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撃退

 数分前。


 兵士でごった返す城門の周りをうろつく恰幅の良い金髪の男の姿があった。何やら人を探しているようである。

「お~~ぃ。花ちゃ~ん。クロた~ん。どこかなぁ~?そろそろヤバそうだから帰るぉ~」

 ブリギッドの武器屋の店主である。


 十メートル程離れた木の陰からその姿を窺っている一人の女性の姿があった。救国の英雄の一人、絶世の美女と謳われた裏切りの騎士シーマの写し身である、ホムンクルスの花ちゃんである。その愛猫の黒猫も花ちゃんの肩に乗って同じように様子を窺っている。

 花ちゃんの手には店主の机から持ち出した黒魔術の降魔の儀式で使われる怪しい魔力を放つカードが二枚握られていた。そこへ戦闘を始めたドラゴニアによって齎された旋風が届く。

「ひぃぃぃぃぃぃ~~」

 表情一つ変えない店主の大きな身体が、ゴム鞠の様に弾んで転がって行くのを確認すると花ちゃんは呟いた。

「ごめんなさい。ご主人様。わたし、あの人たちを助けなければいけない気がするんです」

「やるぞ。おめーら」

 花ちゃんの言葉に賛同するように、黒猫が一声鳴いた。意を決して走り出した花ちゃんは、手にしたカードの一枚を自分の額に、もう一枚を黒猫の額に翳して、解呪の言葉を唱えた。

「解放」

 紫がかった光が一体と一匹を包んで巨大化していく。光が収まると、魔界から召喚された二体のギガースの姿があった。


 四本の脚を使って疾走するギガースがその勢いを落とさずにドラゴニアに体当たりをする。一瞬反応が遅れたドラゴニアは防御が間に合わず強か脇腹を強打された。体勢を崩したが矛を使って転倒は免れた所へ、魔人の剣を手にしたギガースが襲い掛かる。渾身の一撃をドラゴニアの肩口に叩き込む為に剣を振り下ろす。辛うじで身を翻して直撃を避けたが、ドラゴニアに矛を構えなおす余裕はない。近接戦闘になれば、明らかに間合いの短い剣のほうが有利である。今度はギガースはドラゴニアの脚を掬うように低く剣を払った。足首を薙ぎ払われる直前で、矛の柄で剣先を弾いたドラゴニアはそのまま上段に矛を構え、突きを繰り出した。ギガースは上半身を反らすだけで造作もなく必殺の攻撃をかわすと、剣を振るう事ができなくなる程詰まった間合いを開けるため肩から体当たりをする。一歩退いたドラゴニアの腰目掛けて繰り出された突きは、今度は三つ又の矛に阻まれドラゴニアの身体に届く事は無かった。

 一進一退の膠着状態が続くと思われたが、ギガースが作ったわずかな隙を見逃さず、ドラゴニアが突進をしようと身を低くした、その時、四本脚のギガースの口から放たれた火の玉がドラゴニアの背中を直撃した。無防備な背中に衝撃を受けたドラゴニアは二、三歩前のめりに走り転倒を防いだが、ギガースが振り下ろす剣を防ぐ事は出来なかった。

 頭部への直撃を避ける為に翳された左手にギガースの斬撃が襲い掛かる。金属がぶつかり合う高い音が城門一帯に響き渡ると重い音を立てて、砕かれたドラゴニアの手甲が地面に落ちた。


「きゃあーー」

 突如ドラゴニアは女性の絶叫を上げて、その場に跪いた。その姿を見て止めを刺そうとギガースは蹲るドラゴニアに向けて剣を振りかざす。肩口にギガースの剣が振り下ろされる一瞬の半分の間にドラゴニアの身体を伝って肩まで駆け登り、攻撃を受け止めた人物がいた。


 先程五郎丸のギルドを訪ねて来た老人、ケビンである。

「ばかな。受け止められるハズがない」

 アンジェリナの隣で五郎丸が叫ぶ。それはアンジェリナも同感だった。ケビンは両手で刀を構えてギガースの攻撃を受け止めていたが、その刀は鞘からも抜かれていないのだ。同じ剣を振るう者としてアンジェリナは一瞬で悟った。あれはケビンの力でなく、鞘に収められた刀の力に因るものだと。鞘から抜かれたら、あの刀はいったいどれほどの力を発揮するか、アンジェリナは見当も付かなかった。


「頼む。この娘を逃がしてやってくれ」

 ケビンは叫ぶと渾身の力を込めてギガースの剣を弾き返した。それと同時にギガースの活動限界がきて、花ちゃんと黒猫は元の姿に戻っていく。

 無事を確認したケビンは懐から不思議な輝きを放つ石を取り出すと、両手で高く掲げた。転移石だろうか。

「すまぬ。世話になったな」

 そう言うとドラゴニアとケビンの姿は一瞬で空間を超えて消え去ってしまった。


 傷付いた兵士や冒険者がなにも出来ずに呆然と立ち尽くす中、蜩の鳴く声が白々しく平原に響いていた。

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