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師匠と老執事と弟子と。

人は学ぶ、嬉しい事を。


人は学ぶ、悲しい事を。されど人は忘れる、嬉しかった事を。


そして人は、悲しかった記憶を胸に留めてしまう。


繰り返さ無い為に、そう自分を掻き立てる…。


いつしか覚えている事が悲しかった記憶に押し潰されてしまう。


だが、楽しかった記憶が経験が、思い出が消えた訳では無い。


何せ、楽しい事、悲しかった事、ソレらの全ての思い出が自分を作り出して居るのだから、




斬鉄の鈍い音と共に、薬莢やっきょうちゅうを舞った……『闇』が…(うごめ)きだす。


長剣と回転式拳銃を合わせた様な形状の暗黒の銃『メイアス・ルナ・ダーク』。


引き金を引いた、その両の手から肩にかけて銃の衝撃が走った。




やがて、夜の海辺に波が押しては寄せ合う様な音を立て、(うるし)の様な暗いその『闇』は動きを始め、



その闇は『風』が吹き上げられた砂によって、目に映らぬ『ただの空気の流れで』あったものが見てとれる『黄砂』の様に、風を暗き闇に染め上げる。



やがて、その『闇の風』は一つの終着点へ向けて流れ始めた。

闇の風にその身が隠れる様に見える紅き瞳は、影から獲物を見据える猫科の動物の様であった。


紫の男にしては長め、肩にかからない頭髪が闇の風に遊ばれている。


その流れの始まりは数知れず、木の陰、小さな虫達の陰、或いは夜の陰か。

夕焼けの見え始めた空に反して、夜の帳が少しずつおり始めた時間にも関わらず、まるで虚空に浮かぶその場だけが一足早く『夜』が訪れてしまったかの様に、





…『暗黒ダークマター』、『太陽』と『月』に並ぶ第3の『元素』



その闇に吸い寄せられた小舟は足掻く事は無意味、いくら水を掻き分けても風を受け様とも。奇跡でも無ければ助かる事は無いだろう。


その小舟……(いいや)。太陽都市から発っせられた万物を破壊せしめる。数多の光は今。


その小舟の様に闇の渦の中へと飲み込まれて行く……。





……そして、





「何っ!?バカなっ!」



空に浮かぶ四角い半透明な板、ソレに映し出された男は思わず身を乗り出した。


男にとって予想外な事だった様だ。

いや、もしかしたらと言う可能性は確かにあった、画面越しにこちらを見上げている紫髪の男、ナハトの手に持つ暗黒の銃剣。




…アレを持っている時点で警戒をしておくべきだったのだ。男は戦艦の司令部の様な部屋で、拳を机に叩き付ける。普段の教頭としての学院では絶対にしない事だ。


この魔法を知っている。かつて同じ魔王の下で何度も目にしていた。



彼奴が使用する事は叶わないと思っていたソレ。力を与えた魔王は滅び、何を持って『肉体を作り変える』呪いを解いたのか、身体に宿していた暗黒の魔力も無い。


暗黒ダークマターを使えるのは、我ら…『もう1人の暗黒の使い手』である博士によって作られた存在だけと油断していた。



博士が雑兵と呼ぶ。この太陽都市を操っている彼らに、机に拳の叩き付ける音と共に怯えた様な空気が流れた。



『…お返しするぜ、004さんよ。』



そう…少年の不敵な声が画面越しから聞こえ、視界の隅に見えた画面の中の男が剣を持った逆の手で、コチラを指差すのが見えた。


反射的に都市の舵を操作する者に避ける様に指示を出し、直ぐさまホムンクルスの男達は舵をとった。だが…僅かにソレは遅かった様だ。


画面に映る紫の少年の頭上にもう一つ、闇の穴が浮かび上がると…次の瞬間、大きく…都市が揺れた。




「グゥゥッ」


ノルメシアの苦虫を噛み潰した様な声を、部下達の声や地鳴りの様に聞こえる音がかき消す。



…まるで、流れ星が通った軌跡を辿って行くかの様に。天に還る光の線。


都市へと返された破壊の光は、最初の標的では無く。ソレを放った彼らへと牙を剥いた。


お椀型の都市下腹部をから、上へ…上へと貫通して行く光。


その光は、まるで天空の彼方に吸い込まれていくかの様に、その輝かしい姿を消して行った。




幸い都市の中央部に位置するココは、その光の直撃は受けなかった様だが…。訪れた余りの衝撃に限りなく人に近い彼らは悲鳴をあげた。各々が座していた場から態勢を崩し。中には打ち所が悪かったのか気を失った様な者まで居る。


