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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

普通を求める殺し合い 体験版

作者: ロン

案が浮かんだので書きました。

「俺はこの世界で」が完結するか、終盤まで行くか、行き詰まるかすれば連載小説として投稿されるかもしれません。


それでは、どうぞ。


2016/03/25 若干の文章追加の後、再掲。

 ある少年は、外の空気を吸うと同時に両親を失った。

 彼の母親は彼を産んだときに死に、彼の父親は同時刻にトラックに跳ねられ即死したらしい。

 ──────それだけなら、只の不幸な人間だ。しかし、少年はそうではなかった。

 唯一の親戚だった母親の姉が、少年を引き取った。その三日後、姉の家が全焼した。子供は奇跡的に無傷だったが、姉は全身が焼けて死んでいたという。

 その後少年は養護施設に預けられ、暫くは何事もなく過ごせていた。

 だが、少年が五歳になった時に、事件が起こる。

 気をおかしくした男が養護施設に侵入、警察に取り押さえられるまでの間、無差別に人を殺し尽くしたのだ。その結果、養護施設の人間は老若男女問わず全員死亡した。その少年を除いて、だ。

 その後、色々な場所を転々とするが、結局何時かは事件が起こり、少年以外は皆死亡することになる。

 彼を知らない人間は、「こんなに事件に巻き込まれて生きているなんて奇跡だ」と言うだろう。

 だが、彼を知っているモノは、必ずこう言った。



「奴に関わった人間は、必ず死ぬ」と──────。



 ---------------


「……夢か」


 何時ものように夢を見て、僕──鎌崎カマザキ狩也カリヤ──は目を覚ました。

 ベッドから出てきて窓を開けると、眩い日の光が部屋を照らした。それが思いの外眩しくて、思わず手で光を遮断した。そして、何時もの様に呟く。


「普通の生活が欲しいなぁ」


 テレビを付ける。いつも平日にやるニュース番組をやっていて、時計を見ると、8:30という数字を表している。

 だけれど、僕がそれで慌てることはない。

 僕はまだ十六歳で、普通なら高校に通っている年齢だろう。でも、僕はそうじゃない。それどころか、中学にもろくに行っていないのだ。別に虐められたとかそういうのではない。どちらかと言えばむしろ逆だ。僕が行くと、必ず誰かが死ぬのだ。もうある程度は慣れた、が、やはり気分の良いものではない。

 冷蔵庫を開けると、中には何も入って居なかった。「しょうがないか」と呟いて、家から出る。

 目に広がるのは、只の廃墟だ。まぁ、大体は僕のせいなんだけど。

 この町に来て、もう五年になる。その間に、信じられない数の事故が起こり、大勢の人が死んだ。

 ここ最近になり、僕の性質──便宜上、【呪い】と呼んでいる──も把握出来てきた。

 具体的に言うと、電話など、実際に会わなければ【呪い】の影響を受けないこと、僕が寝てる間は僕に危害を加えようとしない限り【呪い】は発動しないことなどだ。

 それを利用して、電話で仕事を貰い、人知れず完遂。寝てる間に食料を貰うというサイクルで生計を立てている。

 確か、今日がその日だった筈だ。


 その場所まで歩いていると、誰かがそこに置かれている食料を食べていた。気になったので、声をかける。


「えっと、それ、僕が仕事で貰った食料なんだけど」


 そう言い切ると、その人の肩がビクッと跳ねた。そして、パンをくわえたまま振り返ってきた。その人の姿が見える。綺麗な白髪を首もとで切り揃えた、可愛らしい女の子だった。


「ふ、ふみまへん!」

「………取り敢えず、パンを食べてしまってから話そうか?」

「っ!?」


 多分「済みません」って言ったんだろうけど、別の言葉にも聞こえるので、取り敢えず口にくわえてるものを食べるように勧める。すると、はっとした様子で顔を真っ赤に染めてから、急いでパンを食べ終えた。

 …最近は直接人と会ってないので、そういう行動にも注目してしまう。じーっと女の子を見ると、一歩後退りされてから、頭を下げられた。


「済みません!貴方のご飯だって知らなくて、それに、お腹も空いてて………」


 そこまで言った瞬間、どこからかグ~~~っという音がした。勿論僕ではないし、辺りには誰も居ないはずだ。つまり………

 目の前の少女を見ると、またもや顔を真っ赤に染めてその場にしゃがんでいた。

 うん、やっぱり。だけどこのままでは話が進まないので、僕から話かける。


「うん、先にご飯食べようか?」


 そう言って手を差し出す。少女は小さく頷き、僕の手を掴んだ。



 家にご飯を運び、料理したあとそれらを食べ終えると、少女が先に口を開いた。


「あ、あの、ありがとうございます。赤の他人の私にご飯をくれて……」

「いいよ。僕も、他の人を見るのは久しぶりだし。それに……いや、何でもないよ」


 ──────それに、直ぐに死んじゃうだろうし。

 そうとは言えずに、適当にはぐらかす。

 少女が不思議そうに僕を見ているので、何か言わないとと思い、必死に話題を探す。

 話題は───あった。


「そ、そんなことよりも、教えてくれないかな?君の名前。あ、僕は鎌崎狩也だよ」

「わ、私は、黒坂クロサカシロ、です。好きな食べ物はこんにゃく、嫌いなものは嘘です」

「それじゃあ黒坂さん。君はなんであんな所に居たのかな?」

「…白」

「え?」

「白って、名前で呼んで下さい」


 ……質問したら、「名前で呼べ」と返された。一体どういう意図なのだろうか。それは全く分からないけれど───正直言うと、嫌だ。今日か、明日か明後日か。結局、いつかこの子は死んでしまう。僕の【呪い】によって。

