第一話
R15と残酷描写は保険です。
主人公の過去でそれに類する表現が出てくるかもしれないので。
私は悪女なのだそうだ。
椎葉朱璃。それが私の名前だ。そんな私はどうやら悪女らしい。それもこれも今私の部屋で寛いでいる幼馴染みの行動と優先順位のせいなのだけれど。でもまあ、知らない人に悪女だなんだと言われても大してダメージを受けないのが本音だ。
「志陽ー、もうご飯の時間だよ? 帰んないの?」
私のベッドに我が物顔で寝っ転がりながら漫画を読んでいる幼馴染み。香月志陽は生まれる前からずっと一緒の幼馴染みだ。ちなみに私は今までこいつの名前を一発で読めた人に出会ったことがない。
志陽は私の言葉にわずかにこちらを振り向いた。
「んー、今日は朱璃ん家で食べてく」
そう言いながら私に手を伸ばしてくる。そんな志陽に私が応じるとぎゅっと抱きしめられた。とんとんと宥めるように背中を叩けばふにゃりと笑う。甘えん坊だなあと笑えば朱璃にだけだよ、と小さな声で返ってきた。
突然だが、志陽は世間一般的に言うイケメンという奴だ。母方の祖母が外国人のためか色素が薄い。髪の毛はさらさらとした茶色だし、目なんか青だ。その上容姿はとても整っているのだから、もうなんというか王子様的なオーラを振りまいている。あれだ。乙ゲーでいうメイン攻略対象みたいな人間だ。しかもは顔だけの人間ではないからなおさら。
そりゃあもうモテる。どれくらいかというと某バスケ漫画のモデルさんくらいには。街を歩けば女の子は振り返るし、たまに男の人も見惚れてる。だから彼女も常にいるんだけど、すぐに別れてしまう。
それに私が深く関係しているのが悪女と呼ばれる所以らしい。
志陽の優先順位の第一位は私だ。家族よりも友達よりも、そして恋人よりも私が優先。そうなったのには私の過去が深く関わっているのだけれど、あまり思い出したいことではないので今回は割愛。
簡単に言えば、志陽は私に依存している。
以前、当時の志陽の彼女と私の誕生日が一緒だったことがあった。けれど志陽は私の誕生日を祝うからと言って、彼女の誕生日パーティーに出席しなかったそうだ。数日後、ほっぺたに見事な紅葉をつけて帰ってきた志陽を問いただしたらそう吐いた。
それだけではない。志陽の所属するバスケ部の県大会当日に私が熱を出したことがあった。志陽はエースのくせに試合に出ずに私の看病をしていたそうだ。私はその日はあまりの高熱に意識が朦朧としていてあとで聞いたのだけれど。その時は自分にものすごく怒りを覚えたし、志陽にも怒った。
とまあ、例をあげればキリがない。小学生の頃から志陽の私への依存はすごかった。ちょっと離れればマシになるかなぁなんて思って志陽には中高大一貫の私立中学を勧めて、私はその中学に行くフリをしてこっそり近所の公立に進学した。入学式の日の志陽は怖かった……。でも、志陽が小さい頃からバスケが大好きなのはよく知ってたし、志陽の中学――桜ヶ崎中学――はバスケが強いところだったからなんとか説得した。
が、離れたからといって志陽の態度が変わることはなかった。むしろ酷くなったかもしれない。
そしてここからが本題だ。そんな志陽の行動を見た桜ヶ崎中学のみなさんは私が志陽を支配していると考えたらしい。我儘を言って志陽を振り回している、と。いや、そんなことはないんだけど。むしろ志陽どうにかしてくれませんかなんていう私の心の声を知る由もない桜ヶ崎中学の面々によって『香月志陽の幼馴染は悪女だ』という噂が確立したらしい。そんな噂話は今でもまことしやかに囁かれているという。
そんな私たちは明日から高校二年生になる。