風の賢者との出会い
大地の少女は出会う、
その身に太陽を宿した少年に。
風の賢者は出会う、
その身に、月を宿した少女に。
海の上を、風に乗って旅する鳥達の声過ぎ去って行く。
さざ波の音が、聴く者の心を健やかにさせてくれた。
小さな風が水と戯れ、また遊ぼうと別れを告げ、柔らかな風を纏った精霊達は森へと飛び立って行った。
……だが、それはこの海岸の何時もの風景だ。
確かに、この日は何処か違って居た。
風の小さな精霊達、そして、水の小さな精霊達の中に、
全体の1割にも満たない程度の精霊が、その身を浅黒く汚され身から発せられた魔力は弱り、息も絶え絶えになって居た。
その者らは、ある者は花の上を寝台の様に、瞳を閉じて居た。
また、ある者はその身を、海の浅瀬に沈めて眠っている。
その森の中を、1人の男性と少女が突き進んでいた。
男が幾度かの、魔物を退けつつも森の奥へ奥へと進み行く2人、
幸いにして彼らの目的地、海岸に向かう上では然程の深い森では無い。
潮っ気が風に混ざり始め、日陰に満ち森林の向こうに、蒼い地平線が見えた。
太陽の光に小さな波が彩られた輝きが見えた。
「この魔力の元凶は、あの先か……?」
その視線の先には、森の終わりが見え初め、男の瞳は淡い翠色に発光して居た。
「なんだ……?」
彼の慣れ親しんだ精霊とは違う魔力、火から始まり、水と風、そして土
そのどれでも無い魔力を微かに感じる、昨夜の海の向こうから感じてい魔力は今は感じない。
だが、それに近しい今は微弱にだが、魔力を感じる。
「お師匠様〜もうちょっと、休憩しましょうよ〜」
男の背に先程の様に悪態が聴こえるが……
「マナ、風の精霊の方はどうだ?」
少女の泣き言を無視して、僅かに振り返ると、男は尋ねた。
「ちょっと待ってくださいね〜」
そう告げる少女は、そっと大地から浮かび上がった。
その身体は翠の輝きを纏い、彼女の周囲に四つの光の球体が浮かんだ。
赤、青、黄色、緑、
その光の球に囲まれる『マナ』と呼ばれた少女は、その眼を閉ざし、左右に両手を広げると、
その小さな口で唱えた。
『我が風の眷属、水の眷属よ。』
少女の周りを回っていた内の一つ、また一つと
緑と青の球体が、『妖精の羽根を持った少女』へとその姿を変えた
マナの前に降り立つと、彼女達は瞳を閉ざしその手をマナの手に重ねた。
次いで、更なる詠唱をマナは紡ぐ。
『大いなる大樹、その吹き抜ける風の下、その偉大なる息吹の一端を、この言の葉を持ってこの地へと導かん』
『風は波と踊り賜う』
その詠唱を終えると共に、その眼を開いた…。
藍色だった…マナのその瞳は、爛々(らんらん)と黄金に輝いていた。
『シル・ヴィ・ヒーリング(風と水の癒し)』
重ねた彼女らの手からは、彼女らと同じ翠の光が溢れた。
その光は風に流れて行くかの様に、この森を海岸を流れて行く。
潮風が男の鼻をくすぐった。
その風は、精霊達を優しく包み込んだ。
「終わったか……」
その、一言と共に、
癒しの光は、ゆっくりと消え、後に残されたのは、元気に飛び回る、幼い精霊達だけだった。
そちらを一瞥すると、風の少女はスカートを両手で僅かに広げ、上品に男とマナに頭を下げ、
そっと消えて…行った。
水の少女も、マナに手を振ると大地へと溶けて行った。
「しかし、ここまで魔王の魔力が来ていたとは…」
「魔王の魔力…か」
「海岸の方から妖精達は来ていた、行くぞ!マナ」
「ハイ!お師匠様!」
二人は、決意を新たに、魔力の元凶へと歩みを進める。
強大な力を持ち、
破壊と侵略によって、この世界を支配しようとする者、
この世界において、最も優れた種族『魔族』
その魔族を洗脳する力を持ち、古来より復活し続ける存在。
世界を巡回する負のエネルギーによって、
魔力の流れを塞き止め、《魔力溜まり》を作りだし、魔物を際限なく生み出した存在。
