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どうやら、自分は倒された様です

…太陽の力を借りて輝くと言われた…月の光。


…その輝きは、他の星々の光を飲み込み…己が輝きのみで大地を照らしだす。そんな力強い…命の光が降り注ぐ太陽の光とは異なり。


…例え、闇を払う事は敵わずとも、


…多くの星々の光と共に、生ける者達の闇世を照らす、慈愛に満ちた…淡い光。




例えその光が、多くの星々や太陽とは異なり、仮初(かりそめ)の輝きだったとしても…。


月の明かりが、優しく降り注ぎ…

やがて、その光が一筋の光の帯となってその空間を淡く照らしだす。


「……ゴメン、………ナハト。」



その端正な顔立ちを悲しみに染め 赤髪の少年は、一発の銃弾を…。


けたたましい発砲音と共に紫髪の少年に放った。



「が……はっ…」



銃弾は、その軌跡で光の線を描くように、紫髪の少年の胸へと吸い込まれて行く


その衝撃に耐える事は叶わず、後方の壁へと吹き飛ばされて行く。



「…ぐぅ…ゴホッ…ゴホッ…」



紫髪の少年は、鈍い大きな音を立て背中からその身を激しく壁に打ち付ける。そして、

ずるずると重力によって引きずられるかの様に、大地へと崩れ落ちた。



背中から突き抜ける衝撃によって、肺から空気を押し出すかの様に咳き込む。まだ意識はある様だが、口からは咳と共に僅かながら血が漏れ出てくる。




「…ハァ…ハァ…コレで、決着だよ。…兄さん」




そう赤髪の少年が呟くと。

今しがた銃弾を放ったであろう右腕が、だらりと下がり自身も崩れる様に、片膝を立て床に座り込む。




「ぐっ……ハァッ…ハァ」




最後の一撃の負荷が肩に来てしまったのだろう…、そっと左手で右の肩に触れると、項垂れる様に座り込む少年は、その整った顔立ちを苦しげに歪める。




「痛ぅ……ハァ…ハァ…母…さん」



「俺…やったよ。俺…約束…守ったよ」



そう呟くと赤髪の少年は、そっと瞼を閉じ、ココには居ない母の姿を思い浮かべた。


悲鳴をあげる身体に、少しでも楽な体制をと僅かに身動ぎ、己が血で濡れた左手を覗く。



赤髪の少年の服は所々裂け、そこから覗く素肌には多くの痛々しい傷が見える、

中でも右手から右肩までの裂傷は他の部位に比べ酷く、服に剣で斬り裂かれたかの様な傷が残っている。それだけでも激しい戦闘が有ったのだと言うのが伺える。




「マサト!!」



赤髪の少年の背後から、凛としたソプラノボイスが響くと、彼の仲間達が駆け寄って来た。



「大丈夫!?マサト!」



赤髪の少年、マサトと呼ばれた少年の仲間であろう数名の男女。その中で軽い足音をたてつつ、座り込むマサトを気遣うかの様に傍に駆けつける少女。


そんな少女に、彼はそっと…微笑んでみせた。


荒れる息の中、少しでも彼女を安心させてあげたくて。


だから、大丈夫だよ、と彼は笑みを作った。



だが、無理して居るのが一目瞭然だったらしい。


少女は鬼気迫る様な焦った声をあげると、小さく歌う様に呪文を詠唱し始めた。


すると、その少女の両手と少年の傷口が神々しい輝きに包まれる。



「今、治してあげるねっ!」


『我が友に癒しの光を…ヒール!』



マサトは、若干残る息切れを整え様と大きく息を吸うと、深く息を漏らした。


そして、少女に微笑みかけて告げる。


「ありがとう、ナターシャ、助かるよ」


その彼の様子に今度こそ大丈夫だと、安心したのか少女も、そっと息を漏らすと、頬を膨らませつつ告げた。


「全く…マサトは…、こんな無茶してっ!、私の…私達の気持ちも考えてよねっ!」



金髪の少女…ナターシャと呼ばれた少女は怒りとも呆れとも取れる口調で、腰に手を当てマサトを叱りつける。

だいぶ御立腹らしい。仄かに目元に光る物が見えるのは仕方の無い事なのかもしれない。それだけマサトに心砕いてくれているのだ。それが嬉しくもあり愛おしくもある。そしてだからこそ罪悪感が大きい。


