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奇襲

「ケビンさん。そろそろ話してもらえませんか。あなたの目的を」

 ムスペル山の頂上、古城ギンヌンガの城門前に到着した所で足を止め、アンジェリナは振り向いて自分の後ろを歩くケビンに声を掛けた。

「知ってどうする」

 自らは立ち止まらず、アンジェリナの脇を通り過ぎながら答えたケビンの声には、微量の寂寥が込められていたように感じられた。

「どうもしません。でも、あなたが何の為にここに居て、何を救おうとしているのかを知らなければ、私たちは何を目指して闘って良いか解りません。大事にしていた刀を私に託してまで成し遂げたい事とは、いったい何なのです」

 備前長船の柄を硬く握り締めて、アンジェリナは声を荒げた。

「確かに主等のギルドには迷惑をかけたかも知れん。じゃが、ワシから何か依頼した憶えはないぞ」

 立ち止まったケビンは相変わらずな飄々とした口ぶりでアンジェリナの追求をかわそうとする。

「依頼があると俺の誕生会に土足で入り込み、ドラゴニアを刀一本で助けて姿をくらました挙句、今度はドラゴニアと闘おうとしている俺たちに加勢する。この矛盾は説明してもらわないと、爺さんの存在を疑わないといけなくなるぜ」

 ウルフが呆れ顔で会話に割り込んでくる。

「この刀で守りたい人は誰なんです。あなたは何を知ってるんですか。教えて下さい」

「ワシは行き場をなくした、しがない老いぼれじゃよ」

「ケビンさんっ」

 駆け足で再び前に回りこんで真っ直ぐ自分を見返してくるアンジェリナの瞳に根負けしたのか、ケビンは一つ溜息をついた。

「しつこいお嬢さんじゃ。……だからこそ備前長船はお主をあるじと見込んだのかも知れんな」

 ケビンは懐かしそうに微笑んで、誰にも聞こえない声で呟いた。


「……確かに少し知ってもらわねばならんか。主等が想像している通り、ワシは「渡り人」と呼ばれる人間じゃ」


 観念したケビンが語り始めた時、最後尾にいたエンプレスから警戒の声が上がる。

暗殺者アサシンだっ」

 アサシンとは名前の通り密命を受けて殺人を請け負う闇の仕事人である。冒険者も時として人間の命を奪う仕事もするが、それは依頼の段階で正当性が認証されている事案がほとんどで、多くの場合は取り押さえられギルド本部で裁きを受けるが、あくまで抵抗するならギルドの冒険者によって討ち倒される。

 しかし、アサシンは殺人の理由や大義名分など問わず、積まれた金額により仕事を行う非合法の殺人集団だ。四百年続くエルドラゴの歴史の中でも王族、貴族の不可解な死のうちのいくつかはアサシンが関与していると言われている。


 時間差で飛んでくるの国由来の「クナイ」と呼ばれる、ダガーよりも投擲に適している短剣は全部で十四本。四本ずつ数秒の間を置いて三回の投擲で十二本が飛来し、最後に二本が襲い掛かる。七人の一行に対し、単純に一人につき二本の計算だ。エンプレス、ウルフは盾を持っているので、直線的に飛んでくるクナイの軌道を予想し防ぐ事は容易い。元々身体の小さなケビンは地面に伏せればまず当たる事は無い。アンジェリナと五郎丸もそれぞれ刀とハンマーを翳して命を狙うクナイを弾き飛ばす。この程度の不意打ちなら、冒険者であれば対処するのは造作も無い事だが、戦闘員ではないラングレーとリンカは別だ。

 ラングレーに向かって飛んでくる二本のクナイのうち一本をアンジェリナが備前長船を抜刀して両断し、もう一本をエンプレスが天照アマテラスの槍で突き刺す。リンカの近くに居たウルフが一本をヒヒイロカネの短剣で弾き返したが、残りの一本が確実にリンカの首元を狙って直進する。咄嗟に動く事も出来ないリンカは眼を瞑るしかなかった。

 リンカは突然右の手首を掴まれ抱き寄せられた。掴まれた手首から相手の体温が伝わり、密着した体から相手の息遣いと鼓動が伝わってくる。無神経だが全てを赦す様な暖かさを感じ、リンカは体中を電気が走り抜けたような錯覚に見舞われた。

 クナイによる痛みは感じない。助かったのだと思い、リンカは恐る恐る眼を開く。自分の手を引き、助けてくれたのが五郎丸だと判ったのはその時だった。

「危ない所だった。リンカ殿。怪我はないか」

 訊いてきた五郎丸の黒い凶鳥の鎧が紅く染まっていく、リンカは五郎丸の右の上腕にクナイが深々と刺さって居るのに気がついた。鮮血が大地に滴り落ちていくのが見える。

「五郎丸様。お怪我を」

 五郎丸に抱き寄せられたまま、悲鳴に近い声をリンカがあげる。

「このくらい、大したこと……ない」

 そこまで言って五郎丸は気を失い、大きな身体をリンカに預けるようにして倒れこんだ。五郎丸の血が大地に染みを作っていく。

「いかん。毒が塗られていたか」

 五郎丸ほどの冒険者がクナイの一撃で倒される事は、まず無い。真っ当な冒険者なら相手を毒で仕留めようとは思わないが、アサシンは別だ。目的達成のためなら手段を問わない。クナイに毒が塗られていても不思議ではないのだ。

「相手は恐らく二人だ。ウルフ、アンジェ。追ってくれ。出来れば生かして捕らえるのじゃ。五郎丸はわらわが何とかする」

 リンカに覆いかぶさるようにして気を失っている五郎丸に駆け寄り仰向けに寝かせ、クナイの飛来した間隔や方向から人数を瞬時に予想し、エンプレスが声を上げる。言われるまでもなく己の役割を把握して動いていたウルフとアンジェリナは既に其々別の方向に向かって走り出している。


「あたし、何て事を。どうしたら、どうしたら良いんデスか」

 何も出来ずに狼狽するだけのリンカをエンプレスが一喝する。

「お主がわめいても何ともならん。止血と解毒をする故、少し黙っておれ。こやつはこれくらいではくたばらん。必ず助ける」

 たしなめられてリンカは立ち尽くすしかなかった。大事な時に何も出来ないと言う事実だけが重く圧し掛かり、本来の目的を見失いかけていた自らの存在意義を問い質していた。

最初、五郎丸がいつものローブ着てるまま文章書いてました。

そうだ、ラングレーのところで着替えたんだった……

他にも自分で気づいてないミスもたくさんあるんだろうなぁ。

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