虹ヶ丘学園
虹ヶ丘学園はその名を轟かせている。何故なら虹ヶ丘学園はこの国唯一の芸能科がある高校なのだ。虹ヶ丘学園以外の高校には芸能科がないため、芸能活動している生徒たちにとって苦痛でしかない。そんな生徒たちを見るに見かね芸能界の重鎮、お偉いさん方が創ったのが『虹ヶ丘学園』である。
「生徒会長殿!」
学園に着くなり生徒会役員たちは生徒会長である直保を出迎えていた。
その出迎えに美琴と内藤さんが驚く。一番驚いたのは直保本人だ。
「なにこれ!」直保の肩を掴み前後に振る。
「俺も知らない。こんな事は過去になかったからな」美琴の手を止めると車を降りる。
「生徒会長殿、おはようございます!」
副会長の藤堂秋歩が直保の前に来るなり敬礼し挨拶をした。
「副会長、これは一体なんなんだ」
「生徒会長殿が今朝は生徒会室に来なかったので、もしかしたら妹殿とご一緒なのかと」
直保は藤堂に自分の言いたいことが伝わっていないと確信すると同時にため息をついた。
「もういい。美琴、行こう。内藤さん、ありがとうございました」直保は美琴に手を差し伸べる。美琴はその手を取り、内藤さんに送ってもらった礼をし直保と校内に入っていった。藤堂たち生徒会役員もその後に続き校内へ入っていく。
そもそも虹ヶ丘学園というのは芸能活動している生徒の為に創られた学校といっても過言ではない。双子の母親である小柴遥もこの学園出身だ。他にも芸能界の重鎮たちも通っていたと言われる程に歴史が古い。
虹ヶ丘学園には2つの科がある。芸能活動する生徒の為の芸能科と一般生徒が通う普通科。普通科の人間は芸能科に出入りしてはならないという決まりがあるがそれは生徒会の人間を除く。
直保と美琴は同じクラス。それに双子の幼なじみである太一も同じクラスである。
「直保、美琴、おはよう」太一は笑いかける。美琴はそれに答えると早々に友人たちの下へ向かった。
「今日も元気だな」
「僕はいつも元気だよ。それよりも直保、今日はどうして遅れたのかな?美琴ちゃんは仕事だろうけど」
「それは「オンエアまで待ってて」直保の話を遮り美琴が言い、直保に「ヒミツだよ」とウインクしながら言う。
「気になるけど、仕方ないね。美琴ちゃんがそう言うときは面白い時だからね」肩をすくめ言うといつの間にかやってきていた別のクラスの女子たちが「カワイイ」ときゃあきゃあ言っている。
太一はとあるアイドルグループのメンバーで可愛さ担当だそうだが、彼は「男が可愛いと言われて嬉しいもんか!」と時たま拗ねることがある。そういうとき直保は「他の奴みたいにカッコイいとか言われたいのか?」と聞く。「カッコイい」という言葉を簡単に聞けるような時代にいる彼らには「可愛い」という言葉のほうが余程嬉しい言葉となりつつあった。いつの頃から「子どもは可愛い」から「子どもは生意気」へ変化していき「可愛い」は動物へ向けられる言葉となった。しかし動物へ向けられていた「可愛い」も段々「キモカワイイ」に変化している。
「芸能科の生徒は可愛いを取り戻すべきです!」
毎日行う放課後の生徒会会議はこの発言から始まった。
その発言をしたのは普通科の先崎千早だった。先崎は芸能科の生徒にきゃあきゃあと喚かないということから直保から芸能科の見回りを任されている1人だ。
「確かに、芸能界でも可愛いとあまり聞かなくなりました」
「女子に向けられる言葉にしても最近は綺麗としか聞かないな。可愛さは個人によるからな」
「可愛さだったら黒崎くんにきいたらどうですか?」生徒会室の扉を開くなりそう提案した生徒がいた。
「美琴……」その生徒は美琴だったのだ。用事があって来たというがその用事は済まされそうになくなった。
「妹殿、黒崎くんとは?」
「黒崎は今仕事中だ」美琴が口を開いた瞬間、直保が結論を言う。
「用を済ませ早く戻れ。生徒会役員以外は立ち入り禁止なんだぞ」
「むう。じゃあお兄ちゃん着いてきてよ。大切な用があるから」
美琴は頬を膨らませた後、直保を引っ張り生徒会室を出て行く。
「ちょっ。……藤堂、後は任せた」
扉が閉まりきる前に藤堂は「はい」と返事する。