そんな中004…、ノル・メシアは悲鳴こそあげはしなかったが僅かに苦渋を漏らした程度で、机にしがみついていた態勢を戻すと、再び声を張り上げる。




「被害の方は、どうなっている!?」



『次元転移魔法起動装置に、負傷あり!』


ノルメシアの言葉に、いち早く返答したのは、この場所に来た際に用いられた『転移装置』を管理している者だった。


『太陽光吸収装置出力低下!、魔石による予備魔力に切り替えます!』


『都市間魔力循環機構に異常あり!飛行機関出力低下です!』


『自動修復機構出力低下!、修復に必要な魔力が集まりません!』


転移装置の管理画面が設置された机のホムンクルスの言葉を皮切りに、一人また一人と自分の持ち場の現状を報告する声をあげる。

彼らの表情こそ冷静に見えるが、誰かが声をあげる度に、僅かに表情が曇っている。



いち早く平静を取り戻したノルは、視線を巡らし部下達に指示するとその惨状の余りに。歯をくいしばる。



「ちぃ!、直接人員を修復に回せぇ!」



『撤退』の二文字が、頭の中にチラつき思わず、拳に魔力が篭る。今すぐに今一度拳を叩きつけてしまいたい衝動を、なんとかこらえる事が出来た。



不味い…、その言葉が頭の中で繰り返される…、


『太陽都市』この…空中要塞と言っても差し支えない『モノ』の名だ。


この中央大陸で発見された数ある遺跡の中でも、比較的新しい部類に入る年代、博士の推測では今から500年前の『始まりの勇者』『原初の魔女』『一雫の聖女』『隻眼の剣聖』『微笑みの盗賊』



彼らは今やこの世界の全ての始まりに起因しているとされている者達、そんな人物の残した遺跡から発見されたモノだ。

その多くは研究段階。博士が言うにこれだけの破壊兵器を兼ね備えたこの都市も完全では無いという。


そんな代物を用いた上での撤退など、出来ない。…だが。



「007号の行方は、どうなっている!?捜索に向かった002号様は!?」


「未だ消息不明です!002号様からの報告もありません!」



あの猫娘め…、主砲の発射スイッチを連打した挙句に、終いにはボタンと砲身が壊れてしまったから怖くなって逃げた…だとぉ!、

戦う以前に身内から逃亡するなど…、あとで説教してやる。その前に002号様からお仕置きされていそうだが…まぁ、いい。


太陽都市には、太陽の光を動力源に自己修復の能力が有った、ソレが無ければ許してやれないかも知れない程、怒りを覚えて居たかもしれない。


そして以前、002号が掃除した所を泥まみれの足で歩いた007号に対して、人造魔導人形(ホムンクルス)用の食料を007号の隊だけ減らすと言う措置が有った。……もちろん007号…ミャーの分だけである。



