第四話~side樹里
私のお姉ちゃんは悪女と呼ばれている。が、まったくもってそんなことはない。むしろお姉ちゃんは私の自慢だ。頭はいいし運動神経もいいし美人だし家事も得意だし性格だっていいのに。ハルくんのせいで……と思うこともあるけれど、ハルくんを責めることはできない。だって、ハルくんがお姉ちゃんに依存といえるほどべったりしているのには理由がある。私もまだ小さかったけれど、あのときのハルくんの泣き叫ぶ声は今でも思い出せる。
「おっはよ、みづき」
朝教室に入り、隣の席の親友に挨拶する。更科みづきは中等部からの大親友である。ふわっふわっのボブにくりくりした大きな瞳の可愛い子だ。
「樹里ちゃん! おはよー」
挨拶をすれば目を輝かせてこちらを振り向いた。そして少し顔をしかめた。うんざりしてます、とその表情が語っている。
「どしたー?」
「また、やったんだって。悪女」
ひそめた声で告げられた言葉に顔からすーっと表情が消えていったのがわかった。
「みづき」
「楓先輩とデートの約束してたのに、当日になって悪女がダメだって言って香月先輩行けなかったんだって」
「みづき」
「楓先輩泣いちゃってもう別れるって」
「みづき!」
みづきの口から溢れるお姉ちゃんの悪口につい、声を荒げてしまった。お姉ちゃんはそんな人じゃない。あの日だって、お姉ちゃんはただ買い物に行こうとしただけ。それについて行ったのはハルくんの意思だ。お姉ちゃんが無理矢理ハルくんを引き止めたわけじゃない。
そう言いたかった。でも、ダメだ。
『樹里と瀬里は私の妹だってこと学校で言っちゃダメよ?私は学校が違うから何を言われても平気だけど、二人は同じでしょ。いじめられたりするかもしれない。私のせいでそんなことになるのは嫌だから』
私たちが桜ヶ崎の中等部に入学してお姉ちゃんが悪女と呼ばれていることを告げたときに言われた。
みづきは好き。だけど、嫌い。でも、一番嫌いなのはそんなことを思う自分。