明日香の昔
あの時あの瞬間からあなたは私にとってこの世界でただ1人の人になった。
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高校に入学して1ヶ月とちょっとたった。私は慣れた空気にため息を吐き出した。
そろそろだとは予測していた。
クラスメイトの少し気の強い女子グループに目を付けられたらしい。数学の教科書が無くなっていて、代わりに机にはゴミがいくつか入っていた。周りの視線や話し声には不穏なものが含まれている。私は平穏に過ごしたいだけなのに。そう思いながらゴミをかたづけた。
私は人に好かれる容姿をしている。特に男性に。それは昔からわかっていた。
否、わからされた。
小学校高学年の時だった。ある日いきなり隣の男の子に告白された。そして、その男の子が好きな女の子先導の元、私はクラスの女子から冷たくされ、はぶられた。
それまで、人の悪意とは関わりなく過ごしてきた私にとって、それは青天の霹靂だった。もちろんかなり傷ついた。私の何がいけなかったのか分からなかった。
けれど、その状態はすぐに一変した。
小学生はまだ幼くて、純粋だ。悪いことしてもすぐに教師に気付かれるし、悪いことをするのに耐える心も育ってない。
クラスの空気がおかしいと思った教師に問いただされた子があっさりと言った。
〇〇ちゃんがあすかちゃんに嫉妬して意地悪してると。
そこではじめて私は周りから見た私の容姿に気付いた。
同じようなことが中学校に上がってからも何度も起きた。いずれ相手も飽きるから、目立たないようにそれを待つようになった。
高校こそは平穏にと思って、男子女子という括りから外されて視られることの多い役職に逃げた。生徒会という役職に。
けれど、無駄な足掻きだったようだ。
小学校、中学校と、嫉妬にさらされるのは慣れている。といっても、慣れているだけでなんにも感じないわけではない。
それに、年を経るごとに悪意もいじめ方も悪い方向に成長していっている。
今はこれだけだが、もっとエスカレートする筈だ。
明日香は、心がだいぶおもくなった。