こんな時にこんな事を思い出すとは、馬鹿らしい、だが少し冷静になれた。



見通しが甘かったか……その一言が意図せず、口から溢れ落ちる。


博士に、お借り受けた太陽都市によってこの場に転移し、007号の情報にあった『3人の存在』を捕らえ又は抹殺する。ソレが自分に課せられた任務だった。


警戒は確かにしていた、だが敬愛なる博士が解明した機器を通して判断した結果がこれだ。

否、博士に不信感を向けるなど有ってはならない、全ては自身の不始末。


事前に知っていた『裏切り者』として対処していれば良かったのだ。このままでは博士に顔向け出来ない。


『力を失ったかに見えた裏切り者』『太陽の勇者』……そして、今はマナと言う名で呼ばれているらしい彼女


博士の『計画』の邪魔となる2人を抹殺し、そして彼女を迎え入れる。……かつての様に。

そして博士の『計画』の為に、



……その筈だった。




そこに…1人の別なホムンクルスがノルの背後から再び告げた。



「申し上げます!、太陽結界が…」



「破壊…されました…」



しまった……そう思った時には遅いかも知れない。…だが、画面はまだ生きている。



ノルはナハトの動向を見ようとして、……予想外の自体を目撃する。






…………………




ナハトが、ゲイルを庇い村に結界を張った一方でマナは…。




「ふぅ…こんな感じですかね?」


マナは右手で汗を拭う様にして立ち上がる。膝丈までの灰色のローブの裾元を両手で払い足元に目を向ける。


「あなたも、ありがとうございます。」


そう言って足元の『小さな存在』へと語りかける。




小さな存在は、大丈夫と言うかの様に頭を振るとマナに目だけで微笑みを浮かべ。


マナも、小さな存在の頬をそっと撫でると目を細めて微笑みを返した。


小さな存在の名は『土の精霊』


その姿は小さな砂の山に、黒い水晶の様な目だけがついている。そして何故か頭の上に石が乗ってる。その大きさは彼らそれぞれに異なり。

マナが呼び出し『扱える』のは、両の手の平で(すく)い上げる程度の砂で出来た。彼…あるいは彼女ぐらい。

性別は分からないが、良いのだ…可愛いから。


以前彼を初めて呼び出した折に、ゲイルが彼等と土竜叩きならぬ、土の精霊叩きになった事が有ったのを思い出す。懐かしい記憶だ。

終いにはゲイルが彼だけが許された『風の魔法』で今回の様に地面に大穴を開けてしまったのだが…。



彼らは土の有る所なら何処にでも存在する。


精霊達の見た目は様々だが、『土の精霊』の彼等に限っては小さな砂山の様な見た目をしている。

ナハトの前世で言い表わすのならば、公園の園児が遊ぶ砂場で小さなスコップを用いて作る砂山である。そして彼らはその少し重そうな『頭の上の石』が呼び出す所によって、ちょっと変わるのだ。