それが《魔の王》《邪なる者》人々は《魔王》と呼ぶ存在、
世界に関与する事が出来る程の能力、
どうやって手に入れ、何故復活するのか、
或いは、他の………
………
「……sしょ…さま」
「ゲイル・ガーランド師匠!危ないです!」
「…っ!」
背後から聞こえる少女の声に、思わず男は足を止めた。
海岸に入る手前、丁度自分の前に出した右足の、そのすぐ前に大きな木の根が大地より盛り上がっていた。
ーー このまま歩いていたら、砂浜に顔面から突っ込んで居たのは、想像に禁じ得ない。
いや、おそらく…そうだろう。
「大丈夫ですか?ずっと難しい顔をなさったまま、ずっと無言で考え混んで居たようですが」
「すまない、マナ、考え事をしていたらしい」
「大丈夫ですよ〜、賢者の皆様は、皆似た様な癖をお持ちですし〜……それよりも……アレは……?」
「ああ……、少し隠れつつ、様子を見よう」
ゲイル・ガーランド師匠と呼ばれた、黒いローブの男は。一瞬バツの悪そうな表情を浮かべると、木陰に隠れる。
金の髪の少女…マナも、男に習う様に隣に隠れる。
二人の視線の先は海岸の砂浜、
一見見回すに、小々波と共に、風と水の妖精が踊っている、何時もの砂浜だった……
だが、……おかしい、
何故なら、普段見かけない、精霊達が二人の視界に捉えたから。
白、オレンジ、そして、黒い精霊。
「あれは!?暗黒の魔力の残滓……か?」
「それに…まさか…っ!?…闇属性の精霊…?」
暗黒の魔力、
…それは、魔王によって、月と闇属性、そして負のエネルギーを融合させたと言われている魔力、
その魔力は、洗脳された魔族達が好んで使用する。
そして、闇属性の精霊、
その属性全てでは無いが、魔族と共に魔王によって洗脳された精霊達である。
二人も以前、数々の人里への襲撃の際、
常に闇の魔族と闇の精霊は、ワンセットだった事を覚えている。
海岸の一箇所に見える、闇属性の精霊が居る場所、更に僅かに見えた月の精霊達。
魔族に洗脳され、良い様に使われているのは『月の精霊』と『闇の精霊』
それは、つまりこの場に、普通の魔族、または、いや、闇の魔族の可能性が高いかも知れない、
先程のマナの浄化のお陰で、暗黒の魔力は弱まっている筈だ。
だが、その場所に更に別な精霊がいる、
その精霊は、どうやら、今も増え続けている様だ、
「あの精霊は……火か……?」
遠目から、妖精達の様子をみるがはっきりしない、
火にも見えるが、火にしては色が薄い様な……
「お師匠様…アレは火の高位種が一つ《太陽精》ですよ…」
ゲイルは目を細め、遠くの精霊達を、その風の力を宿した瞳で見やると、
黄金の瞳に転じたマナが答える。
「太陽の精霊だと?!、原種の精霊の一つではないか!?」
「はい、オマケに、…月の精霊もいるとなると、何故でしょう…確か『魔族は聖なる光の魔術」や『太陽の魔力』が苦手な筈ですよね。」
「遠目では分からん、行くぞ!マナ」
「あっ!…ハイ!」
そう弟子に言うと、黒いローブの男は、目的の場所まで、砂を鳴らしながら歩く、
……確か、火と太陽の国では、『闇の魔族』に対して、『太陽を司る部族』が中心になって戦って居たと言う、
もしや……
そう黒いローブの男は、以前聞いた話を思い出しながら、目的地に向かって行くと、
予想通り、海岸に二つの影が倒れて居た、
その影の上空を精霊達が、漂っている、
二つの影は、太陽の精霊が周辺を漂っている方は、少年だった。
どうやら気を失っているらしい、
「マナ、赤い奴の治療を頼む」
そう…弟子に指示を飛ばすと、少年の元に彼女は、掛けて行った。
そして、その奥に、
僅かに、暗黒の魔力を漂よわせ…、ている薄っすら紫が入った白い髪の少女が見えた。
しかし、その少女の周辺を月の精霊達が、心配そうに顔を覗き混んだりして居た。
……洗脳して無理矢理行使、して居ないのか……?バカな…!?
