やっぱり、あれは偶然だったんだ!
あの日、警察の事情聴取も終わり、僕たちは解放されることになった。一斉に学校を出た僕たちも、通りの角を曲がるたび、一人、また一人と別れていなくなっていった。
僕の家は学校から歩いて15分ほど離れた住宅地にあった。どちらかと言うと、高級住宅街。そう呼ばれる地域だ。ここにたどり着くよりずっと前から、もう僕は一人だった。
学校で起きた事件を知っている住人もいるはずだと思うが、街の中は静寂に包まれたままで、だれも外で騒いでなんていない。そこはごく普通のいつもの空間だった。
僕はまだあの事件を起こしたのが自分なのか、そうでなくただの偶然なのか分かっていなかった。
とぼとぼと家を目指して歩いていると、通りかかった家の犬が吠えかかってきた。当然、首輪は鎖でつながれていて、飛び出してきて僕を襲ってきたりはしない。いや、もし鎖が無く、飛び掛かって来たとしても怖くはない。犬の種類に詳しくないので、それが何なのか分からないが、その犬は小さく、僕の一蹴りできゃん、きゃんと言って逃げ出すに決まっている。いつも通るたびに吠えてうるさすぎる犬。どうせなら、飛び掛かって来たところを、そんな目に遭わせてやれば、これからは静かになるだろうに。
そんな時、僕の心の中によくない思いが込み上げてきた。
そうだ。この犬で試してみよう。
僕は視線を犬に向けた。
僕に向かって、一生懸命吠えている。
その首輪につながれた鎖はぴんと張りつめていて、目いっぱい僕に近寄ってきていやがる。
「お前なんか、潰れて死ね!」
僕の耳から犬の鳴き声は消えてなくならない。
やっぱりあれは偶然であって、僕が高野君を殺したんじゃないんだ。
何だかホッとしたような気持ちがある。でも、とんでもない力を持てたような気がしていたのに、そうでない事にがっかりした自分が僕の心の奥底にいた。
その僕が、僕をそそのかす。
もう一度だ。あの時の事を思いだして。
言葉が違ったんじゃないか。
僕はあの時の言葉を思い出し、目を閉じて、心の中で叫んだ。
「こんなくず、潰れて死んじまえ!」
目を閉じた闇の中、犬の鳴き声は相変わらず続いている。僕が目を開くと犬は僕に向かって吠え続けていた。その奥からその家の玄関のドアが開くのが見えた。
吠え続ける犬に、家の人が出てこようとしている。
僕は慌てて、その場を走り去った。
少し残念な気持ちが心の奥底にあったが、やっぱりあれは偶然であって、僕が高野君を殺した訳じゃない。
その事で、僕の心の中から、罪悪感は消え去った。