「黒坂さん」と名字で呼ぶのも嫌なのだ。名前で呼んでしまうと、少しだけ心を開いてしまうから。

 だから、それは聞けない。それが僕の下らない我儘だったとしても。


「……ごめん、それは出来ない。理由も聞かないでね。その代わりと言うのもなんだけど、僕のことは狩也って呼んでもいいし、タメ口でも構わないからさ」

「…分かりました、狩也。ですが、タメ口は貴方が私を名前で呼んでくれるまで使いません」

「うん、それでいいよ。それで、なんで君はあんな所に居たのかな?」


 話が少し反れたので、強引に元に戻す。すると黒坂さんは、黙って下を向いてしまった。

 言いにくいことなのかな?と考えていると、彼女が小さく呟いた。


「逃げて来たんです」

「なんで?」


 そう返すと、彼女の肩が震え始めた。どうしたのかと思い、声をかけようとすると、彼女はおもむろに立ち上がり、叫んだ。


「私は、私は【呪われて】いるんです!!」

「……え?」


 今、何て言った?呪われている?僕と同じ?

 その言葉を聞いて固まっていると、その姿を見た黒坂さんが、信じていないと思ったのか、補足を始める。


「私は、誰からも平等に接されるんです」

「……それって虐められない分、良いと思うけど?」

「違うんです。本当に、平等に、公平に、皆接してくるんです。学校の先生も、クラスメイトも、親戚も、家族だってそうです。悪くも見られませんが、良くも見られません。家族の気を引こうと悪戯をしたこともありました。でも、まるで別の家の子供を叱るように、注意してきただけでした」


 彼女の状態、それは、少し僕と似ていた。確かに【呪い】の規模が違うし、平等にされてるのだって、彼女の勘違いかもしれない。でも、僕は思ったんだ。

 ──────彼女と僕の【呪い】は、根本的な性質が同じだ、って。


「だから、」

「?」

「貴方がご飯に誘ってくれたとき、嬉しかったんです。見ず知らずの私に優しく手を差し出してくれた貴方が、とても眩しいものに見えました」

「それは……人が来るのが久しぶりだったからだよ。例え君じゃなくても、きっと僕は同じように手を差し出した。だからさ」

「それでも、です」


 否定の言葉を返そうとすると、彼女がテーブルから身を乗り出すことで僕に近付き、彼女の指を僕の唇に添えることで無理矢理止めてきた。


「っ!?……うぁ!?」

「あ!?ごめんなさい!」


 その彼女の行動に思い切り動揺してしまった僕は、そのまま後ろに下がろうとした。が、今僕は椅子に座っている。その結果、思ったとおりには行かずに、そのまま後ろに倒れこみ、その拍子に頭をぶつけた。黒坂さんの謝罪が聞こえてくるが、今はそれどころじゃない。

 頭を押さえつけていると、慌てたようすの黒坂さんが話かけてきた。


「きゅ、救急箱、救急箱はどこにありますか!?早く治療しないと!」

「いや待って!?そんなに酷くないから!?ちょっと痛いだけだから!」


 黒坂さんを落ち着かせ、少ししたあと、黒坂さんが床に正座して頭を下げてきた。というか、もう土下座だ。


「ごめんなさい!狩也!こんなことするつもりじゃなくて……」

「あ、うん、もういいから。大丈夫だったし、土下座されると余計に居たたまれないから顔を上げて」


 あと本人には言えないが、ちょっと役得である。痛い目みたとはいえ、可愛い女の子の顔が目の前で見れたのだ。人との触れあいをほとんどしてこなかった僕から言えば、ご褒美と言っても過言ではない。

 黒坂さんも落ち着いたので、これからの話を始める。


「それで、黒坂さん」

「はい、なんでしょうか?」

「これからどうする?」

「ここに住みます」

「うん、ここに、住……ここに住む!?」

「?はい、何か問題でも?」


 さらっと問題発言されたので、突っ込みを入れるが、むしろ僕が可笑しいかのように首を傾げられる。

 いや、僕は可笑しく無いよね?

 そう信じて、僕は話を始める。


「まず、僕と黒坂さんは他人。これは分かるね?」

「はい、当然です」

「それで、僕は男で君は女。これも分かるよね?」

「はい、これも分かります」

「つまり、その、ここに住むってことになると、つまり男女二人きりで、一つ屋根の下で暮らすってことで、そうなると、その、ま、間違いが起こったりもする可能性だってあるわけで、あってね?」


 どもりまくったけど、言いたいことは言えた。これで無反応だったら正直どうしようもないのだが………。

 黒坂さんの反応は………。


「か、狩也が我慢すればいいだけです。それに、」

「それに?」

「狩也は、私のことを女の子として見てくれてるみたいですから……」


 聞き返したのが、マズかった。

 一瞬、頭がフリーズする。


(え、今、なんて言ったの?この子。「女の子として見てるからOK」って、どういう意味?逆でしょ!普通。むしろ女の子として見てたら絶対問題が起こるよね?なにこれどんな状況!?誰か教えてよ!)

