第5話「黄金を生む魔法トーナメント」
生徒会を掌握したことで、私は学園の行事運営に大きな影響力を持つことができるようになった。次の狙いは、学園の伝統行事である「魔法トーナメント」だ。
このトーナメントは、生徒たちが日頃の魔法の鍛錬の成果を披露する由緒正しい武闘会。だが、今の私にとっては、それは絶好の資金集めの機会にしか見えなかった。
「今年の魔法トーナメントは、私がプロデュースさせてもらうわ」
生徒会の会議で、私はそう宣言した。会長であるダニエルは私の傀儡に過ぎない。実質的な権力は私が握っていた。
私の計画は、シンプルかつ大胆なものだった。
まず、このトーナメントに「賭け(オッズ)」を導入する。選手それぞれの過去の成績や得意魔法を分析し、専門家(レオの息のかかった情報屋)が倍率を設定。貴族も平民も、誰もが参加できる合法的な賭博として大々的に宣伝する。
次に、レオが開発したばかりの「遠隔映像魔法」を使い、試合の様子を城下町の広場に設置した複数の水晶板に生中継する。学園内だけの閉じられたイベントを、国中が注目する一大エンターテイメントへと変えるのだ。
そして最後に、レオの商会と提携し、人気選手のブロマイドや各寮の紋章が入った応援グッズなどの公式商品を販売する。
これらすべてが成功すれば、莫大な利益が生まれるはずだった。
「神聖な魔法の試合を、賭け事の見世物にするなんて……! 許されません!」
私の計画を知ったリリアが、目に涙を浮かべて抗議に来た。彼女の周りには、まだ彼女を信奉する生徒たちが何人かいる。
「これは魔法への冒涜です! お金儲けのために、尊い伝統を汚すおつもりですか!」
私は、そんな彼女を冷ややかに見下ろした。
「見世物? いいえ、これは興行よ、リリアさん。選手は正当な評価と名声を得て、観客は熱狂と興奮を得る。そしてそこで生まれた利益は、学園施設の改修やあなたの言う恵まれない生徒たちのための奨学金に充てられる。何も悪いことはないでしょう?」
「ですが、賭博は人の心を汚します!」
「綺麗事だけでは何も救えないわ。あなたは聖なる光で人を癒せるのかもしれないけれど、その光は、お腹を空かせた子供のパンにはならないのよ」
私の言葉に、リリアはぐっと唇を噛んだ。彼女は私の正論に反論することができなかった。
***
計画は着々と進められた。ゼノンが膨大な過去のデータから緻密なオッズを算出し、レオが商人としての手腕を振るってグッズの生産と流通網を確保した。生徒会と運営委員会は私の指示通りに動き、学園側への根回しも完璧だった。
トーナメント当日。学園の闘技場は、かつてないほどの熱気に包まれていた。観客席は王都中の貴族や富裕層で埋め尽くされ、城下町の広場では大勢の民衆が水晶板に映し出される試合に歓声を上げていた。
賭けの導入は観客をただの傍観者から、熱狂的な参加者へと変えた。ひいきの選手の一挙手一投足に、人々は固唾を飲んで見入った。公式グッズの売れ行きも好調で、レオの商会の売り子たちは嬉しい悲鳴を上げていた。
トーナメントは大成功だった。決勝戦では下級貴族出身の無名の騎士科生徒が、大本命だった上級貴族の生徒を破るという波乱が起き、賭けは大荒れ。しかし、それすらも興行を盛り上げるスパイスとなった。
最終的にトーナメントが生み出した利益は、当初の予想を遥かに上回るものだった。それはもはや一学園の行事の域を超え、王国経済にも影響を与えかねないほどの巨額な資金。
そのすべてが、私の手中へと収まった。
***
だが、この成功を快く思わない者たちもいた。リリアを支援する、何者かの組織だ。
トーナメントの予選の最中、ちょっとした事件が起きた。優勝候補の一人であったカイエン・グレイフォートの試合で、彼の剣に仕掛けられていた妨害魔法が暴発したのだ。魔法は彼の剣を砕き、彼は腕に軽傷を負った。
事故として処理されかけたその一件を、私は見逃さなかった。レオの情報網とゼノンの分析力を使って裏を探らせると、一人の下級生がリリアの側近である女子生徒から金を受け取り、カイエンの剣に細工をしていたことが判明した。
リリア本人の指示か、あるいは側近の暴走か。真相はまだ分からない。だが、彼女の周囲に私の計画を妨害しようとする怪しい組織が存在することは、もはや間違いなかった。
私はこの件の調査をゼノンに任せ、一方で負傷したカイエンの見舞いに訪れた。彼は1度目の人生で私を断罪した男。けれど、今の彼が妨害工作の被害者であることは事実だった。
「……何の用だ、ヴァレンティナ公爵令嬢」
医務室のベッドの上で、カイエンは私を鋭い目つきで睨みつけた。
「お見舞いですわ、グレイフォート様。まさかあなたがこのような卑劣な手に掛かるとは思いませんでした」
「君のせいでトーナメントが下品な見世物になったせいだ。賭けに目が眩んだ者が、俺を陥れようとしたのだろう」
彼は、すべて私のせいだと決めつけている。
「本当に、そうかしら?」
私はそっと彼のベッドサイドに裏付けとなる調査報告書を置いた。そこには今回の事件の真相――リリアの側近が関わっている可能性――が簡潔に記されていた。
「これは……」
カイエンは目を見開き、驚愕の表情で報告書を読んだ。
「信じるか信じないかはあなた次第。ですが、あなたの信じる『正義』は時として、とても脆いものだということだけは覚えておいた方がよろしくてよ」
私はそれだけを言うと、医務室を後にした。カイエンは呆然と報告書を握りしめたまま、私を呼び止めることができなかった。彼の心に、聖女リリアへの初めての疑念が生まれた瞬間だった。
莫大な資金と、敵の存在の確信。このトーナメントは、私に多くのものを与えてくれた。私の復讐計画は、新たなステージへと駒を進める。




