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27歳のバレンタイン  作者: 白石 玲
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27歳のバレンタイン 11日の物語

   27歳のバレンタイン   ―――2月11日(水祝)―――


『ごめん、今ちょっと忙しくて』


 再会してから初めて私からかけた電話の向こうで、心底申し訳なさそうに言った彰・・・やっぱり、あれはただの再会のなつかしさで、寂しい私に付き合ってくれただけ?


 彰と年明けを過ごしてからおよそ一か月。何度かメールや電話はしたけれど、土日祝日が基本の休みである私とは違い、彰の休みは平日が多くてしかも不規則。元旦から一度も会えないまま、2月も10日を過ぎてしまった。


 結構な勇気を使ってやっとかけた昨日の電話でも、彰は優しかったけど、先輩の急な休みで仕事が忙しく、ゆっくり会う時間を作れないといわれてしまった。まあ、彼女でもない私のために、裂く時間はないということかもしれない。ただ優しいから、それをはっきり言わないだけで。


「・・・きゃっ!」

「・・・あんっ!」

 友達とショッピングに行こうにも、既婚者の多い中で休日の相手は見つからず、ひとりふらりと街へ出て、バレンタイン目前できらきらと彩られた眩しいデパートのバレンタインコーナーをぼんやりと歩いていたら、見事に正面衝突。懲りずに13センチのヒールを履いていた私も、小柄だった相手の女の子も同時にしりもちをついた。

「ごめんなさい、大丈夫ですか?」

 女の子のほうが先に立ち上がって私に手を差し出してくれた。

「いえ、あなたこそ、怪我はない?ごめんなさい、私、考え事していたから」

 人前で久しぶりに転ぶ恥ずかしさにも劣らないほどの痛みに多少顔をしかめつつも返すと、相手のほうが申し訳なさそうな声を出す。

「いえ、私がよそ見してたんです。それに私、よく人にぶつかるんで」

 どこかで聞いたような声に顔を上げると、やっぱり見たことのある女の子。可愛い金ボタンの真っ白いコートで首にクリーム色のふわふわのファーの耳あて。この前会った時とは全く服装が違うけど・・・。

「あ!藤堂さんの彼女さんですよね!」

 茶色のマスカラで縁取られたまん丸い瞳。

「あなた、彰と同じホテルの・・・」

 彼女は間違いなくクリスマスに私が3時間待っていたラウンジで紅茶をサービスしてくれた可愛いウエイトレスだ。

「覚えていてくださったんですね!神崎(かんざき)(れい)です」

 嬉しそうに名乗った彼女のそばにはたくさんの製菓材料が入ったかご。ああ、バレンタインだから彼氏にプレゼントするんだな・・・。

「私は山口結衣。ちなみに、彰の彼女じゃないの」

「ええっ?」


「私、てっきり結衣さん、藤堂さんの彼女さんだと思い込んでました」

 人懐っこくて可愛い玲ちゃんに誘われて、私はエコバックいっぱいに製菓材料を買い込んだ彼女とお茶をすることにした。

「元・彼女なの」

「どうして別れちゃったんですか?」

 ほとんど初対面状態であるにもかかわらず、玲ちゃんは明るく楽しく、こんな突っ込んだことまで聞いてきてしまう女の子だった。もっとも、彼女の純粋そうなまるい瞳と裏表のなさそうなはきはきとした性格は、相手にこんなことを訊いても不快感を与えない、天性のなせる業なのだろう。実際玲ちゃんと話していると、ずうずうしいとは思うけれど、なんだか学生に戻った気分になってきた。

「うーん・・・若気の至り?」

「なんですか、それ?」

 寝起きの悪さと遅刻癖は彰の名誉にかかわる(?)ことなので、私は正直に答えるのはやめておいた。

「もう一度、藤堂さんと付き合っちゃったり、とか、どうですか?」

 しっとりサクサクのアップルパイにアイスクリーム、玲ちゃんはキャラメルで私はストロベリーチョコレートのソースがたっぷりかかったものすごく甘ったるいデザートを食べながら恋愛話をするなんて、本当に学生以来かもしれない。

「どうかな・・・彰には私よりもっと、いい人がいるかもしれないし」

 本当は、もう一度彰の隣に立っていたいと思っているけど、つい2か月前の失恋の傷は案外深くて、彰はそんなことはしないだろうと思っても、今の私には、恋愛をする勇気はなかった。

「いないですよ!結衣さん美人だし、藤堂さんハンサムだし、ふたりはベストカップルです!」

 真顔で断言する玲ちゃんは、高校生ならではの恋愛パワーがあるのだろうか。彼女の言葉を、信じてみたくなる。



 ねえ、玲ちゃん。あなた私の、恋愛の神様?




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