 頭の中が「謎」一色で染まってしまった僕を現実に引き戻してくれたのは、他でもない、黒坂さんだった。


「い、いえ!そんな意味じゃなくてですね、私、【呪い】のせいで周りから女の子としてすら見てくれなかったんですよ。だから、本当の私を見てくれてる狩也の側に居たいって、そう思ったんです」

「………あぁ、成る程、びっくりしたぁー。告白されたんじゃないかと思っちゃったよ」


 どうやら、ただ単に嬉しいから言っただけのようだ。うん、それには共感出来る。きっと、僕も、「僕の側に居ても死なない人」が居れば、その人の近くに居たいって思うだろうし。

 うん、全然問題ないよね!


「………それに、狩也にだったら……」

「黒坂さん?何か言った?」

「きゃっ!?な、なんでもないですよ!?」

「なら良いんだけど、顔真っ赤だよ?熱があるんじゃないの?」

「だ、大丈夫です!心配しないで下さい!」

「そう?無理はしないでね?」


 呼ばれた気がしたので、話かけたら、今までで一番顔を真っ赤にして僕から距離を取ってしまった。熱でも出しているのかとも思ったが、本人は大丈夫と言っているので、そっとしておくことにする。

 そこまで思って、気が付く。


 ──────僕は、黒坂さんと一緒に居たいと思っている。

 根拠は、彼女を心配していることからだろうか?少なくとも、どうでもいいなら、他人を心配したりしたりしない。

 これがただの友情か、彼女への同情か、愛情かは分からない。でも、彼女と一緒に居たいと、そう思っている。失いたくないと、願っている。

 だからと言うべきか、僕は彼女を呼ぼうとした。他でもない、彼女自身の名前を───。


「ねぇ、し」

『貴様ら人間、そして、異端者たちに告げる』

「「!!?」」


 突如、男性とも女性とも言えず、子供とも老人とも表現出来ないような声が、響く。


『ふははははっ!驚いているようだな貴様ら。───ほう。この状況でも取り乱さず、私に問いかける者も多少は居る、か。良かろう、その冷静さに免じて名乗りを上げてやろうではないか!私は、神だ。といっても、貴様ら人間が信仰しているものとは勝手が違うがな』


 その形容し難い声は、自らを神と名乗った。この口振りからすると、僕だけじゃなく、全人類に語りかけていると思った方が良いのかもしれない。


『単刀直入に言おう。私は退屈している。だから、この世界でゲームを行う!………なんだ。喜んだ者はごく少数か、つまらん。が、まぁいい。ルールは単純だ。異端者どもよ、戦え、殺し合え。そうすれば、貴様らの忌まわしき【呪い】を解いてやる』

「……なっ!?」


 この異端者とは、僕と黒坂さん、それと、まだ他にいるであろう【呪い】の保持者のことを指しているのだろう。

 だが、殺し合いという言葉に、僕は怒りを覚えた。


「神か何か知らないけど、簡単に殺し合いとか言って、ゲームの様に楽しむな!人の命を何だと思ってるんだ!」

『この声は………くーあっはっはっ!腹が痛いなぁ!その言葉は、貴様が言うべきではないだろう?だが、それも貴様が勝てば変わる。貴様の【呪い】は【周囲の人物の死亡率の上昇】だったか?これを解きたければ、お前を除く異端者を全員殺せ』

「ふざけるな!」


 僕は叫ぶが、それは声の主に届くことはなかった。あいつにぶつけるつもりの叫びは、ただ虚空に響くだけだ。

 声の主は、僕の叫びなど届かないといった様子で、ルールの説明を始める。


『それでは、ルールの説明をしようではないか。と言っても、ルールは一つ。とある場所に集まっている異端者を、殺し尽くせば良い。結果、残りの異端者が一人になればその異端者の【呪い】を解いてやる。そして、最も大きな功績を挙げた人間の望みを叶えてやろう。もちろん、これだけのことでは、特に【呪い】を苦に思っていない異端者や、望みを欲しない人間は動かないだろう。だが安心しろ。この私が参加せざるを得なくなるような条件を作ってやった。それは、魔物の召喚だ。このゲームが終わらない限り、魔物は永久に増え続け、いづれは世界を滅ぼすだろう。それを止めるには、分かっているな?最後に、異端者たちの名前を呼んでやろう!』


 そう言って、声の主は何者かの名前を呼び始める。


『天使、悪魔、閻魔、魔王、敗者────────────』


 次々と名前が呼ばれて行く。だが、その名前の中で、一つだけ、まるで魂に刻まれたかのように離れなくなった名前があった。


『───【死神】──────。これで全員だ。異端者たちよ。この中で、魂に刻まれた名があっただろう?それが、貴様たちの力の名だ。それで私を楽しませてくれ。では、










 ゲームスタートだ』


 声の主がそう言った途端に、遠方から爆発音のような音が聞こえた。

 慌てて窓を見ると、こことは違う、人が居る町が燃えていた。


「っ!狩也!」

「うん、行こう!」


 あいつの言葉が正しければ、僕は確かに、人の命を無条件で奪っていく【死神】だ。実際、僕の家族も、親戚も、友達も先生も、僕とそれなりに深く関わった人間は死んでしまっている。

 ……でも、それでも、人が死んでいくのは放って置けない。助けられるなら助けたい。

 そう思って、急いで家から出て、町まで走る。だが、焦っているせいなのか、その道はとても長いように思えた。


(何か、無いのか!?)

