第1回 ミカ
ミカは暗い夜道を一人で家路についていた。
いつもの薄気味悪い道ではあるが毎日通っている。
そもそもこんな夜中に一人で道を歩くつもりはなかった。
恋人の家で甘い時間を過ごすはずだったのだ。
浮気の疑惑が発覚したので、そのことを追及した。
たまたま何気なく(この時点で確信犯ではあるが)触った携帯電話に知らない女の名前を見たからだ。
当然ながら、恋人はそんなことを認めるわけはなく、浮気している、してないの口論となった。
怒りのあまりミカは恋人の家を飛び出した。
送ってもくれない恋人に心の中で悪態をつきながらの帰り道。
絶対に浮気している。
盗み見た手帳にも携帯とは他の女の名前を見たのだ。
間違いない。
複数の女と浮気している。
明日再度追求してやろう。
手帳を奪ってやろう。
そして、女の名前を突きつけてやるのだ。
ふと気づくと、ミカの足音とは別の音が聞こえる。
ハイヒールのコツン・コツンという音ではなく、ズズッ、ズズッと足の裏全体で擦り寄ってきているような音。
明らかに後を尾いてきている。
その音はまるでミカの動きに合わせているかのように、正確に、ミカの足音と同時に必ず向こうの足音が出る。
「嫌だ、変質者?」
怯えながらも、足音が続くようであれば怒鳴ってやろうと決めた。
今日の私は機嫌が悪いのだ。
過去にも痴漢の男を怒鳴り声だけで撃退したことがある。
今なら過去最高の声が出そうだ。
後ろの「誰か」はいなくなる気配はない。
苛立ったミカは堪りかねて心の準備をした。
そして、振り返った。
口から出たのは怒鳴り声ではなく、叫び声だった。
この瞬間、ミカの足音は永遠に止まってしまうことになった。
つづく