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断罪された悪役令嬢は二度目の人生で冷酷な復讐者に変わる。偽聖女の化けの皮を剥がし、私を捨てた元婚約者は徹底的に叩き潰す  作者: 黒崎隼人


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第7話「聖女の黒い陰謀」

 リリアの周辺を探っていたレオとゼノンから、ついに決定的な情報がもたらされた。それは私の予想を遥かに超える、恐るべき陰謀の全貌だった。

 作戦室に集まった三人の前で、ゼノンが重々しく口を開いた。


「リリアは『暁光団』という過激派組織によって送り込まれた、偽りの聖女である可能性が極めて高い」


「暁光団……?」


 聞き慣れない名前に、私は眉をひそめた。

 レオが引き取るように説明を続ける。


「表向きは貴族社会の打倒と平民の解放を掲げる思想団体だが、その実態は目的のためなら暗殺や破壊活動も厭わないテロ組織だ。俺の裏の情報網に、奴らの名がいくつか引っかかってきた」


 ゼノンが、1枚の古い文献の写しをテーブルに広げた。


「そして、これがリリアの使う『聖なる光』の正体だ。この文献によれば、これは禁術の一種で、他者の生命力をわずかずつ吸収し光のエネルギーに変換する魔法らしい。さらにこの魔法には、他者の思考に干渉し、無意識のうちに術者へ好意を抱かせる弱い洗脳効果もある」


 私は息を呑んだ。そうだったのか。1度目の人生で、あれほどまでに誰もがリリアを信じ私を憎んだのは、彼女の魔法によって無意識に操られていたからだったのだ。

 私が着せられた数々の罪状。ドレスを汚した、階段から突き落とした、毒を盛ろうとした。あれらはすべて、リリアがこの禁術を使って周囲の人間――証人となった令嬢や毒を発見した侍女――を操り、捏造した偽りの証拠だったのだ。

 すべてが、繋がった。長年の疑問が氷解すると同時に、腹の底から新たな怒りが沸き上がってきた。


「暁光団の目的は、何なの?」


 私の問いに、ゼノンは最も恐れていた答えを口にした。


「王政の転覆だ。リリアを聖女として王家に取り入らせ、内側から国を蝕む。そして最終目的は、来たる建国記念パーティーの席で王族を……暗殺すること」


 会場が静まり返る。王族暗殺。それは、王国そのものを内側から崩壊させる最悪のシナリオだった。

 1度目の人生の断頭台。あれは単なる痴情のもつれによる悲劇ではなかった。私を排除しアルフォンスの隣にリリアを置くための、暁光団の計画の第一段階だったのだ。そして、もし私が処刑されなければ、建国記念パーティーで王家は滅び、王国は彼らの手に落ちていたのかもしれない。

 私の死は、皮肉にも王家の破滅を先延ばしにしていただけだったのだ。


「……そう。すべて、分かったわ」


 私は、震える拳を強く握りしめた。これはもはや私個人の復讐ではない。この王国を守るための戦いだ。


 もし王国が滅びれば、私の新たな人生も、ヴァレンティナ家も終わりを迎える。


「私たちは、この恐るべき陰謀を阻止しなくてはならない。そして、私の汚名を完全に晴らす」


「どうするんだ、お嬢様? 相手はテロ組織だぜ」


 レオが心配そうに言う。


「最大の舞台を利用するのよ。彼らが決戦の場に選んだ、その建国記念パーティーこそが私たちにとっても最高の舞台になる」


 私の瞳には、迷いも恐れもなかった。あるのは、絶対的な勝利への確信だけだ。


「計画の全貌を、アルフォンス殿下にお伝えするわ」


「正気か?」


 ゼノンが驚きの声を上げた。


「彼は一度君を断罪した男だぞ。今更、君の言葉を信じるとは思えない」


「ええ、そうかもしれない。だからこそ揺るぎない証拠と共に、彼に選択を迫るの。私を信じるか、王国と共に滅びるか、をね」


 私には、アルフォンスがどちらを選ぶか確信があった。1度目の人生で犯した過ちを、彼は心のどこかで悔いているはずだ。そして最近の私の不可解な行動とリリアへの微かな疑念が、彼の心を揺さぶっている。今なら、私の言葉が彼に届く可能性がある。


***


 数日後、私はゼノンとレオが用意した証拠――暁光団とリリアの繋がりを示す金の流れ、禁術に関する文献、そしてトーナメントの妨害工作に関わった生徒の証言――を手に、王宮のアルフォンスの執務室を訪れた。

 予告なしの訪問に、彼は驚きを隠せないようだった。


「スカーレット、一体どうしたんだ、こんな時間に」


 私は返事の代わりに、持ってきた書類の束を彼の机に叩きつけるように置いた。


「殿下には、真実を知っていただく義務がございます」


 私は、リリアが偽りの聖女であること、彼女の背後に暁光団という組織がいること、そして彼らの最終目的が王族の暗殺であることを淡々と、しかし力強く告げた。

 アルフォンスは、最初は信じられないといった表情で私の話を聞いていたが、証拠の書類に目を通すうちにその顔から血の気が引いていくのが分かった。

 彼はリリアからもらったというお守りを無意識に握りしめている。そのお守りからも微弱な魔力が発せられているのを、私は見逃さなかった。あれもまた、彼の思考を縛るための呪具なのだろう。


「……馬鹿な。リリアが、そんなことを……。彼女は人々を癒す聖女だぞ」


「その癒しの光が人々の生命力を吸い取っているとも知らずに。殿下、あなたは騙されているのです。1度目の人生の私と、同じように」


「1度目の、人生……?」


 私の口からこぼれた言葉に、彼は怪訝な顔をする。しまった、と思ったがもう遅い。

 私は意を決して、彼を見据えた。


「信じるか信じないかは殿下次第です。ですがこのままでは、建国記念パーティーでこの王国は滅びます」


 私の真剣な瞳と、数々の揺るぎない証拠。それらはアルフォンスの心に残っていたリリアへの信頼を粉々に打ち砕くには、十分すぎた。

 彼はしばらく頭を抱えるようにして黙り込んでいたが、やがて顔を上げた。その瞳には、深い後悔とそして新たな決意の色が宿っていた。


「……私が、間違っていた。君の言う通りだ、スカーレット。私はリリアの表面的な優しさに目を奪われ、真実を見ていなかった。1度目の人生で……君を断罪した、あの日のように」


 彼が、自らの過ちを認めた。それは私の復讐において、大きな一歩だった。


「すまない、スカーレット。君に許しを乞う資格などないことは分かっている。だが、どうか私に償いの機会をくれないだろうか」


 彼は立ち上がり私の前に進み出ると、深く頭を下げた。王太子が、公爵令嬢に。あり得ない光景だった。


「この国を守るため、そして君の名誉を取り戻すため、私にも協力をさせてほしい」


 私は彼の申し出を静かに受け入れた。私情を挟んでいる場合ではない。王太子という最も強力な駒が、今、私の手に入ったのだ。

 スカーレット、アルフォンス、ゼノン、レオ。そしてカイエンにもこの事実を伝える必要があるだろう。

 それぞれの思惑を胸に、私たちは王宮のパーティーで暁光団を一網打尽にするための壮大な計画を練り始める。最後の戦いの舞台は、整った。

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