 そう思って、辺りを見回すが、車はおろか、自転車すら見つからない。

 その時、不意にあの声を思い出す。

 ──────それが、貴様たちの力の名だ。


(やるしか、ない)

 あいつの言いなりにはなりたくない。でも、もし使えば、誰かを助けられるかもしれない。

 だから、叫ぶ。忌々しいこの名を。僕を苦しめてきた、その名前を───。


「【死神】!」

「……狩也!?」


 そう言った瞬間、全身から闇が吹き出した。黒坂さんが僕を呼ぶが、気にならない。

 闇が晴れると、全身から力が溢れ出てきた。

 ──────これなら、行ける。


「黒坂さん。僕は先に行ってるから、それじゃあ!」

「っ!待って!?」


 黒坂さんが引き止めてくるが、それを無視して全力でジャンプした。

 どうやら脚力も大幅に強化されているらしく、小さめの家なら一回のジャンプで屋上までたどり着くことが出来た。

 だが、その時に、手から何かが零れ落ちた。下を見ると、アニメなどで出てきそうな大きな鎌が、今まさに落ちていた。取りに行くのも面倒くさいので、鎌に手を伸ばす。そして、「戻ってこい」と、ダメ元で念じてみる。すると、回転をしながら、鎌が僕の手元に戻ってきた。


「まさか本当に出来るなんて………」


 だが、分かったのは良いことだ。そう思い、僕は火元に向かって走り出した。


 ---------------


「【死神】!」

「……狩也!?」


 狩也が何かを叫ぶ。すると、彼の体から闇が吹き出してきた。彼の異変に驚いた私は、彼の名前を呼ぶ。

 少しして闇が晴れると、彼の姿が変わっていた。

 身に纏っているものが、学生服から漆黒のローブになり、黒色だった彼の右目が、見ただけで死を連想させる血のような赤色に変わった。しかし何よりも特徴的だったのが、彼が右手に持っている大きな鎌だ。闇が晴れると同時に出現したその鎌は、刀身が血のような赤色に染まり、黒色の峰の付け根には、蛇のそれと同じ形をした赤い目のような宝石が埋め込まれていた。


 何か驚いた様子を見せた彼は、私に向かって声をかけてくる。姿が変わり、恐ろしさを感じても尚、彼の声は穏やかで、優しさを感じるものだった。


「黒坂さん。僕は先に行ってるから、それじゃあ!」

「っ!待って!?」


 私は彼を引き止めるが、彼はそれを無視して近くにある家の屋上までジャンプした。その衝撃で起こった風に、私は思わず目を塞ぐ。

 その際に鎌を落としたようだが、彼は鎌に手を伸ばすと、鎌は彼の手をに引かれるように戻って行った。

 その光景が、信じられなくて、少しの間体が固まる。少しして我に還ると、彼を追おうとする、が、速さが圧倒的に足りない。

 なので、私も彼と同じように叫んだ。


「来て!【閻魔】!」


 そう言うと共に、私の体から白と黒のオーラのようなものが吹き出る。

 それが晴れると、何となく、自分が変わっている気がした。

 衣装はよく分からないが、黒を基調とした和服のようなものになり、掌を見ると、手で持つには少し大きいサイズの鏡が浮いている。


「うん、行こう!狩也の所へ!」


 彼が跳んだ家の屋上までジャンプする。彼が向かった町を目指して走った。


「待っててね、狩也!」


 --------------


 町に着くと、そこには日常では有り得ない光景が広がっていた。人の形をした緑色の生物(ゴブリン)が手にもった棍棒で建物を壊し、赤い狼が人を食い殺し、その体をさらに紅く染めていた。他にも、様々な生物が火を付け、建物を壊し、人を殺してまわっていた。

 急いで僕は、近くに居る赤い狼に向かって、鎌を一閃、赤い狼を二つに両断する。


「グルァ!?」

「うっ!」


 肉を切り、骨を断つ感触。命を奪う感触を感じた。人が死ぬのとは違う、確かに自分が殺した、という感覚が、一瞬僕の頭を凍らせる。

 僕が我に還るのと、赤い狼が僕の肩に噛み付いたのはほとんどの同時だった。僕は鎌を短く持つと、その刃を狼の頭に突き刺す。今度は頭を凍らせる程のショックは来ずに、即座に動ける余裕が出来た。

 次はゴブリンに近付き、鎌を振るうが、ゴブリンは棍棒で鎌を受け止めて、僕に接近してきた。なので僕は鎌の刃をゴブリンの延長線上に置いてバックステップをする。結果、鎌はゴブリンの首を跳ねた。次のゴブリンには、鎌を投げて鎌を突き刺すことで仕留める。それ前方にジャンプしながら回収し、三匹目のゴブリンを両断する。

 自分の直ぐ近くに生物、いや、魔物が近付かなくなった。単に僕のことが眼中にないのか、僕を恐れているのか分からない。だが、それで緊張が少し途切れて、一息吐いた。

 ─────────それが、命取りになると知らずに。


「!!?」


 突然、視界がボヤけた。体が、何かに侵食されているのを感じる。息が出来なくて、苦しい。冷たい何かが僕の体を包んでいた。

 その正体は、


(これは、液体?)