だが…それでも。


「ナターシャ、そして皆…でも俺は、兄さんとの最後の一騎打ちを…」


マサトは、一度真っ直ぐ己が血を分けた兄を見据えると、幾ばくかの間を置いて言った。


「逃げる訳にはいかなかったんだ…。だから…、ワガママ言ってゴメンね、ナターシャ。」



傍に膝を着く少女に…ナターシャに、そして仲間達へと今一度微笑みながらも、謝罪の気持ちを素直に彼らに伝える。



この一騎打ちを初める以前、最初は彼らは皆反対だった、何かある、罠かも知れない、危険だと…。


だがマサトは、彼は止まる事は無かった。


その最後まで反対していたのは彼女…ナターシャだった。


…だが最後には、うっすら目元を濡らしながらも他の仲間達が張った結界へと下がってくれた。

泣くまいと言う表情を浮かべ、頑張って…と一言マサトに残して。




「べっ!…別にいいわよ…。私達絶対マサトが勝つ!って信じてたし…」



ナターシャは、マサトの治療を終えると、自らの両手を自分の膝の上に置くと、

白く丈の長いスカートの裾を握り締め、マサトの微笑みから紅の指した頬を隠すかの様に俯く。



「でも…でも!…、不安で…心配で、怖かった…」


何が…とは言わない。ソレは言ってしまう事さえも現実になってしまうかもしれない恐怖からか、

はたまた、彼を失ってしまうかも知れない恐怖の方か。


『魔術』或いは『魔法』と言う懸念があるこの世界では『声』と言う『言の葉』が、今の『現実』に影響する世界。


例え、『魔力』を込めて行っていなかったとしても、元を辿れば『声』。

可笑しな話と嘲笑われたとしても…、それでも不安なのだ。



彼女は、ココに居る誰よりも…誰よりも!…、マサトの手助けをしたかったのであろう。





ナハトとの戦闘中、何度も自分を心配する言葉が聞こえた。

頑張れと、そして…最後にマサトが見たのは、彼女が神に祈る修道女の様な…その姿だった。



「大丈夫!、みんなが…ナターシャが!、信じてくれたお陰で俺は、今勝つことができた!ありがとう!」



マサトは、ナターシャの先程の治療魔法のお陰で、痛めて居た肩が動く様になったのか、

ナターシャの両肩に手を置き、真っ直ぐ彼女の目を見て礼を告げた。




「いや…それほどでも…ないわよ。」



ナターシャはマサトに肩に手を置かれた時、反射的に、きゃっ…っと小さく悲鳴を出していたが、

真っ直ぐ見つめられている状況からか、顔を真っ赤にして、側から見ても狼狽えていた。



「そろそろいいかなぁ?イチャつくのは、別に良いがぁ〜、次が終わってからにしてくれないかな〜」



ナターシャの背後に立ち、身の丈より長い杖を左手に灰色の外套を纏った銀髪の青年が、マサトとナターシャの2人に声をかける。


もう1人の大楯を手に持ち、腰にロングソードを下げた、白銀の騎士の鎧を纏った金の長髪の青年も、頷く。


暖かい空気を醸し出す2人に、今まで声をかける時を伺って居たのだろう。




「い…イチャついてなんか…!、私とマサトは、そんな関係じゃないし……まだ」


「……そうだね、ココからが本番だっ!」



ナターシャは、銀髪の青年の言葉に当初顔を耳まで赤く染め上げながらも、声高々と反論していたが、

最後の方には、小さく…呟く様になっていた。



一方で、マサトはコレからの最終決戦に向けての場の空気を和やかにする為の冗談、

と…そう思ったらしく…ハハっと小さく漏らし爽やかな笑みを浮かべ、銀髪の青年の言葉に同意した。



「アレが《奴》の所に繋がる転移床か?」




金髪の騎士の青年が視線で、目的の場所を指す。

《奴》…その短い一言だけで、この場に居る者全てに『何を』指し示しているのかが分かった。


…魔王、最後の敵


正真正銘の、彼等にとって最後の闘い。



「ああ、だと思うよぉ」



銀髪の魔術師の青年は、マサトとナターシャから視線を外すと、騎士の青年の視線の先を探る様に部屋の中を見回し、若干間延びした口調で同意する。



騎士の青年が見ているのは、ナハトとマサトが決闘をした室内の中央、

部屋…とそう呼ぶには余りに広く、また一般的に思い描く部屋にしては作りが丸い、円形の空間。


あえて近代的な言葉で言い表わしたのならば、ドーム状の建物、その内側だ。


…と、そう言った方が分かりやすいのかもしれない。



その円の中を四角で区切るかの様に、四隅に大きな天窓があり、そこから月明かり空間の闇の中を青く彩って居る、


丁度その一箇所の下に、マサトに兄と呼ばれた紫髪の少年…ナハトの姿が見える。



部屋の中央部には四つの円形の柱があり、その柱に囲まれる様にして仄暗く発光する床が見える。


恐らく何らかの魔力を発していると言うのがココに居る、皆から見て取れた。


先程の金髪の騎士が視線で指していたのは、この床の事である。



そして、その黒い光を発する床の前にマサト達は、歩みを進めると

先頭に立つマサトが、勢い良く振り返り皆に問う。



「みんな準備は、いいか?」



マサトの力強い問いに、仲間達は頷く。


その頼もしい皆の姿を、見ると再び前を向き拳を、天へと突き出す。



「コレが最後の戦いだっ!行くぞぉ!」



その雄叫びにも似た掛け声に、力強く皆が応えると、転移床に続々と乗っていく



今…最終決戦が…始まる。











…………………




………そして、一つの物語が終わりへと足を進め、また一つの物語が歩みを始めた。




……やがて、壁を背に横たわる紫髪の少年以外、そこには誰も…居なくなった。










『…………ナハト…』



誰も居なくなった筈の、この空間に、


何処からか、女性の聞く者に暖かみを与える様な優しげな声が響く。




されど、声からして女性と思われた『声』の主の姿は見えず、天窓からの月明かりだけが、ナハトを静かに照らし出す。



すると、蛍だろうか…?天上からゆっくりと舞い降りた小さな灯が一つ。



『…ナハト……』



その灯は、一つ…また一つと…ナハトの数歩離れた場所に集まり始めた。




集まった灯は、次第に大きく…尚大きくその姿を変え

小さな手の平にも満たない雪の結晶程度の大きさから、人の身の丈ほどの大きさになると、ぼんやりとした輪郭(りんかく)の人型へと、姿を変えて行く。

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