昨今の現代においては、ソレもまた別段珍しくは無いのだが。


そして、その数あるゲームの中で、取分け俺は『RPG系のゲーム』が好きだった。


正式名称を確か…ロールプレイングゲーム。その通称が『RPG』英語の頭文字を取って略されたソレが、説明しなくても現代社会の誰もが知っていると言っても過言では無いだろう、やった事が有るかどうかは別として。

それほどのジャンルの名だ。自分のその生涯に恋人は居らず、ずっと独身、週末などの休日には1日中ゲームをして、その日を過ごした事も有る程に熱中した事も有った。


今思えばいつからだっただろうか…気がつけば夢中になっていた。ファンタジーの世界に。四角に切り取られた画面の向こうの世界に。

だが、まぁ…大好きなゲームを手に入れる為に朝からお店に並んだり、と言った感じの探せば何処にでも居そうな…そんな男だった。




そうか…、あの日…、あの時…俺は……死んだのか。



ナハトは額から流れる血で片方の視界が赤く染まって見えない右の眼の代わりに、霞む左の眼を瞬かせ、目の前の光が造形を確かにするさまを見据えながらも『前世の記憶』を振り返る。


閉じた眼は右目だけにも関わらず、かつての情景が現実とは別に、ナハトの眼の前に広がって行く。





…………





その日は、珍しく仕事が早く終わった日の事だった。



「よぉ春弥、お疲れさん!今お前も昼か?」



会社の食堂の中に入った時、後ろから急に声をかけられた。


「あ、あぁ…、驚かせないでくれよ、心臓に悪いじゃないか」


「外回りか?」


俺は、彼の腕から逃れると気になっていた事を聞いてみた。なにせさっきまで同じ部署で姿が見えなかったのだ。


「おうおう、そうなのだよぉ〜、部長に取り引き先までって書類を頼まれてな〜、歩き回って足が疲れたし腹減ったぜぇ〜」


彼は、わざとらしくお腹を押さえつつ嘆く素振りをみせた。…ん?