 そう判断した瞬間に、足の力が抜けて、その場に倒れこむ。転がってどうにかしようとするが、体が動かない。口を閉じる力さえも無くなり、口が開く。液体はそれを待ち望んでいたかのように、僕の体の中に入ってきた。

 ………苦しい。

 肺にも液体が入り、完全に酸素が補給出来なくなった。

 ───不意に、黒坂さんの姿が脳裏に浮かぶ。折角出会えたのに。折角心を許せたのに。折角失いたくないと思えたのに。折角、希望を持てたのに、今度は僕が死ぬのだろうか?

 ───それも、当然か。僕は沢山の命を奪ったんだ。当然の報いで、当然の結末だろう。

 そう思って、僕は意識を手放していく。最後に見たのは、メラメラと広がる闇だった。


 ---------------


 町が見えてきた。私は、彼があそこに居ることを信じて更にスピードを上げる。炎に包まれた町の中、沢山の魔物が自由に行動している。そして、至るところに人の死体が転がっている。その中に、彼は─────────居た。

 ただそれだけのことだったのに、よく分からない安心感を覚えて声をかけようとした。が、


 ──────彼は、その場に倒れ込んだ。


「──────え?」


 世界が、止まった。そんな錯覚がした。でも実際はそんなことはなくて、赤い狼が私に向かって突進してくる。それに、どうしようもない恐怖を感じた。

 私は恐怖でその場に座り込み、無駄だと知りつつも手を振るう。

 すると、鏡が狼の前に移動し、狼を弾き飛ばした。

 それと同時に、この鏡の使い方が頭に流れ込んでくる。

 この鏡が出来るのは、敵を弾きとばすことと、鏡に映した人の状態を見ること、そして、二つの力を行使すること。

 その中の一つを、使う。


「狩也を、助けて!」


 私の叫びに答えるように、鏡から出た黒い炎が、狩也を包んでいる水を燃やし尽くす。

 私は鏡に狩也を映す。彼の肺の中には、水が貯まっていた。それを理解すると、私は彼を抱えて誰も居ない建物に飛び込んだ。


 狩也を仰向けに寝かせると、私は治療を開始した。と言っても、さっきの黒い炎で彼の肺の中にある水を消して、もう一つの力である白い光で彼の傷を癒しているだけだが。

 だけれど、彼は起きない。もしかして、もう死んでしまっているのではないか?それを想像してしまい、それを打ち消すように頭を振る。

 ───心臓の音を確かめよう。そうすれば、彼が生きていることが分かる。

 そう思い、狩也の左胸に耳を当てて、手を使って彼の脈を計った。その結果は、


 ---------------


「い……や………嫌ぁぁぁぁあああぁぁぁ!!?」


 狩也の心臓は、止まっていた。その事実が受け入れられない白は、狂ったような叫び声を上げる。

 すぐさま彼女は心臓マッサージや人工呼吸を行うが、それが実を結ぶ様子はない。


「嫌だ、起きて、起きてよ、ねぇ!」


 泣きながらすがるように語りかけるその様子は痛々しいと呼べるものであったが、同時に彼の心臓が動かなくなることを受け入れてしまったことも表していた。


「か……り、や」


 彼の名前を呼ぶが、やはり、彼がそれに答えることはなかった。

 その代わりに、爆音が響く。


「…………」

「なぁんだ。もう一人目は死んでんのか。まぁいい、おい女。テメェは何もんだ?」

「…………」

「そうかい。答える義理はないと。俺は【魔王】だ。【全てを屈服させてしまう呪い】を解くために、悪ぃが死んで貰うぜ?」


 そう言って、【魔王】は杖から紫の波動を放つ。白はそれを避けることはせず、為されるがままに吹き飛んだ。だが、壁に激突しても、白は声一つ上げない。

 その目に、希望は既に無かった。───いつ、狩也のもとへ逝けるか。それだけのことを彼女は考えていた。

 それを不思議に思った【魔王】が、白に話かける。


「テメェ、何があったんだ?想い人でも亡くしたか?まぁ、いい」

「……………」


【魔王】の問いに、やはり、彼女は答えない。その目は【魔王】を見ておらず、ただただ上の空だった。

【魔王】は白に近づき、彼女の頭に杖を当てた。そして、呟く。


「テメェも、哀れだな。せめて最期は、一瞬で殺してやんよ」

「………狩也」


 そう言って、【魔王】は力を貯め始めた。


 ---------------


 声が、聞こえる。これは、誰の声だろうか?