それは、人の赤子ぐらいの重さも物から大人の男が両の手で抱え込む程の大きな石。終いには二階建ての家程の大きさの岩を頭に乗せて現れる小山の様な『土の精霊』も居る


時折、頭の石を落っことしそうで、身体の大きさでは小さな彼を、マナは呼び出す度に内心ちょっとハラハラしていたりする。


今回、そんな幼い土の精霊しか召喚が出来ないにもかかわらず。呼び出したのには訳がある。それは。



「ゴメンね、師匠がまた…大穴空けちゃって…木も…」



そう、先程のナフティアとゲイルの戦闘時の大地への避雷針の木々に雷が落ちた際に出来た穴。

焼け焦げた木などを彼等『土の精霊』が埋め立て、木は大地へと飲み込んだ。


しっかりとした庭を守る外壁なんかも、今後建てる予定だったゲイルの別荘はある意味。外壁を建てておかなくて良かったかもしれない。


木が斬られてしまった根の部分も、精霊が大地に吸収してくれた為に、すっかり庭が広々としてしまった。


だが、仕方ないとマナは割り切る。



土の精霊に癒しを覚えつつ、若干現実逃避から考えを戻す。


「ナフティアさん…師匠…」


先程の出来事、破壊の空中都市から放たれた光が此処からは見えない風の壁によって遮られた、だが…

その風の壁は易々と破壊され…その姿を消した。そして…僅かに感じていた。師の魔力も…また…。感じる事が出来ない。


いや、確かに感じていたのだが…あの村を覆う光が見えた直後の辺りから…師匠の魔力が忽然と消えた。

不安が胸に重く…重くのしかかってくる。


彼女…ナフティアが向かって行った時には確かにあった。だが…今は…



「マナお嬢様!」


執事の様な燕尾服を着た老人が、邸からこちらに駆け出してくる。


「此処は危険です、庭の整備は生き残った後にも出来ます、逃げましょう」


老執事はマナの両肩に、白い手袋をして両手を乗せて言った。


「でも、邸を頼むと師匠に…」


「それは、恐らく…ゲイル様は邸の皆、私共の事を指していたのかと存じます」


「あっ!…」


マナは言われて気づく、それはそうだ。邸などゲイルが生きていればいくらでも建て直す事は出来る。


なにせ王族でギルドでも高いランクの所持者だ。その上で『賢者』としての称号『ル』の所持者でもある。最悪マナも頑張って建て直しに協力すれば良い。


我ながら気が動転していた様だ。


「先程マナ様の御言葉を受け、屋敷の者達も正面の出口に集めておきました。どうぞ…こちらへ」



…金髪の少女…マナはナフティアと別れた後、邸の中へと向かい老執事の男性に避難の旨を伝えた。

老執事の彼の名はグイス。


彼は、マナやゲイルの様な『瞳』は持たないが人並の魔術が使える。

この邸の主人であるゲイルがいない際には、緊急時は彼が筆頭になる。勿論マナ様…と言われるだけに。

主人の弟子である以上この邸での立場はマナの方が上とされては居るが、マナの事情を知っているので彼が動いてくれるのだ。


「グイス…」


邸の壁伝いに自分を先導してくれる、老執事の背中に向けて。ぽつりと彼の名の呼んだ。


「…?いかがなさいましたか?お嬢様。」


彼は一度足を止めて身体ごと振り返ると、優しい笑みを浮かべてくれる。


「いいえ、なんでもないんです…」



マナは、コレ以上彼に心配をかけまいと、首を振った。

師匠が居ない、その事が不安で胸をかき乱す。でも、私は彼の弟子で…頼むと言って貰えた。信頼を寄せてもらえたのに…私は。


本来なら、執事の彼の様に邸の者達の安全を優先しなければいけないのだ、土いじりなんて以ての外なのに…。


自分の声とは裏腹に、気持ちが落ちて行く。


ダメだ、ダメなのに…、視界が少しずつ曇って来る。泣いちゃ…ダメ。


無力だ、師の様に村に駆け込むだけの力も無い、

執事の彼の様に視野が広く持っていた訳でもない、出来たのは情け無い土いじり。


師への不安の気持ちと共に、まるで物理的な重量を持ったかの様に、マナの心にのしかかる。



「お嬢様、あまり気を落とさないで下さい」


「と言っても優しい貴女様には無理な事かも知れませんね。」



彼は、ゆっくりとした動作でマナの前に膝を落とすと、白い手袋を片方だけ外して。マナの目元へと手を伸ばした。


「マナ様が、お気に病む事は有りませんよ。私は私の出来る事をしたまでなのです。」


マナの目元を、撫でつつ老執事、グイスは少しだけシワが見える口元で笑みを浮かべた。