「もしかしてわざわざ、歩いて行ったのか?と言うか外回りでコンビ二とか有っただろうに?」


その言葉を言った瞬間、彼は両手を俺の肩に乗せつつも再び顔を伏せつつ嘆き始めた。


「聞いてくれよ〜」


まるで幽霊の様な声を出しつつ顔を上げると、彼は言った


「今日財布忘れてしまったんだよぉ…定期も…その中」


「え…」


「お陰で会社には歩いて出社…、しかも!そのせいで遅刻だよ…」


「部長には財布を落としたと言ったけど、こってり絞られたわぁ〜」


そう言って肩を落とす彼に俺は言った。


「アホだろ…」


「五月蝿えな!分かってんよ!んなこたぁ!」


「…ふふふ」


怒った彼の言葉が何処か可笑しくて笑ってしまった。


「…くくく」


彼も釣られて笑みを浮かべる。本当に賑やかな奴だ。


俺は、多分最初は困ったような顔をしていたに違いない。本当に背後からいきなり肩を組まれた、その時は驚いた。



彼の名は、千葉ちば利央りお

同じ部署の同僚だ。何処か抜けている会社のムードメーカー的存在。ソレが彼だ。

そんな彼は酒の席で自分で言っていた、学生の時代からこう言う所が有るのだと…ソレはどうやら変わらずらしい。


誰とでも友好的、いやこの場合は『良好的に』と言った方が正しいか。こんな風に接してくれる人は、もう限られている為…かなり驚いてしまった。


同窓会で会った昔の友人らを除いて、会社で唯一気の許せる。

そんな存在の彼が憎らしくも…何処か羨ましくも思う。


だが、どうしたってこの歳までに完成してしまった俺の性格では彼の様にはなれない。


まぁ…彼の様な明るさは、例え歳でなくても無理だと思うが。


財布を忘れてしまったから、食堂で食うために急いで戻って来たらしい。本当に面白い友人だ。

オマケに上司には落としたと…などと、そんな嘘までついて。



「なぁ!?、とりあえず一緒に食わないか!?」


そんな彼からのお誘いに二つ返事で了承を伝えると、食券台に並んだ。


そこから食事を食堂のおばちゃんから受け取って他愛もない話をしていた最中に彼は言った。


「そういえばさ!前にさ!俺が風邪ん時に、お前が仕事変わってくれたんだって?」


俺は、いつも食べてる『うどん』から箸を止めて僅かに記憶を辿る様に虚空を眺めた後に返事をした。


「ああ…有ったな、そんな日も…」


あん時は、結構会社で多かった気がする風邪、流行ってたな…お陰で仕事が立て込んで大変だった。


「あん時は助かったぜ、俺も這ってでも行こうかと思ったんだがよ…」


申し訳無さそうな表情を見せつつも、少し照れた様に言葉の続きを彼は述べる。


「アイツが…よ」


「ふむ…、京子さんか…遂に同居したんだな…おめでとう?」


京子きょうこ…、本名はたちばな京子きょうこ

彼…利央の彼女さんだ、



「いや、まだ…籍入れて無いし…」


「だが…同居してるんだろう?」


「…はい」


分かりやすいぐらいに顔が真っ赤だな、おい。


「だいぶ…進展してるようで何よりじゃないか…俺としても嬉しいぞ?」


「その節は、誠にお世話に…なりました…」


そう言って、箸を親指で挟みつつコチラを拝んでくる。


そう…彼、或いは彼女らの恋路の手助けを少ししてやったのだ、何せその彼女さんは同じ会社の子だったのだから。


部署は違えども、仲良さげに話しているのを時たまに見かけていたのを覚えている。


そんなある日、彼の方から一つの相談が有った。


と言っても、仕事上がりで酒を飲んでいた席の事だ。ほろ酔いの俺に比べて彼はその日は、先に酔っていた。


その時の話を要約すると、…こうだ。


『別の部署の、とある女性が食堂付近で帰りに男にご飯を誘われていたらしい』と言う事。

しかも、俺や彼と同じ部署の同僚にだ。オマケに、その同僚は結構な男前だった筈だ。


しかも、どうやら業績なんかで彼と張り合う間柄の様だ。

部長がそう言う風に比べる物言いをしていたらしい。


なるほど…、とその当時は思った。仕事上での『好敵手(ライバル)』って所か。


加えて、この食堂で『その彼女』が同じ女性陣と好きな人がいる話をしていたらしい。


丁度近くに座った彼の耳に聞こえたらしい、絶対コイツわざと近くの席に座ったな。と思った。そう言う奴だと思う、うん。


しかも、彼女が食堂で良く食べる事を事前に調べておいた上でだったらしい。ストーカーかお前は…と真面目に心配したのは、言うまでも無い。


しっかし、要約すると仕事だけでは無く、恋の好敵手(ライバル)でもあるって感じか…。

利央は大変だね〜。




そんな話を話を彼から聞いてから、少し時間が経った明くる日に、

俺は会社のエレベーターで彼の想い人…京子さんと出くわした。


密室で2人っきり、他に誰も居ない。

俺はエレベーターの奥へ、彼女はエレベーターの操作パネル側に立った。もちろんコチラに背をむける形で。


先に中に居た彼女は丁寧に挨拶して来れて、俺も簡単に挨拶を返し、律儀に目的の階を押してくれた。

彼女との…その程度の関係、それ以上は無い。無言の空間。


お互いが目的の階までの最中、突然彼女が意を決した様に、何処か頬を赤らめて振り返った。


長い落ち着いた黒の髪が舞い、目をギュッと瞑って彼女は叫んだ。

どことなく、最近の若い女性にしては珍しい気がする様な真っ黒いままなんて、いや…そうでもないか?


