鹿嶺
美琴が昇降口で待っていると見知った顔が駆け足でやってきた。
「今からお帰りですか?」
はじめに着いた生徒が尋ねると美琴は少し困ったように頷く。
「途中まで送ります」
「兄を待っているから」さり気なく断ると「兄貴なんか待たなくてもいいよ」と言う者が吐き捨てるように言った。
「なっ……」美琴の言葉を遮り真ん中にいる生徒が言う。
「……なんで柳先輩がいるんですか。ファンクラブから除外されたはずです」
「僕は美琴ちゃんが好きなんだよ。ファンクラブなんかどうでもいい。僕にとってはファンクラブこそいらない存在さ」髪をかきあげながら言う人こそ芸能科の柳一久という『親の七光り』に相応しい人物。そしてファンクラブの人間より恐ろしい美琴のファンである。
「鹿嶺くん、除外してくれたのね。ありがとう」
「いえ、ぼくらもうんざりしてたんです」
そうだ!そうだ!とファンクラブのメンバーが柳を罵倒する。
鹿嶺良は普通科の生徒で美琴ファンクラブの会長である。
「ファンクラブの掟を忘れた者は除外する。除外される者はいるか」
柳のような者を出さないために鹿嶺は掟を作っている。除名でなく、除外を使うのは鹿嶺の黒い部分がそうさせているのだろう。
廊下の先から直保が早歩きで向かってくるのが美琴に見えた。
「鹿嶺くん、もう少しで来るから大丈夫よ」
「いえ、きちんとお兄さんが来るまでお守りしなければいけません。それがお兄さんとの約束でありファンクラブの掟です」
「でも今日は他のファンクラブの活動もあるんでしょ?」
鹿嶺は首を横に振り「他はもう終わりました」
鹿嶺は生徒会長である直保や他のファンクラブの会長から「規律を乱す者を仕切ってほしい」という要望からファンである美琴以外のファンクラブの会長も行っている。それになったとき、他のファンクラブの会長は会長から副会長に格下げされたが、やることは変わらない。
「美琴!」
直保が廊下の奥から小走りで走ってくる。着いた時に少しだけ息切れしていた。
「鹿嶺くん、いつもありがとう!」
直保は鹿嶺に礼を言うと美琴と走り去った。
鹿嶺はそれを見ると余程急いでたんだな、と呟き足下に直保のカバンがあることに気付き2人を追った。