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人形とカナリア

作者: 富海清隆

今よりずっと昔のことです。

海のほとりの美しい港町で人形を作る1人の職人がいました。

名をアルフレッドと言い、若くしてとても腕の立つ青年でした。


アルフレッドは生まれた家がとても貧しく、家族を助けるため少年の頃から港町にある人形を作る工房に働きに出ていました。


何か特別な才能に恵まれているわけではありませんでしたが、アルフレッドは仕事にも、それ以外のことにも、何事にも一生懸命に取り組みました。


次第にアルフレッドは周りの職人たちから認められ、ほんの少しずつですが自分で作った人形もお客さんに買ってもらえるようになりました。


そのお金でアルフレッドは、自分の家族の生活を自分が働きに出る前よりも楽にしてあげられるようになりました。


そしてつい最近になって、アルフレッドは港町の片隅かたすみにある小さな2階建ての空き家を職人の親方から譲り受けました。


アルフレッドはその家に家族を呼んで、自分で作った人形を売る店を開きました。


店番は成長したアルフレッドの弟や妹が手伝い、アルフレッドは2階にある小さな屋根裏部屋で人形を作り続けました。



それから一月ほど経ったある日のことです。

店番をしていたアルフレッドの妹が熱を出してしまいました。

そのため、アルフレッドは弟に店番を頼み、馬に乗って隣町に住んでいるお医者さんの元まで向いました。


隣町に辿り着いたアルフレッドは、お医者さんにお願いして自分の住む港町まで来てもらいました。

アルフレッドの妹はそのお医者さんに具合を見てもらってから、しばらくして熱が下がりすっかり元気になりました。


アルフレッドはそのお礼に、お医者さんにお金を渡そうとしました。

するとお医者さんは、そのお金の代わりにそこにある綺麗な人形を1つください、とアルフレッドに言いました。


アルフレッドは快く、店に置いてあったそのとても綺麗な人形をお医者さんに手渡しました。



次の日、アルフレッドは久しぶりに2階で人形を作っていると、1人の綺麗な女性が店の前に立っていました。

店の中に入って誰かを探すようなそぶりをした後、女性は何も買わずに店を出て行きました。


その次の日も、あくる日も、女性は店の中で誰かを探すようなそぶりをしては、何も買わずに店を出て行きました。


それを不思議に思ったアルフレッドは、朝から店の前でその女性を待って声をかけることにしました。


アルフレッドが店の前で立って待っていると、しばらくして女性が向こうからやってくるのが見えました。

そしてアルフレッドが店の前に立っているのがわかると、女性はアルフレッドのほうに駆け寄ってきました。


あなたを探していました、あなたに頼みたいことがあります、と女性がアルフレッドに告げると、地面に一枚の手紙を残して女性は魔法のように目の前から消えてしまいました。



手紙には、あなたがこの間訪れた隣町のお医者さんの元にまた来てほしい、とだけ書かれていました。

アルフレッドはそのことについてよく考えた後、次の日の朝にまた隣町へ向かうことにしました。


お医者さんの家までアルフレッドが辿り着くと、店までやって来ていた女性が家の前に立っていました。


そしてその家の2階の小さな窓を指さすと、女性はまた魔法のようにその場から消えてしまいました。


アルフレッドはここ数日に起こったその不思議な出来事を家の中にいたお医者さんに話しました。

すると、お医者さんは家の2階にアルフレッドを招き入れました。


そこには肌の青白い、美しい女性がベッドに横たわっていました。

彼女はお医者さんの娘で、名前をフリージアといいました。


フリージアは数年前に母親を病気で失ってから塞ぎがちになり、外にも出ずにここで過ごしているのだと、お医者さんは言いました。


そしてそれを不憫に思ったお医者さんは、この間アルフレッドから人形を貰い、フリージアに与えたのだそうです。


フリージアはアルフレッドの作った人形を抱きかかえたまま、その部屋の窓辺にある小さな鳥かごをずっと眺めていました。


鳥かごの中は空っぽで、そこには何もいませんでした。


アルフレッドがフリージアにそのことを尋ねると、鳥かごの中にいたカナリアが可哀そうだったので外に逃がしたのだ、と言いました。