「お前が殺したんだ!」「お前さえ居なければ!」「私の娘を返して!」「嫌だ、嫌だ!死にたくない!」


 そう、か。これは、僕が殺した人たちか。その人たちの憎しみが、怒りが、悲しみが、全てが僕に突き刺さる。

 でも、もう、大丈夫かな?


「やっと、罪を償える。何年かかるかは分からないけど、君たちを殺してしまったことは、絶対に忘れないから」


 僕はそう返事をした。でも、何かを忘れてる気がする。何か大切で、かけがえのなかったものを。


 ───いや、気のせいだ。


 そう決めつけて、僕は歩きだそうとした。けれど、また別の声が、僕にかけられる。それは、憎しみではなかった。


「ふ、ふみまへん!」「白って、名前で呼んで下さい」「本当の私を見てくれてる狩也の側に居たいって、そう思ったんです」「嫌だ、起きて、起きてよ、ねぇ!」


 その声は、全て同じ人物から発せられていた。動揺、願い、嬉しさ、懇願、その全てが、先程まで僕にかけられていたものとは正反対だった。


「そう、だ。何で、何で………」


 どうして、忘れていたんだろう。僕を受け入れてくれた人のことを、僕を信じてくれた人のことを、僕の大切な人のことを。たかが数時間で、僕に新しい世界を与えてくれた、彼女のことを。


「………ごめん。やっぱりそっちにはまだ逝けないよ。まだ、僕を信じて待ってくれてる人が居るから」


 そう言って、僕は彼女の声の方に歩き始める。彼女の所に、僕が今居るべき場所に、


「黒坂 白」と共に歩める世界に、僕は向かった。


 ---------------


 闇が晴れると、見知らぬ建物に僕は居た。辺りを見回すと、紫がかった黒いローブを纏った男が、白に向かって杖を構えている。


「テメェも、哀れだな。せめて最期は、一瞬で殺してやんよ」


 僕は男に向かって駆け出した。鎌を手に持ち、男に接近する。鎌を振ると、男は杖で鎌を受け止めた。だが、それでいい。僕は更に力を込めることで、男を弾き飛ばす。男はそのまま窓を突き破り、下へと落ちていった。

 それを確認して、僕は白に話かける。


「ごめん。遅くなった」

「か、狩也?」

「うん、僕だよ。白」


 僕だと確認すると、白は涙を浮かべて僕に抱き付いてきた。

 慌てて受け止めて、白の頭を撫でる。


「ばか、馬鹿ぁ……心配したんだから…」

「うん、もう大丈夫。僕はここに居るよ」

「もう、居なくならないで……」

「出来るだけ、頑張るよ」

「いやいや、そこは言い切ってやれよ。【死神】、か?」


 背後から声がかかる。振り向くと、さっきの男が壁にもたれ掛かって立っていた。

 彼の存在を感知はしていたものの、その行動の意図が読めないので、話かける。


「不意討ち、しないんだね」

「するわけねぇだろ?俺は正々堂々戦う主義だ。俺は【魔王】だ。テメェは何もんだ?」

「君の予想通り、僕は【死神】だよ」

「やっぱりな。鎌と言えば死神だよなぁ」


 そう言う【魔王】の表情は、笑顔だ。やはり、この人のことは分からない。

 だから、彼に問う。


「なんで、笑ってるの?」

「いや、何、テメェが魔物に殺されたのかと思ってな。せめて人に殺されれば、少しは報われるだろ?」

「悪いけど、その感覚は僕には分からないかな?」

「まぁ、理解しろなんて言うつもりは毛頭ねぇよ。さぁ、殺し合おうぜ?」

「やるしかない、みたいだね?」


 そう言って、僕は【魔王】に駆け出した。

【魔王】は紫色の波動を打ち出してくるが、それらを全て斬る。一定距離まで近付くと、【魔王】は杖の先端に紫色のエネルギー──恐らく、魔力と呼ぶべきもの──の刃を作り出し、槍のように振り回してきた。

 この勝負はどちらが有利か、と問われれば、きっと【魔王】が優勢だろう。彼には魔法(紫色の波動)がある。ゼロ距離で喰らえば、きっとひとたまりも無い。

 だから、撃たれる前に動き、魔法を撃つ余裕が無くなる程に強く切ればいい。

 そう考えた僕は、鎌に筋力とは違う力を込める。すると、鎌がうっすらと黒いオーラを纏い始めた。


「!くそっ、喰らえ!」

「ぐぁ!?」


【魔王】が魔法を発し、僕は吹き飛ばされる。だから、体制を立て直して鎌を床に刺し、無理矢理止まる。そのあと鎌を引っこ抜いて【魔王】に接近し、更に力を込めて鎌を振るう。当然【魔王】がそれを許すはずもなく、大量の魔法が僕を襲う。


「く、そぉ!」


 苦しい紛れに振った鎌から、闇のオーラが放たれた。それは【魔王】の魔法を打ち消し、【魔王】に届いた。それで、【魔王】が一瞬よろめいた。

 ───今だ!