歩みよって確かめてみようとすると、月の精霊達は、怯えた様に涙を浮かべ、ゲイルの前に立ちはだかった、
ちらっと、マナの方をみると、何やら太陽精霊達に語りかけ、彼に回復魔法を行使し始めた所だった、
(アイツの方は、心配なさそうだな、何せ、アイツの存在は特殊だ、精霊とだって会話出来る)
視線を戻すと、再び月の精霊達と目が合った、
試しに、攻撃性の魔力を右手に集め殺気を込めて見つめてみる、
すると、月の精霊達は、その瞳に怯えを宿すが、少女の傍を離れる様子はない、
むしろ一層護ろうとしている様だ。
(やはり、これでも月の精霊達から、暗黒の魔力は感じない……か、つまり操って居ないのか)
本来、特殊な存在の精霊、世界の至る所に存在するが、見えるのは限られた存在だけ、
その精霊が、ここまで護ろうする少女に、
ゲイルは目線だけを向ける、
月の精霊達の表情に緊張が走った、
(暗黒の魔力の残滓は、右手か……それ以外は…ってコイツ…!。…なんて、魔力を宿してやがる!?)
視線を向けた時、風の瞳に解析の魔術を行使していたのだ、
(オマケに、俺が『解析魔術』を一部阻害されただと……!?バカなっ!?)
『原初の魔女』の最初の『弟子』達が、代々その魔術と英知を守り継承して来た者達に、送られる『賢者の称号』
その一人が、ゲイル・ガーランド。
現『風の国の賢者』である、
今回の魔族進行も、それぞれ賢者達は、世界を護る為に行動している、
今の自身の様に……。
確か、魔王の城に一人乗り込んで居たな、……アレは、火の国の賢者だったか…
考えが、変な方向になり、一度頭をふった、
「月の精霊達よ、俺は彼女に危害を加える気は無い、魔族の事も有って、試す様な真似をした、すまない」
「そちらは、俺がどうゆう存在か、気づいている様子、すまないが……信じてくれ…」
そう月の精霊たちに、男は告げると頭を下げた。
月の精霊達は、それぞれ顔を見合わせる、
「その少女は、傷ついている様子、もう一人の方は俺の連れが治療している、それにココも人にとっては、長居は危険だ、安全な所まで二人を運ばせてほしい」
もう一人の、太陽精霊が護ろうとした少年の方にも、月の精霊が居た。
太陽精霊に比べて数は少ないが、目的は同じなのだろう。
そう思っての一言だった、精霊達は相手の心を僅かに感じとる、俺の考えを感じとって居るのかも知れない、
不安気な表情が見える…。
そこまで、信用ないか……俺…
…いや確かに、攻撃しようとしたけどさ…
けれど、二人を案じた言葉は本当だ、
言葉とは裏腹に違った感情は確かにあった、
だが、それらの感情は、『一言』に集約する。
『コイツら、いや……この少女は何者なんだ?』
こんばんは、こんにちは、おはようございます。
サルタナです。
今回は、日付を股がず、頑張って連続投稿してみました!
ね……眠い、流石に24時間以内に2ページは、プロット無しではきつい…
まったり投稿タグ、どこ行った状態では有りますが、頑張ってみました。
今後は、こんな無理はせずに投稿していきます、はい、
読書の皆様の一部の方々は、お気づきかも知れませんが、
ここ数日で投稿したページを、見やすく編集してます。
良かったら、読み返してみてくださいますと、幸いです。
では、また、次回の投稿で、