第5回 カズユキ
仕事がようやく終わってカズユキは背伸びをした。
急いで帰らなくては。
今日は5歳になる娘の誕生日だ。
手には欲しがっていたシリーズ物のぬいぐるみ。
毎日店の前で物欲しそうに眺めていた。
何が欲しいかと思えば、簡単にわかるほどのリアクションだ。
1万円もした。
キャラクター商品だ。
最近の玩具はこんなに高いのか。
心の中で舌打ちするも、娘の喜ぶ顔を思い浮かべると、どうでもよくなってくる。
仕事のストレス発散をどうするのか、よく聞かれる。
まわりは買い物だとか、パチンコだとか、色々だ。
カズユキの発散は子供の顔を見ること。
娘の笑顔を見ているだけで、無邪気な会話を聞いてるだけで。
それだけで一日の疲れが消える。
カズユキは車に乗り込み、発進させた。
10分くらいしただろうか。
後部座席に違和感を覚える。
何か異様な物の存在。
暗黒の淵へ落ちそうなこの世のものとは思えない憎悪の気。
何かがいる。
そんなはずはない。
発進する時は誰もいなかった。
何かがいる。
カズユキは身の危険を感じた。
だがスピードは落とさない。
いや・落とせないのだ。
ここで停まると最悪な何かが起こる予感がする。
家に向かって車は進む。
それでも、気になるカズユキはミラー越しに除くことを試みた。
ゆっくり視線を動かして。
ミラーを見る。
やはり予感は的中した。
うしろに。
何かが・・・・。
「誰か」が・・・・。
いた。
カズユキを乗せた車は勢いよく壁に激突した。
プレゼントのぬいぐるみは血に染まることになった。
つづく