 僕は今までの中で最速のスピードで【魔王】に接近し、全身全霊の力を込める。最早赤黒い色になったそのオーラを纏った鎌を、【魔王】に降り下ろす。

 それは防御しようとした【魔王】の杖を折り、【魔王】の体を二つに分けた。


「【死神の鎌(デスサイス)】!」

「ぐぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁ!?」


 そして、二つに分けられた【魔王】の体は、紫のオーラに包まれ、一つになった。そして、オーラが消えるころには、普通の男性が無傷で倒れていた。ただ、その男性からは、生気と呼べるものを感じない。


「し、【死神】。聞いてくれねぇか?とある男の【呪い】をよ」

「……うん。絶対に、忘れないよ」

「そう、か」


 そして、彼は語り始めた。彼自身の出来事を。彼の願いを。


 --------------


 とある少年は、産まれたときから王だった。

 子供も大人も、他人も家族も、例外無く、だ。始めはそれで良かった。ただ望むだけであらゆるものが手に入ったし、やりたいことは何でもやれたからだ。

 だが、途中で、彼は気づく。

 ───自分は、誰からも愛されていないことに。

 彼は王だった。全ての人の頂点だった。集まれと言えば集まるし、散れと言えば散った。だが、それゆえに彼は孤独だったのだ。競い合い、比べ合い、争い、更に絆を深める。そんな友人を、彼は得られなかったのだ。

 だから、彼は愛を求めた。友を求めた。対等を求めた。だが、それらは彼にとっては得るのが不可能なものであったのだ。

 そんな時に、神の声を聞いた。もし、勝てれば、自分は普通を手に入れられる。それこそ、困難だって、愛だって、友だって、手に入れられる。

 だから、彼は動きだした。


 --------------


「これが、俺の【呪い】だ。下らねぇだろ?」

「そんなことは無いよ。それだって、悲しみだし、苦しみだ」

「あぁ、そうだ。だがな、最期に聞け」

「……うん」


 話を聞いたあと、【魔王】が僕の目を見ながら更に話しかけてくる。でもそれは、何となくだけど彼のことではない気がした。そして、その予想は当たる。


「あの女、あいつも、異端者だろ?だとすれば、必ず殺し合わないとならねぇ。そん時が来た覚悟を決めとけよ」

「……ありがとう。……そうだ!名前、名前を教えてくれないかな?」

「なま、え?」


 このことを、【魔王】との戦いを忘れる訳には行かない。これだって、僕の罪なんだから。

 だから、僕は彼に問う。【魔王】なんて言う神から与えられた名前では無く、彼自身の名前を。

 彼は、もう消えそうな声で、僕に返事を返してきた。それに焦りを感じて、早口になりながら答える。


「うん、僕は鎌崎狩也。君は?」

「……上王(カミオウ)深真シンマだ」

「深真君、か。君のことは、絶対に忘れないから」

「………ありが、と、よ。……狩也」


 最期にお礼を言って、僕の名前を呼ぶ深真君。お礼の言葉が掠れても、僕の名前をハッキリと呼んだのは、彼に呼ばせたものは、一体何だったのか、分からない。ただ分かる事と言えば、彼は僕の名前を呼んだ瞬間、満足そうに目を瞑り、その人生に幕を下ろしたことだけだった。

 僕は深真君の死体を抱えると、白に呼び掛ける。


「……帰ろうか?」

「…うん」



 家に帰ったあと、どうにかして変身を解き、深真君の死体を埋葬した。木の板を持ってきて、「上王 深真」と書いてから、その地面に突き刺す。

 白には先にお風呂に行かせた。二人暮らしなんてしたことが無いので、何かハプニングが起きないようにと内心ビクビクしている。

 まぁ、大事なのは、今ここに誰も居ないことだ。だから、今ここで弱音を言うことにする。


「僕なんかが、生きてて良いのかな?たくさんの人を殺して、自分だけ生き残って。現に今、深真君は僕に殺されてここに埋まっている。僕が、埋めたんだ。なのに、僕は責任を取らないで、ずっと逃げてるだけ。早く、死なないと。でも、」


 僕の脳裏に白の姿が浮かぶ。彼女と共に居たい、笑い合いたいと思っていて、いや、違う。僕は彼女を言い訳にしてるだけだ。本当は、ただ、


「死にたく、ないなぁ」


 僕の目から涙が溢れる。自分は、死にたくない。他の人を殺しておいて、なんでそんなことが言えるのだろうか?分からない。ただ、死というものに、恐怖を感じている。それだけは、分かる。これじゃ、ダメだ。早く、決別しないと。