「お気持ちは、私もわかります、私だっていつもいつも無力感を感じて居ました。」


「…え?」


マナの口から、僅かに驚きの声が漏れる。


「私は、お嬢様やゲイル様の様な『魔の法』を扱う事は出来ません、人の身で出来る魔術で精一杯でございます。」


彼はそっと目を閉じ、子供に優しく語りかける様に、そっと言葉を紡ぐ。


「お恥ずかしい限りですが、戦いにおいては、お二人に守って頂くばかりの存在です、…昔からそうでした」


少し遠くを見る様に森の方へと目線を逸らしつつ、マナへ語りかける。


「ですが、ある時私もお嬢様と同じ様に、同じ無力感で落ち込んだ時がありました。…私もまた至らなかったのです。」


若い、幼いなどそう言った事は言わない。細やかな気遣いを、いつもいつもしてくれるグイス。

彼の横顔を静かにマナは見つめる。

彼の優しさに、今私の事で時間を割いて居てはいけないのに、なのに…

まるで孫の様にいつも気にかけてくれる彼の言葉に、何か言おうとすると。


我慢しているものが、泣き出しそうな気持ちが押さえられなくなりそうで…。


「ある方が、おっしゃって下さったのです。」


マナの手を取って、そっと老執事が立ち上がると再び前を向く。



『何もできない事が申し訳無いだぁ?』


『何言ってやがる』


『何も出来ない奴なんてもんは居ねーよ。』



「その方の言葉の意味が理解出来ませんでした。」



『確かに、出来ない事誰にでもある。』


『そして出来る事も…また誰にもある』


『何も出来ないと感じた時、それはつまり言い換えれば、前ばかりを目指して向上しようとした、お前の向上心の現れだ。』


『嫌な過去を経験を、振り返る事は簡単だが、良かった事出来た事を振り返る事は、難しい』


『だがな、それでも、ちゃんと自分の中に確かにある物、出来た事を探せ。』


『今お前は、良く言う壁って奴を目の前に作ってしまっている。ソレを無理に乗り越えないでいい。』


『周りを後ろを見てみろ、その壁はもしかしたら、お前の頭が生み出した心の迷宮の中の…ただの行き止まりかもしれないだろう』


『ま、俺ならよじ登って超えるかもだがな!ふはは!』


『長話したら腹減ったぞ、飯だ飯!』



「その彼は、それから私にご飯を作らせ、笑いながらこう言ってくれました。」


『相変わらず美味い!』


「まるで、その言葉が私に、ほらお前にも出来る事があるじゃあないか…と言った様に聞こえました。」



…それらの言葉に聞き覚えが有った。師の言葉だ。


いや、師は言って居たっけ、親父からの受け売りだ…と。


そうだ…、いつだって…何だって、お師匠様は教えてくれた。




「もしかして、その方って…国王様?」


「おや、お嬢様はご存知でしたか、そうです、あの方のお言葉ですね。」



成る程と、思うと同時にいつの間にか涙が引っ込んでいる事に気がついた。そして、



「この角を曲がれば、邸の正面ですよ」



「ハイ!」



そうだ、出来る事をしよう、今は無事にココから彼らを逃す事、そして自分も逃げる事。先程の光線がいつ村以外の方に向くかもわからない。もしかしたらあの空の上からコチラがいつ発見されてしまうかも知れない。

村を攻撃して来たと言う事は、人を殺める為と言う事。


もしそうだとしたらコチラが狙われ無いと言う事は無いだろう。


向こう遠くに見えた結界。アレはきっと彼女(ナフティア)が村の為にやってくれたモノだろう。


何故、自分の願いを叶えてくれるのかわからない、もしかしたら全てが終わった後、いつものお師匠様のお説教よりも、怖い事を要求されてしまうかも知れ無い…だけど。


マナの脳裏に、師匠ゲイルの姿が浮かぶ。


重かった足が、身体が動く。角の先には邸でいつもお世話になっている彼らの姿が見える。


「お嬢ちゃん!無事だったかい!?」


「あぁ、良かったぁ!」


「心配しておりました」


老婆のメイド、庭師の叔父さん。年若い召使いの男性が口々にマナに声をかけてくれる。

マナは、老執事を追い越し邸正面の庭に駆け出した。


「心配かけて、ゴメンなさい。大丈夫!この通り元気だよ!」


3人の前に立ち、マナは満面の笑みを浮かべる。

彼らは、家にゲイルとマナが居ない間、邸の面倒を見てくれている。



勉強を教えてくれた事。ご飯を一緒に食べた事。一緒に釣りをして…師匠が池のヌシを釣ってしまって戦闘になった事。…後に倒してしまったせいで、討伐依頼をしていたチームの人達に謝罪に行った事。