「あっ…あの!」


「はぁ!、はい!」


思わずと言うか、不覚にもと言うべきか、端的に言えばドキッ!としてしまったが為に、敬語になってしまったぁ!


「今夜!あっ!あああ…」



そう言ったっきり、言葉が続かない様子の彼女、


いかん、俺…疲れ目だったかな…、凄く彼女が緊張してる様に見える、


心無しか、彼女に釣られる様に、俺の頬も上気してる気がする。



「〜〜〜〜!!」


更に頬を上気させて声にならない様子だった。


俺も冷静だったなら、あー?何?とか聞きそうだが、この時ばかりは俺も冷静じゃなかったらしい。


「あっ!空いてますか!?…こっ…今夜」


そう…一度息を吸ってから改めて、彼女は言った。


「え?…あっ!、ハイ!」


はっきりとした口調で彼女は、話そうとするも段々と語尾が下がって行き。


俺も、意味を理解するのに間が出来てしまった。

仕方ないのだ、こんな言葉をかけてくれた女性なんて、滅多に無いんだから…、やべ、ちょっと泣きたくなって来た。


「よっ!良かったら!……ごっ!ご飯に行きませんか!?」


内心で涙目になっていると、再び声をかけられた。


「ハイ!喜んで!…え?」


反射的に返事をしてしまった所で、思わず聞き返してしまった俺は、間違えて無いだろう。

自分にご飯のお誘い?、女性を交えて数人とかでは無く?、これって2人で?、


「あ!ありがとうございます!」


勘違いしてしまいそうなほどに、嬉しそうに彼女が微笑むと、


「〜〜〜!!」


彼女は手に持って居た書類で表情を隠すと…


「で、ではーー!」


「あっ!ちょっ!…」


最後には、顔を真っ赤にして、丁度彼女の目的の階に到達したらしい。彼女は駆けだして行った。

思わず伸ばした右手は虚空を彷徨い、駆け出して行く彼女の背を見送りつつも。無情にもドアは閉まって行った…。



そこからの仕事は身も入らず彼女の行動について考えていた。


あの…只ならぬ彼女の様子…何だったのだろうか?


まるで恋する乙女の様な…


ん…?恋する…?


…恋?


まさか?彼女の好きな相手って…俺!?


そこまで考えが行った瞬間思わず、パソコンの前で頭を抱える


え?、まさか、うん、そ…そんな訳はない。

第一に彼女と接点なんて無い……無かったよな!?


ここ最近の記憶を必死に手繰り寄せ考える。


うん、ない…無かった…筈。


俺が忘れているだけかも…知れないが、男なんて女性と違って鈍い点があると言う。

どっかの番組でも、そう言って居たし。産まれて来る前に、女性のお腹の中で元々は女性だった者が男性になり、その時耐性とか寿命とかを失って男性の力強さを得る!とか何とか、専門家らしい人が言っていた。人類の完成形は女性だとも。

いや、うん、だいぶ変な方向に考えが行ってしまった。落ち着け。今は仕事だ!




そこから何とか仕事を終えた帰り。



「春弥さん!」


会社の外で隠れて待っていたらしい彼女に声をかけられる。


「お疲れ様です!」


「あ!、あぁ…、お疲れさん」


気の無い返事を許して欲しい。

緊張してるのだ、我ながら。


「じゃ!行きましょうか!」


何処か緊張した様な彼女、そんな雰囲気の女性を見たのは…いつぶりだろうか?


肌寒い冬も近い最中のこの時期にも関わらす、赤く仄かに彩られた頬の彼女は美しく…って!


まるで、恋をしてしまったかの様なもんじゃ無いか!


