涙の葬儀
お母さんの葬儀の間、僕はずっと泣いていた。線香の香りが立ち込めるそれほど広くない空間の正面には黒い縁取りの中で、お母さんが微笑んでいる。そのお母さんを取り囲むように花束が飾られ、本当のお母さんはその前に置かれた白い布がかけられた棺の中で眠っている。その前で、僕の親戚 湯川のおばさんと一歳年下の従姉妹のほなみちゃんが焼香をしている姿が、僕の頭の中で揺らいでいる。瞬きをした瞬間、大きな涙の粒が頬を伝った。
僕の横ではお父さんが神妙な、それでいてちょっと疲れた表情で座っている。お父さんは時々ちょっと戸惑った表情で、泣きやみそうにない僕に顔を向ける。
お母さんの死因は急性心不全。特に事件性は無いとされているが、僕だけはこれがただの病死でないと思っていた。僕がやってしまった。
ほんの一時の感情に任せて、僕は大切な自分のお母さんを殺めてしまったのだ。そう思うと、お母さんに詫びる言葉も見つけられず、お母さんへの申し訳なさ、自分の愚かさ、色んなものが僕の心の中でかき混ざって、僕の胸は痛くて、痛くて、涙が止まらない。でも、そんな事、横にいるお父さんは知る訳もない。
だからと言って、そんな話をお父さんにすることもできない。言う勇気なんて、僕にはない。
そんな言わば殺人と言う罪を犯したとが人の僕を、参列に来てくれた皆がかわいそうにねぇと言う顔つきで見つめながら、「元気だしてね」と言うような言葉を投げかけてくれる。その言葉が僕をさらに痛めつける。
「ごめんなさい。
僕がお母さんを殺しました」
と言えたら、どれだけ楽になれることか。
「そもそもこの力は何なんだ。
こんな力、僕に無ければこんな事にはならなかった」
僕にこんな力が無ければ、今もこんな場所で泣いてなんかおらず、いつもの日々を暮らしていたはずだったのに。幸せだったのに。
今となっては、高野君を殺してしまった事に心の整理をつける事は簡単だった。
何しろ、高野君は悪い奴だった。あの時だって、高野君が僕たちのボールを盗ったからいけないんだ。
あのまま大きくなっていたら、きっと犯罪者になっていたはずだ。
それを退治した。高野君が将来犯すであろう犯罪に巻き込まれる犠牲者を助けた事になる。
そう思えば、あれはあれで良かったと思う事ができる。
そして、一番大きな理由。それは時の流れが高野君の事を僕の心の中で風化させていた。
でも、お母さんの事に整理をつける事なんて、できやしない。この先ずっと。
TVゲームのコンセントをいきなり抜いたとしても、そもそも僕が悪い訳だし、それも僕を思っての事だったはずだ。だったら、死ぬのはお母さんではなく、僕の方が死ななければならない。なのに、逆に殺してしまったんだ。
自分が許せず、あの事に恐怖を感じていた僕は何度もお母さんを殺してしまう夢を見て、全身汗びっしょりになって、夜中に目覚める事を何度も繰り返した。




