止める方法は無いのか?
間もなく、あのかわいい大好きな岡本さんをこいつらが襲うなんて。しかしだ、この話はありえないんじゃね?僕はそう思った。どうして、彼女がここにやって来るはずがある。
「でも、どうやって、誘うんだ。
来ないだろ」
僕は冷めた目で言った。
「大丈夫。
南がこの子の女友達を使うんだ。
今、その友達がこの子を呼び出してるところさ」
「ここにか?」
「ああ。
来たところをさっさと、かっさらって、そこの空き家に連れ込んでやっちゃうわけ」
「何で友達が?
何をするのか知っていてこの子を誘い出しているのか?」
「南が話を付けたから、俺は知らんが、でも知っていてやってるんじゃね?」
僕はびっくりである。女の子が女の子を陥れるわなに協力するなんて。
「行こうぜ」
彼は僕にそう言って、僕の腕を掴んで引っ張った。僕の頭の中はどうしたらいいのか分かっていなかったが、体は素直に反応した。僕は体を思いっきりよじって、その腕を振り払った。
「いやだ」
僕の顔は思いっきり、怒りの表情だったはずだ。
「ちぇっ。折角誘ってやったのに。
いいか。分かってるんだろうな。この話、ちくったら、後でお前、ぼこぼこにしてやるからな」
彼はそう言って、僕から一歩下がった。
僕は彼に背を向け、その場を離れはじめた。
右側はずっと線路が続く。左側は県営住宅跡地が続いている。ここに岡本さんがやって来るとしたら、岡本さんの自宅の位置から言って、前からのはずだ。このまま、僕が歩いていれば、岡本さんと出会う事になる。
そこで、僕は岡本さんを引き留める。しかし、僕が南たちの計画を言っても信じてもらえるかどうか分からない。
そもそも、岡本さんを僕は片思いしているから、彼女の事を知っているが、向こうが僕を知っている訳じゃない。でも、やるしかない。
そう思っていると、前の方からやって来る二人の女の子に気づいた。黒いハイソックス、チェックのスカートに白いブラウス、その上からジャケットの女の子は岡本さんだ。その横の女の子がきっと彼が言っていた岡本さんを誘い出す役の女の子なんだろう。
どうやって、止めればいいんだ?
どう言ったら、信じてもらえるんだ。しかも、誘い出す役の女の子の前で。
って、言うか、この状態で、彼らはどうやって岡本さんだけを連れ込むんだ?
僕がそう思って、立ちすくんでいると、二人はどんどん近づいてきた。二人は楽しげに話をしながら、歩いてきている。岡本さんに、この後、とんでもない事が起きるなんて許せない。その笑顔を失う訳にはいかない。しかし、横の女の子はとんでもない計画を本当に知っているのか?知っていて、そんな明るい笑顔を岡本さんに向けられるのか?
僕は何が何だか分からなくなってきた。
もしかすると、あの話は嘘なんじゃないだろうか。
僕を友達がからかったんじゃないだろうか。
僕の思考が混乱している内に、二人は僕の目の前にやって来ていた。
「あ、あ、あの」
混乱している僕はそう言うのが精いっぱいだった。そんな僕は知っている事を訴えかけようと、ぎこちない動きで二人に手招きするような仕草をしていた。
自分で言うのも何だが、どう見ても怪しい奴である。
二人が怪訝な表情を僕に向けている。二人からさっきまでの笑顔はどこかに消えてしまっている。横の女の子が早く行こうとばかりに、岡本さんの服を引っ張った。
早足で僕から遠ざかる二人を僕は成すすべなく、見送った。