落ち着け俺、落ち着け。


クールだ。クールに行け俺。歳下にときめいてどうする。いや確かに彼女は大人だが、うん。


第1に!恋バナとか!…そう!こ…告白とも限らないのだ。そうとも!もしかして殆ど始めて話した相手だから。緊張しているのかもしれない。


そうだ、勘違いは良くない、勘違いして彼女に迷惑をかける訳にはいかない、ましてや彼女は同僚の好きな…



……同僚の?


…あ…もしかして?


そこまで考えが行き着いた矢先、何時もの居酒屋の前に着いた。


「ここでご飯にしましょう!」


そう言って彼女は我先にと、店内に足を踏み入れる。


ふとスマホが気になって覗いてみると、案の定…利央から連絡が来ていた。


『何時もの』居酒屋で先に飲んでいるらしい。…そうココだ。


奥の席にいるとの事。


「…ハァ」


白いため息を吐いて、意を決して中に入った。

修羅場は嫌だ…そう思いながら。



そうして、中に入ると通い慣れた内装が見えた、


「おー……!?」


「あ!春弥さんコッチです!」


奥座敷から、声が聞こえた気がしたが気のせいだろう、人が多くてわからない、ソウイウコトニシテオコウ。

京子さんに促されるままにカウンター席に着いた。

あいつ、座敷を仕切る壁に隠れやがったな、と言うか、京子さん入って来たの気づいてなかったのか?メッチャ驚きの表情浮かべてやがる。


そんな、チラチラ壁からコチラを覗く奴を尻目に、ビールを頼む。奥の座敷は満員。テーブル席も満員との事だ。京子さんが店員さんから聞いていたらしい。

そんな話から始まった。



ひとしきり仕事の話をして、お互いの上司の話をしたり休日の話や彼女居るのか、とか他愛の無い世間話をしていた。

うん、なんか背中に視線を感じるが、気のせいだ。多分。

とりあえず、後でなんか奢ってやるから、そんなに睨むな…。オーラ出すな、彼女に気づかれるぞ。


ここで、話しかけに来れない彼の奥手さが伺える。


そして話も一息ついた、一瞬の静寂の後に、俺と同じビールを頼んだ彼女は一度ソレをで喉を潤し。

再びエレベーターの時の様な表情で、コチラに顔を向けた。

酒が入った影響なのか、さっきと違って隣り合って座っているせいか、とても彼女は美しくて大きな瞳が眩しく見えた。


「それで、実はですね…」


来た…


「実は、春弥さん、あなたの…」


俺の?


「あなたの…」


「あぁ…」


やべえ…ドキドキして来た。




「あなた…春弥さんと!いつもご一緒している!彼の事を!教えて下さヴィ!」



え?


「……彼の事教えてくらさい」


おっきい声で言うもんだから他のお客さんに睨まれ、オマケに噛んだらしく、二度目には先程とは違った意味で顔を赤くする彼女。


「くくく…」


「笑わないで下さいよぉ」


仄かに赤い頬を、膨らませて言う彼女が可笑しくて、俺は笑いをこらえるのに必死だった


「クッ…くくくくく…プフッ!!」


「んも〜!」


尚も笑い続ける俺に大変、この女性は御立腹の様だ。

だが、これで分かった。少し残念ではあったが…そう言う事らしい。



彼女の好きな相手とは…それは、俺ではなく利央


そして、その利央の想い人もまた…彼女、京子さんだ。



コレは、面白くなってきた。



そうして…俺は、2人の為に一肌脱いで行ったのだった。




そして、食堂。



そうその時の話の事を含めて、感謝してくれているのだ。


「それでよ、春弥、今日の仕事俺やっといてやろうと思ってさ!もちろんお前の」


「は?何を言ってんだお前」


彼の提案に思わず目が点になった。



「いや、だから今回は俺がやっといてやるよ、今日はお前が楽しみだった、ゲームの発売日なんだろ?明日から休みだしさ、この前のお返しだ」


「本当に良いのか?、確かに、俺の今日の仕事は大した事無かった筈…だが。」


「ああ、お前の仕事の代理なんて、たまに俺やってたしな、」


笑顔で彼は言う、人懐っこい笑みだ。俺みたいな小太りのおっさんとは、違うな。


「そうだったな…なら最初は俺やって、残りを頼もうかな」


「分かった!」


「んじゃ、そろそろ戻ろうぜ!」


そうして、食器を片付けた後、仕事に戻った。







春弥は、嬉しかった、

同僚からの予想外な恩返しである、嬉しくない筈がない、これで早く買って帰れる!