お師匠様の釣った魚、全部ヌシに食べられてしまって落ち込んでいた事。


あの時初めて、私が執事に料理を教わって作ったんだっけ…。黒こげだったのに食べてくれたっけ…。

その後、お手洗いに消えて行ったけれど…



マナの口から…笑みが溢れた。


「どうかしましたか?お嬢様?」


遅れて歩み寄ってきた老執事が声をかけてくれる。


「いいえ、なんでも無いわ…ゴメンなさい」


口元に笑みを一層深める。


あの人を失う、いつも自分に暖かく接してくれたあの人。博士の元から連れ出したあの人。それだけは…それだけは耐えられない。耐える事は出来ない。


……ん?そう言えば、何処かで感じた事のある魔力を…先程感じた気がする…何処だったか…



「あっ!、そう言えば、もう一人のお客人を俺、起こし来ます!」


半袖のシャツに筋肉が浮き出ている庭師の男が、片手をあげつつ皆に声をかけ。そのまま邸の中へと駆け出して行く。


「ありがとー!お願いね!」


昔の事は今はいいかと、マナは考えを改める。赤髪の青年は、深い眠りの中未だに目を覚まして居ないのだ。この状況では危険過ぎる。

かなり疲労してるらしい。回復魔法のお陰か外傷の方は殆ど無いが…。ソレでもきっと何か有ったのだろう。


そう思う事にしてる


「私は馬車をここまで持って来ます!」


年若い召使いが、馬小屋の方へと駆け出して行く。


「分かった!お願いします!」


マナは元気に返す。もう落ち込まない、落ち込んだ姿は見せられ無い。


老婆のメイドとグイス、そしてマナのみが残った。


「少し待ちましょうか…」


グイスの言葉にマナは頷く。


今は3人の邸の彼らだが、実は後3人他に邸に出入りする人が居る。


一人は、あの村の村長、その村長補佐の女性。そして老婆。


ココには居なかった彼らはきっと……


そう思った時、マナの背後の空から再び強い放たれた。


「お嬢様!」


グイスがマナを庇う様に被さって来る。


雷の様に鮮烈な輝きが、夕刻の邸をマナ達を照らす。


次いで、地鳴りの様な音が聞こえた。3人は無意識に耳を塞いだ。


光と音が収まり、3人は身を起こすと、すぐに村の方に視線を向けた。…だがその村を覆う結界はそのままだ。


「なにが…起こったの…?」


あの爆発にも似た巨大な音は、着弾の音では無かった…?


「お嬢様!アレを!」


執事が、空を指指し叫ぶ。


「えっ!?」


見ると、空に浮かぶ都市の下腹部に大きな穴が空いていた。


「どう…言う事?」


アレだけの大穴、それこそ都市の破壊の光の様な魔法出ない無い限り…


「ああっ!」


そこまで考えて、思いだした。


魔法反射障壁(マジックリフレクター)


そう…ナフティア、彼女の存在を…、


彼女の反射する魔法が使用されたのだ、きっとそう。


でも…、彼女の儚い月の魔力は感じ無いのに…どうして?


どうして…、彼女の魔力も、師匠の魔力も感じ無いの…


どうして、禍々しい魔力が…あの都市付近に渦巻いているの…?



「やった…のでしょうか…?」



グイスは、目線を空から筈さず問いかけてくる。



「分からない…」



空の都市、いまだ浮かび上がったままだ。

魔法によって『法』を敷かれ、あれだけの建造物が空に浮かんでいるとしたら、その魔力の元が断たれて居ない証。つまり、まだ、あの都市は生きている。そう言う事の筈だ…。



警戒しつつ、ココを離れよう、そうマナが言いかけた矢先に。





「ちわーーーっス!!、猫ママ印のネコ急便でーす!、お届けモノを回収しに来ましたぁ!」



3人がそんな声が聴こえた方を見ると、作業着を来た見知らぬ女性が、紅い長髪を風に揺らしながら門の前に立って居た。






深くかぶったツバの長い帽子の下に見える口元が……不気味な笑みを浮かべていた。


こんばんは、こんにちは、おはようございます。最近腰を痛めつつあるサルタナです。



これからもう少し早く更新する為にもう少し早く書きたい!なので、もう少し頑張って行きます!



そんな事はさておき、お気づきの方が居るかもしれませんが今回の一つ前のページ。そして今回の更新。


感想に頂いた描写についてのアドバイスを受けて、頑張ってみました!主に今回の更新は特に!。


全ページを編集したいのですが、まだまだ追いついて行けるのは厳しそうです。


その辺りも、要改善したいと思います!



では、今回はこの辺りで。


最後に、この小説の未来のお話、『日陰の聖女』と呼ばれた男の物語も良かったら、少しずつ更新しますので。読んで頂けると嬉しい。



では、また次の更新でお会い致しましょう…次の回も頑張って行きます。



そして、この作品を手にして頂き本当にありがとうございました。


また手にとって下さると嬉しいです。



では、また。

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