逃がした日はちょうど1週間前だったそうです。



アルフレッドはその時、自分の店にやってきた女性は、フリージアの手にしている人形の姿を真似たカナリアだと気が付きました。


カナリアは自分を自由にしてくれたフリージアに、何かしてやりたかったのだと気が付いたのです。

なので、このまま帰ってもカナリアはまた店に現れるだろうとアルフレッドは思いました。


アルフレッドは自分でそう考えたこと全てををお医者さんに伝えました。

その上で、フリージアに何かやりたいことや、欲しいものはないか、と聞きました。


フリージアは、ここから外に出て海をこの目で見てみたい、と言いました。

しかし、今のままではどうやってもそれは叶わぬ願いでした。


お医者さんはアルフレッドにこう言いました。

不思議なことだが、あなたの作った人形をフリージアに与えてから、彼女は少しではあるが元気になっている、と。


それを聞いたアルフレッドは、フリージアに勇気と、さらなる元気を与えるため、ある事を思いつきました。

アルフレッドはそれからすぐに港町に引き返すと、1体の人形を作り始めました。



1週間後、アルフレッドの店の2階の部屋で1体の人形が出来上がりました。

それを持って、アルフレッドはまた隣町のお医者さんの元まで向かいました。


お医者さんの家に着くと、2階に上がってフリージアにその人形を手渡しました。


フリージアはそれを見てとても驚きました。

その人形が、あまりにフリージアの母親に似ていたからです。


アルフレッドは、お医者さんからフリージアの母親の顔立ちを事細かに聞きだして、大きさは違ってもその話通りに人形を作り上げていたのでした。


フリージアは、その人形を抱えて、おかあさん、おかあさん、と言って泣き出しました。


アルフレッドは、フリージアに言いました。

この間あなたがおとうさんからもらった人形は、私が作ったものです。その人形を作ったのも私です、と。


そして、アルフレッドの店で起こった不思議な出来事と、それについての考えをアルフレッドはフリージアに伝えました。


カナリアは自分を自由にしてくれたあなたに、元気を与えたかったのではないか。

そしてカナリアのように、その自由に動ける身体であなたに見たい世界を見て欲しいのではないか、と。


フリージアは、アルフレッドにお礼の言葉を述べると、彼とある約束をしました。



それからしばらく経ったある日、フリージアがアルフレッドの店にやってきました。

フリージアは前とは見違えるほど元気になっていました。


フリージアは、約束のものを取りに来た、と店番をしていたアルフレッドの妹に告げました。


そのことを妹から聞いて、2階で作業をしていたアルフレッドは手に何かを持ってお店の1階にゆっくりと降りてきました。


アルフレッドが手に持っていたのは赤いバラの花束と、フリージアそっくりの人形でした。


フリージアは、アルフレッドに自分そっくりの人形を作ってほしい、と約束していたのです。

そうすれば、おかあさんと私はずっと一緒にいられるから、と。


しかし、フリージアは花束がほしいとまでは約束していませんでした。



アルフレッドは自分の想いをフリージアにありのまま伝え、手にしていたものを彼女に渡しました。

アルフレッドは、フリージアのことをいつの間にか好きになっていたのです。


フリージアは驚きながらも、自分に勇気を与え、大切な約束を果たしてくれたアルフレッドの想いを受け入れました。


こうして二人は結ばれ、人形とお互いの家族ともども、海の見える港町で幸せに暮らしました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定がありきたりでなくて、思い浮かぶ絵もきれいで、もっと細かく書き込めば映画になりそうです。 [気になる点] 文章に再考の余地があると思います。主人公の名前を連呼しすぎでちょっとしつこいか…
[良い点] ロマンチックな話ですね。題材が人形というのが魅力的です。 [気になる点] ちょっと話の内容が分かりづらいです。一文をもっと簡潔に書かれてみてはどうでしょう? [一言] えほん大賞いかがでし…
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