早く買って、早く帰ってやりたい!とは思っていたが…ソレはソレ、

仕事がキチンと終わってからの楽しみ。


例え仕事終わってからゲームショップに向かって売り切れだったとしても、

後日また買いに行っても良い、最悪中古になってから買っても良かったのだが、

折角の友人のご厚意、甘える事にした。





今、夢中になってるゲームのシリーズ代3段

『Light.and.dark〜太陽と月の兄弟3(スリー)』が今日発売される。


ストーリーは、太陽と光の魔法を使える主人公がライバルやヒロイン、様々人と出会いながら成長し、最後にはラスボスを倒す、そんな王道のRPGゲーム。その第3作品


人気度は高く、小説やグッズが発売されており、もちろん春弥も小説は読んでいる、アニメ化ももう直ぐされる様だ。


ゲームの声優陣が豪華だし、更に人気度は高まるだろう。



友人にお礼を言いつつ、逸る気持ち抑えながら、通い慣れた帰り道、通い慣れたゲームショップへと歩くと


途中で何処にでもある様な見慣れたコンビニエンスストアが目に入り、財布の中身が心許ないのを思い出した。



「少し金を下ろしてから行くか、ついでに腹も減ったし、昼飯も買って行こう」



そんな事を内心つぶやきながら、普段帰る時間とは違う、

たまによる程度ではあったが、普段とは違ったお店の1面も見れるかも知れないという様な、ほんのり淡い好奇心を抱きつつコンビニエンスストアへと足を運ぶ。






そこで…悲劇に巻き込まれるなど思いもせず…。










自動ドアをくぐり、コンビニの中に入ると、外の空気とは少し異なり温度調整されているのであろう、

若干の早歩き気味で歩いて来た事も有って、中のクーラーがとても涼しく感じた。


「「いらっしゃーせー」」


店員の声が、レジや売り場の並びの方からも聞こえてくる。



春弥は足早に目的の売り場へと向かい、簡単な弁当と炭酸飲料だけを取って、足早にレジに向かう。


コンビニを出る前にATMからお金を下ろそう、そんな事を考えていると…



「あれ?…もしかして…春弥くん?」


「…はっ?え?…あ…はい、俺の名前は春弥ですけど?」



突然、レジの女性に話しかけられ、しどろもどろとした変な反応をしてしまうが…、

相手は気に止めもせず、次の言葉を投げかけくる。



「わー!久しぶりー!元気だったぁ?」




「私、高校の時に隣の席だった、彩音(あやね)覚えてる?、佐々木 彩音」





少し不安気に眉を寄せつつ、少し身長差があるせいか、こちらの顔を上目遣いに見つめる女性。


「私の事…覚えて…無い?」


高校生の頃と言えば今から10年以上前、その当時のクラスメイトと言う女性をまじまじと見つめながら、


しばし記憶を思い返すと……すぐに思い出す事が出来た。



何故なら彼女は容姿端麗、スポーツ抜群、頭も良いし性格も良い、男女共にクラスで人気の女性だったからだ。



そして、…何より春弥の初恋の相手である




だが、『初恋は実らない』と良く言う格言に漏れず、告白は失敗。惨敗。


『彩音にフラれた人No.003号』と言う有難くも無い称号をクラスメイトのみならず、先輩達にも賜った、


故に、高校時代のあだ名は『003号』である、どっかのヒーローか、と今更ながら当時を振り返って思った、


後に、彩音は100人斬り…もとい100人の男性をフり、


本人が卒業する直前に高校では別な学校に行った幼馴染とくっついたと言う、話を聞いて、


