本当に僕が殺したのか?
当然、警察はやって来た。
学校の前にある片側1車線ほどの道路に溢れるパトカーに救急車。普段は静かな街に騒然とした雰囲気が漂い、近隣の住民が不安げに様子をうかがっている。そんな中、授業が打ち切りとなった児童たちの集団下校が始まり、学校の教室の中は外とは対照的な静寂に包まれた。でも、僕たちは下校できなかった。
あの場所にいたみんなが学校の職員室の横にある会議室に集められた。僕たちとテーブルをはさんで座っているのは警察の人たち。先生たちは僕たちの後ろに立って、僕たちを見守っている。
僕の友達たちは顔をこわばらせ、少し震え気味に警察の人たちと向き合って座っている。高野君の友達たちもだ。
「怖かっただろう。
大丈夫だからね。安心して、見た事を話してくれないか」
警察の人が言った最初の言葉はそれだった。僕たちの中の誰かが高野君を殺したなんて事は疑われてはいなかった。それは当然の事だった。なにしろ、高野君の殺され方は異常だった。何か大きなものに押しつぶされた。そんな殺され方だった。人を押しつぶすような大きな物、それを非力な小学生が扱える訳もないと言う事だ。
一体、誰が何を使って、どうやって。
それを求めて、警察は僕たちから見た全てを聞きたがった。
でも、その場にいた誰も警察を納得させられるような説明はできなかった。
僕以外のみなが見たのは、体育準備倉庫に吹き飛ばされるかのようにぶつかり、その背後に血を吹き飛ばしながら、ぺしゃんこに潰されていく高野君の姿だけだったのだから。まるで、空気の圧力がどんどん大きくなって、高野君を押しつぶした。ここにいるみんなの話から想像できるのは、そんな光景でしかない。
一方、僕は高野君が殴りかかって来たので、怖くて目をつぶった。そして、僕はそのまま殴り飛ばされ、地面に転がっていて、その瞬間は見ていない。そう答えた。
きっと、その時の僕の声は震えていたに違いなかった。何しろ、僕が思った通りの事が起きたのだから。つまり、僕の理解では、高野君を殺したのは僕と言う事になる。
とは言っても、僕は心の中で叫んだだけだ。何か警察が考えているような大きな物を持ってきて、高野君を押し潰してなんかいない。
一体、どうして高野君はあんな死に方をしたんだ?
本当に僕が殺したのか?
ずっと僕は答えの出ない思考の中をさまよい、心の奥から大きくもたげてきそうな罪悪感と恐怖にじっと耐えていた。
警察はそんな僕の心の中なんて、知りやしない。他の友達たちと一緒で、ただ単に目の前で同じ学校の児童が死んだことと、警官たちに取り囲まれている事から緊張している。その程度に考えているはずだ。
「今話してくれた事が全てなんだね?
その場に君たち以外の誰かがいたと言う事はないんだね?
何かが高野君を押しつぶしたと言うのも、見ていないんだね?」
僕たちみんなは頷いた。僕たちの話を聞き終えた警察の人たちは、困惑顔になっていた。警察の推定と一致する情報は一切なく、犯人はおろか、殺害方法すらつかめなかったのだから。
警察は袋小路に陥った。何しろ、僕たちの証言に不一致は無く、嘘をついているとも考えられない。そもそも、嘘をついて誰かをかばう理由も見当たっていない。
高野君が自然死でない事だけがはっきりとしていて、それが殺人なのか、事故死なのかも明確にならないまま、未解決事件になっていった。




