第26回 母
静まりかえった暗い部屋。
あの子がいなくなって。
もう3ヶ月経つ。
もうそんなに経つの?
まだ線香の香りが部屋の中に充満している。
この匂いも心地よいものになってきた。
慣れることはこういうことだ。
でも今は身体が動かない。
動かそうともしない。
立ち上がる気力もない。
あの子はいないの?
もうこの世にいないの?
いなくなったの?
私の前から・・・。
いえ。
いいえ。
そんなことはない。
そんな子じゃないわ。
いる。
いるわ。
気配を感じる。
あの子を感じる。
娘を感じる。
いる。
いるわ。
あの子は間違いなくいる。
間違いなくどこかにいる。
そうよ。
あの子は生きている。
死んでなんかいるものか。
死んでるわけない。
私の子がそんな簡単に。
あっけなく死ぬわけない。
この度の事件・事故。
最近ニュースを賑わしている不可解な死。
全てに娘が関わっている。
絶対に関わっている。
感じるのだ。
わかるのだ。
あの子を感じる。
あの子の存在を。
もっと感じていたい。
だからこそ探偵に調査を依頼した。
その調査報告書を読むだけであの子を感じることができる。
早く情報を持ってこないだろうか。
早くして欲しい。
早く来て欲しい。
早く。
早く。
早く。
早く。
あの子が死ぬなんておかしい。
信じられない。
きっと何かの間違いだ。
娘は悪者に巻き込まれたんだ。
意図的に狙われたんだ。
娘は殺された。
いえ・・死んでない。
死ぬわけがない。
でも、殺された。
犯人がどこかにいる。
いえ・・娘は生きている。
いえ・・・。
でも・・・・。
いえ・・・・。
でも・・・・・。
つづく。