まだ見ぬ幼馴染さんよ…、月の明かりの無い夜には気をつけろよ…と冗談で友人らと皆で合掌したのを覚えている。


「あ…あぁ、すまん、忘れてた、覚えてるよ。お前こそ元気そうだな?今はココでバイトしてんのか?」



そんな過去の事を思い出して、顔が引きつりつつも、笑って返す事が出来た自分を褒めたくなった。



「うん!って言ってもね〜、ここの所つい最近かな〜?。子供が産まれてから中々旦那と私の親が許可してくれなくてさ〜」


「へぇ、お前結婚したんだ?。良かったじゃん、おめでとう、えっと、もしかして幼馴染の人と?」



彩音は長い栗色の髪をポニーテールにして居て、瞳は大きく、顔のパーツがとても整っている、

結婚して子持ちには見えない、女子高生ですと言われても納得しそうだ。


俺とは男女の違いはあれど、大違いだな…と若干出始めた腹を思い浮かべつつ、

高校時代での噂を…主に卒業と同時にくっついた話を聞いてみる


「あれ?その話知ってたの?。まぁいいや、そうなのよぉ!」


「高校では違ったけどさぁ!同じ大学受けようって約束しててさぁ!」


「そんでお互い受かって、一安心って思っていた時にさ、あっちから告白されてね、そのままオッケーしちゃった、そんで今に至る感じかな〜」



成る程、幼馴染とめでたく結婚したって感じか、なんか漫画の世界の話みたいだなぁ…と春弥は笑顔で当時の事を語る彼女を見て、そう思った。



「あっ〜!今、『漫画の世界みたいな話だなぁ』って考えたでしょう?。よく言われるんだあ〜!ソレ!」


「私も自身もさ、そう思うし。でも現実に私は結婚したし、子供もいる。夢でもお伽話なんかでも無い!。それに…」


「私は、幸せだよ」


春弥は、言い当てられて思わずたじろいだが彼女の言葉に耳を傾けている内に。


彼女が本当に幸せなのだと言う気持ちが自分の胸に届いた様で、自然に『良かったな、本当、今更だが本当におめでとう』と言う言葉が漏れた。


「ありがとう!、それでね!、結婚式やって無いんだけどさ。今子供が5歳になったから共働きしててさ、結婚式のお金を2人で貯めてるんだ!、もし結婚式する事が出来たらその時は、春弥くんも来てね!」


俺に眩しい笑顔を向けて、そんなお誘いをしてくれた。


俺が口を開こうとする時、別なお客が来たのか、また、『いらっしゃーせー』とコンビニの店員さんらしい挨拶を大きな声で客を迎えた。…何とも間が悪い。



先程までは、意識もしなかったその言葉は…、


知り合いの声だとわかったからなのだろうか?


それとも、幸せな彼女の様子を知ったからなのだろうか?


その仕事()()()言葉さえも、どこか…弾んでいるように聞こえた。


彼女のポニーテールが自動ドアから入って来た、弱い風に揺れ。

彼女が見せた、コンビニ店員がお客様に向けた当たり前の様な笑顔の横顔が、とても眩しく思えた。



「あぁ、絶対行く、楽しみにしてるわ、頑張れ」


改めて、彼女にそう告げた。


込み上げて来た気持ちをそのままに、そう…笑顔で春弥は言葉を返した。


そんな所で、俺は本来の目的を思い出した


「じゃあ、またな。」


「うん!またね!」



「たまには、このコンビニに寄らせて貰うわ」



俺が、そう言い残して去ろうとした所で……。




その言葉は…この平和なひと時には。



平穏なこの国には、余りにも聴きなれない…大きな発砲音によって…




遮られた。



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