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さようなら、僕。

 僕の部屋は6畳ほどの広さで、床はフローリングになっている。窓に面して机が置かれているが、窓のカーテンはずっと閉ざしたままで、外の光は長い間見たことがない。僕が見る光とは蛍光灯の白く光る弱々しい光だけになって久しい。

 あとで聞いた話では、あの事件で岡本さんだけは助かったらしかった。でも、脳に損傷を負ったとかで、しばらく入院したと言う事だ。

 脳の損傷はあの日の記憶が無いだけでなく、学年トップと言われていた岡本さんだったのに、その後は人格が変わったかのように、勉強嫌いの遊び好きになったらしかった。

 僕はその命を奪いはしなかったみたいだけど、大好きな人の人生を変えてしまった。そして、僕の人生も。

 学校に行かなくても、とりあえず中学校は何とか卒業させてくれる。でも、それから先は真っ暗である。そんな事分かっていても、僕は高校にも行ってはいけないのである。

 そこに行けば、新たな出会いがある。

 そして、仲のいい友達ができ、好きな子ができるかも知れない。

 そんな大切な人をまた傷つけてしまう可能性がある。

 そんな事を考えると、僕はやっぱり人と関わらず、ひっそりとこの部屋で暮らして行くのが一番なんだ。そして、ここで朽ち果てて行く。

 僕はそう心に決め、ずっとこの部屋から出ていない。

 トイレは二階のトイレに。お風呂はお父さんが仕事に出かけ、誰もいない時にひっそりと一階に下りて入る。食事は食べに下りないので、お父さんが持ってきてくれる。

 そんな僕にお父さんのイライラも募っているのは感じていた。


 あの日、顔に青あざをつくり、口の中を切ってぐらぐらの前歯の状態で帰った来て。それっきり、僕が引きこもったので、お父さんは学校でいじめに遭って引きこもったと考えたようだった。

 何があったのか?

 誰にやられたのか?

 しつこく聞かれたけど、何も言わなかった。いや、たしかに僕は殴られた訳だけど、僕を殴った張本人はもう死んじゃったと言うか、僕が殺してしまった訳だから、そんな事言える訳もない。

 黙りこくって、何も言わない僕にお父さんはしばらくそのままにしておけば、元に戻ると考えみたいだった。なので、それからしばらく、僕が学校を休んでも、自分の部屋に引きこもっても、何も言わないでいてくれた。

 でも、お父さんにとって、そんな僕を許しておくのも、もう限界のようだった。


 僕がいつものように机に向かって、ネット動画に浸っていると、ドアをノックする音が響いた。

 僕は時計に目を向けた。

 19:36分。

 夕食の時間だ。


 「そこに置いておいて」


 僕がいつものようにそう言うと、ドアの向こうからお父さん話しかけてきた。


 「どうだ。

 たまには、下で一緒に食べないか」

 「いやだ。

 僕の事はほっておいて」


 僕の言葉に返事がない。諦めて戻って行ったかとも思ったけど、階段を下りて行く足音はしなかった。まだ部屋の前にいるのか?

 僕がそう思った時、お父さんの声とドアの開く音が聞こえてきた。


 「入るぞ」


 僕がドアに視線を向けた時、ドアはもう半分ほど開いていて、お父さんは僕の部屋に入っていた。

 もう入ってるし。とは思ったけど、何も言わず僕は視線をパソコンに戻した。

 耳にはヘッドフォン。話は聞かないよオーラで、僕はお父さんを無視した。


 「なぁ、お前。

 このまま学校にも行かず、どうする気だ」


 動画の音声にかぶって、お父さんの声が聞こえて来た。

 そんな事、言われなくったって、分かっている。

 僕が普通の人間だったら、こんな事になっていない。

 何かになりたいなんて明確な夢があった訳じゃないけど、僕だって、中学に行って、高校に行って、大学に行って、何か仕事をしようと思ったはずだ。

 でも、それができないんじゃないか。


 「このままじゃ、仕事に就けないぞ!

 ずっと、この部屋に籠っている気か」


 僕が無視しているとお父さんは、さっきより強い口調でそう言った。僕は机のパソコンに向かい、お父さんには背を向けていたけど、すぐ後ろまでやって来たのを感じた。


 「ほっといてくれよ。

 僕は人とはかかわりたくないんだ」


 それは正直な気持ちだったし、お父さんの言っている事なんて、僕には分かっていた。でも、どうにもならないんじゃないか!そんなこんなで、ちょっと口調はきつかったかも知れない。

 お父さんは僕の両肩を掴んで、僕の体をよじって、僕の視線をお父さんの方に向けさせようとした。 僕はそれを全力で阻もうと、逆方向に力を込めた。


 「お前は男の子だろ!

 逃げていてどうするんだ!

 自分の力で生きて行かなくてどうする」


 お父さんは抵抗する僕に、そう言って怒鳴った。


 「分かってるよ、そんな事」


 僕の怒りも膨らんだ。僕は立ち上がって、お父さんに向き直って、大声で怒鳴った。


 「だったら、こんなところに閉じこもるな!

 明日から学校に行け!」

 「嫌だ。

 僕は人とは関わりたくないんだ」


 僕は再び目を閉じ絶叫気味に言った。その時、僕は頬に痛みを感じ、体のバランスを崩して、机の上に倒れ込んだ。

 僕はぶたれたんだと感じた。

 何も分かっていないくせに。

 僕だって、何とかしたいんだ。

 でも、できやしない。

 これが最善の方法なんじゃないか!


 「お前は馬鹿か!

 人とのかかわりを逃げてどうする!」

 「うるさい、うるさい、うるさい。

 お前なんか、俺の気持ち、何も分かってないくせに」


 僕は感情の昂りを抑えきれなかった。

 目を閉じて絶叫しているはずなのに、暗闇の世界から、世界は一瞬の内にグレーから真っ白な世界に変わって行った。


 「お前なんか、死んじゃえばいいんだ!」


 僕はついついそう叫んでしまった。

 死。

 その言葉に僕の脳裏にはあの光景がよみがえってきた。

 高野君が醜く潰れた姿。

 目の前に横たわるお母さんの姿。

 岡本さんとその周りに横たわる僕の男友達たち。

 僕の脳裏にその姿にかぶさって、自分の部屋が映し出され始めた。

 僕が目を向けると、僕の足元に口から血を吹き出して身動き一つしないお父さんが横たわっていた。


 だから、だから、僕は人と関わりたくなかったんだ。

 僕は大切な人を一時的な感情で、こんな風にしたくなかったんだ。

 なのに、どうして、こんな事に。

 僕は頭を抱えて、床に崩れ落ちた。

 床をどんどんと大きく叩き続け、自分のバカさ加減を呪う。

 僕の心の中に膨れ上がるのは僕自身への怒り。

 そうだ!僕自身が死ねばいいんだ。

 僕の心の中に狂気が広がって行く。

 あたりの風景が徐々にかすんで、白い世界に入って行く。

 とげとげして毛羽立っていた僕の心に静けさが戻って来る。

 僕は安堵感に包まれた。

 これで全てを終わらせることができる。

 さようなら、僕。

 それが不幸な力を身に着けてしまった僕の最後の願い。

 僕の五感がどんどん薄らいでいく。

 真っ白な世界はグレーになり、やがて闇になって行った。

 僕の思考も止まって、全てが終わった。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 完結できましたのも、拙い文章にもかかわらず、読んでくださった皆様のおかげです。

 この話はこれで終わるんですけど、今後の別の作品と関係があります。

 その時にもよろしくお願いします。


 今回の作品、感想やアドバイスなどいただけたら、うれしいです。

 最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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