「……【死神】」


【死神】に変身し、鎌を持つ。そして、それを自分の首に添えた。

 ───これをもう少し動かせば、終わる。


「……………」


 結局、それは出来ずに僕は鎌を下ろした。彼女の姿が頭から離れない。あの時、僕に泣きついて来た彼女のことを思い出すと、胸が痛んだ。

 ───せめて、白だけは。


「狩也」

「何?白」


 振り返ると、白が僕の側に立っていた。彼女にはサイズが合っていない僕の服が、風になびいていた。

 お風呂に入っていたせいか、彼女の体は上気していて、少し色っぽく感じる。

 それに少し緊張していると、白が口を開いた。


「私が、まだ居るから、絶対に死なないで。あんな思いはもう、したくないの」

「………うん、ありがとう。白」


 彼女は、また泣いていた。それがまるで消えてしまいそうな程儚く見えて、僕は彼女を抱きしめた。

 彼女の髪からいい匂いを感じて、僕は慌てて距離を取った。


「ぁ………」

「ご、ごめん!つい………」

「ううん、大丈夫」


 それはどういう意味だろうか?分からないが、敢えて聞かないことにする。余計に気まずくなるし。

 上を見上げると、綺麗な満月が空に架かっていた。


「月、綺麗だね、白」

「ぇ!?……うん、そうだね、狩也」


 結局このあと、白が寒そうに身震いしたのを切っ掛けにして、僕たちは家に入った。

 今度は僕がお風呂に入り、人知れず、思う。


 ───せめて、白だけは。幸せにしてみせる。


 このあと、特に何事もなく、夜が更けていった。…寝惚けた白が僕の部屋に入ってきたのには驚いたけど。それ以外には本当に、何も無かった。


 ------------


「嫌ぁ!許して!」

「嫌だね。お前は俺がそう言ったとき、構わず石を投げて来たろ?」


 満月の光だけが光源の路地裏で、女性が鎖のようなものに縛られていた。それは、ギリギリという音を立てて徐々に絞まっている。徐々に絞まっていく鎖の痛みに耐えられない女性は悲鳴を上げ、もがくが意味をなさない。むしろ、足掻けば足掻くほど鎖から放たれる気配がドス黒くなり、憎しみを膨らませて原動力としているかのように強く、強く絞まっていく。

 最終的に、女性の肉体の許容量を超えた力で締め付け続けた鎖は、彼女の肉体を引きちぎった。そうして、地面や壁に女性だった物の血肉がへばりつく。

 それを見て、鎖を操っていた男は、心底楽しそうな───狂気に充てられたかのような笑みを浮かべる。


「【敗者】、か。悪くないな。これであいつらに復讐出来る」


 淡々とした声とは裏腹に、彼の表情は醜く歪んだままだった。


 


 To be continued?

「普通を求める殺し合い 体験版」クリア特典

用語解説


『【呪い】』

 異端者が持つ、特別な能力のこと。鎌崎狩也の場合は、「生きているだけで周りの人間を死に至らしめる」能力、黒坂白の場合は、「万人からの好感度が0に固定される能力」、上王深真の場合は「万人を屈服させる能力」がそれにあたる。

 【呪い】の入切、強弱の調整は不可能であり、正常な精神を持っていれば直ぐにでも手放したいもの。

 なお、ゲーム開始時に刻み込まれた【名前】は確かに各々の【呪い】の正式名称ではあるが、ゲーム開始以前に名前を叫ぼうとも武装は不可能である。


『異端者』

 生まれながらにして【呪い】を抱えた人間のこと。


『【死神】』

 鎌崎狩也の【呪い】、および武装の名前。

 【呪い】としては、「鎌崎狩也以外の人類の死亡率を急激に上昇させる」というもの。ようは「物凄く運が下がる」類の【呪い】であるため、彼に近付いた瞬間死んでしまう訳ではない。───しかし、彼に近付いてしまったが最後。頭上から植木鉢が落ちてくる、突然地面が割れる、家が家事になる、超小型の隕石が降ってくる程度の不運は確実に訪れる。

 武装した際には、「漆黒のローブ」、「死を連想させる血のような紅い右目」「蛇の目のような紅い宝石を備えた、身の丈もある巨大な鎌」が出現する。


『【閻魔】』

 黒坂白の【呪い】、および武装の名前。

 【呪い】としては、「黒坂白へ向けられる好感度を強制的に0にする」というもの。この「0」とは、言わば完全な他人であり、「居ても居なくても変わらない」レベルの認識しかされないことを示す。これにより、彼女は憎まれることも愛されることも女性として認識されることも───かけがえのない、人間としても認識されることはない。

 武装した際には、「黒を基調とした和服」、「彼女本来の綺麗な黒い左目と、見るだけで裁かれる感覚がする白い右目」「白い光と黒い炎を放出する巨大な鏡」が出現する。


『【魔王】』

 上王深真の【呪い】、および武装の名前。

 【呪い】としては、「上王深真に周りの人間を屈服させる」というもの。それは即ち、万人から暴君のような王として扱われるということである。一見すると便利に見えなくもないが、絶対に友達が出来ないこと、敬われる影で悪意を向けられていること、他にも様々な扱いが一生続くことを考えれば、とても良い物とは言えない。

 武装した際には、「紫がかった黒のローブ」、「魔を統べるカリスマ性を秘めた紫の右目」「骸骨を模した、血のように紅い宝石を備えた杖」が出現する。

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― 新着の感想 ―
[一言] 短編読ませていただきました。 僕は小説は書いていませんが、面白いと思いました。 是非、連載で書いてほしいです。 主人公とヒロインはこの先どうなるのでしょうか? すごく楽しみです。
[一言] 良い点や悪い点を書くことができない(僕の表現力が無いから)ので、ここのみ書かせてもらいます。 すごく面白かったです。 簡潔にまとめられ、次を期待させるような終わり方が良いと思いました! …
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