第8話「復讐の舞台は王宮へ」
建国記念パーティーまで、あと1週間。王宮の一室に、私、アルフォンス、ゼノン、レオ、そしてアルフォンスの呼び出しに応じて駆けつけたカイエンの五人が集まっていた。
カイエンはアルフォンスからすべての真相を聞かされ、愕然としていた。彼が信じようとしていた聖女が国を揺るがすテロリストだったという事実。そして1度目の人生で、自分がその片棒を担いで無実のスカーレットを断罪してしまったという過ち。彼は青ざめた顔で、私に深々と頭を下げた。
「ヴァレンティナ公爵令嬢……いや、スカーレット様。俺は、取り返しのつかない過ちを犯した。この命に代えても、君とこの国を守らせてほしい」
その瞳には、揺るぎない忠誠と贖罪の光が宿っていた。これで、すべての役者が揃った。
私たちの計画は、暁光団の計画を逆手に取るというものだった。
彼らはパーティーが最高潮に達した瞬間、リリアが禁術の力を最大まで解放し、会場にいる王族や主要な貴族たち全員を操り、混乱の中で王を暗殺する手はずだろう。そして、会場に潜ませた仲間たちがそれに呼応して行動を起こす。
ならば、私たちはその瞬間を狙い、彼らを一網打尽にする。
「鍵となるのは、リリアの禁術をどう封じるか、だ」
ゼノンが冷静に指摘する。
「それについては、策があるわ」
私は古い魔法書の写しを取り出した。それはヴァレンティナ公爵家に代々伝わる、古代魔法に関するきわめて希少な書物だ。
「これは、あらゆる魔法の効果を一定空間内でのみ無効化する古代の結界術。準備に手間はかかるけれど、パーティー会場である大広間全体を覆うことは可能よ。これを事前に仕掛けておけば、リリアが術を発動した瞬間、それは不発に終わる」
私の提案に、皆が目を見張る。
「そんな伝説級の魔法が、本当に……」
アルフォンスが驚きの声を上げる。
「ええ。1度目の人生で処刑を待つ間に、絶望から逃れるように公爵家の書庫を読み漁っていた時期があったの。その時に偶然見つけていた知識よ。まさかこんな形で役に立つなんて、皮肉なものね」
私は自嘲気味に笑った。過去の絶望が、未来を切り開く武器になる。私の2度目の人生は、すべてがその繰り返しだった。
計画の骨子は、こうだ。
まず、パーティーが始まる前に私とゼノンで協力し、会場に魔法無効化の結界を張る。これは極秘裏に行う必要がある。
次に、パーティーの当日。アルフォンスとカイエンは何も知らないふりをして、通常通り警備と進行の指揮を執る。ただしカイエンは信頼できる部下だけを集めた精鋭部隊を、別室に待機させておく。
レオは彼の情報網を駆使して会場に潜入している暁光団の構成員を特定し、その位置をカイエンの部隊にリアルタイムで伝える。
そして、運命の瞬間。リリアが禁術を発動させ、それが不発に終わって動揺したところを私とアルフォンスが壇上に上がり、すべての陰謀を暴露する。
追い詰められたリリアと暁光団が最後の抵抗を試みようとした瞬間、カイエンの精鋭部隊が突入し彼らを一網打尽にする。
完璧な筋書きだった。だが、そのためには各々が命がけで自らの役割を果たさなければならない。
「スカーレット、君が一番危険な役回りだ。陰謀を暴露する時、奴らは君を真っ先に狙うだろう」
アルフォンスが、心配そうに私の顔を覗き込む。
「ご心配なく。私の隣には、この国の王太子殿下がいるのでしょう? それに、カイエン率いる王国最強の騎士たちも」
私は不敵に微笑んでみせた。
カイエンが力強く頷く。
「ああ。必ず、君を守ってみせる」
ゼノンが冷静に付け加える。
「念のため、君にはいくつか防御魔法が込められた装飾品を渡しておく。万が一の時に身を守る助けになるはずだ」
そしてレオがおどけたように言った。
「俺も、とっておきの逃走経路を確保しとくぜ。まあ、そんなもん使わずに済むのが一番だけどな!」
彼らの言葉が、私の心を温かくした。かつてたった一人で始めた復讐だった。だが今は、こんなにも頼もしい仲間たちがいる。
この戦いは私のためのものではなく、私たち全員のための戦いなのだ。
***
パーティーまでの数日間、私たちはそれぞれの準備に奔走した。
私とゼノンは夜な夜な王宮に忍び込み、大広間に複雑な魔法陣を少しずつ刻んでいった。古代魔法の知識を持つ私と、それを正確に実行する精密な魔力コントロールを持つゼノン。二人の息は、驚くほどぴったりと合っていた。
「君といると、退屈しないな」
魔法陣を刻みながら、ゼノンがぽつりと言った。
「それは光栄ですわ」
「この戦いが終わったら、君はどうするんだ?」
「さあ……考えたこともなかったわ。復讐を果たすことしか頭になかったから」
私の言葉に、彼は少しだけ寂しそうな顔をした。
「そうか。……なら君が新しい目的を見つけるまで、僕が隣にいてもいいか?」
それは、ほとんど告白に近い言葉だった。私は驚いて彼の顔を見つめることしかできなかった。
アルフォンスは国王である父親に、計画の一部――過激派組織によるテロの可能性があること――だけを伝え、協力を取り付けた。そして私への償いのように、私の望むものを何でも用意してくれた。
カイエンは騎士団の中から口が堅く腕の立つ者だけを選りすぐり、極秘裏に特殊部隊を編成した。
レオは王宮の使用人の中にまで協力者を作り、暁光団の構成員リストをほぼ完成させていた。
***
そして、運命の建国記念パーティー当日。
私は深紅のドレスに身を包んだ。それはかつて私が処刑台で流した血の色。そして、これから私が起こす逆転劇の象徴の色。
会場へ向かう前、作戦室に集まった五人で最後の確認を行った。
「皆、準備はいいわね?」
私の問いに、四人の男たちは力強く頷いた。彼らの瞳には、それぞれの覚悟が宿っている。
「スカーレット」
アルフォンスが私の手を取った。
「君にすべてを背負わせてしまって、すまない。だが、今日で全てを終わらせよう。そして新しい未来を始めるんだ」
彼の言葉に、私は静かに頷いた。
復讐の舞台は整った。偽りの聖女に、最後の審判を下す時が来たのだ。
私たちは固い決意を胸に、それぞれの持ち場へと向かった。きらびやかなシャンデリアが輝く大広間が、今夜、歴史が動く舞台となる。




