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断罪された悪役令嬢は二度目の人生で冷酷な復讐者に変わる。偽聖女の化けの皮を剥がし、私を捨てた元婚約者は徹底的に叩き潰す  作者: 黒崎隼人


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第3話「裏社会の商人との契約」

 学園運営委員会を掌握し、ゼノンという予期せぬ協力者も得た。だが、私の壮大な復讐計画を完遂するには、決定的に足りないものがあった。

 それは、莫大な資金だ。

 貴族を動かすのも、情報を手に入れるのも、最終的には金がかかる。ヴァレンティナ公爵家の資産に手をつけるわけにはいかない。完全に私の裁量で、しかも秘密裏に動かせる資金源が必要だった。

 私の頭に浮かんだのは、一人の男の顔だった。

 神出鬼没の商人、レオ。

 彼は週に1度、どこからともなく学園に現れ、生徒たちを相手に珍しい品物や流行りのアクセサリーを売っている。人当たりの良い笑顔と巧みな話術。生徒たちは彼をただの面白い商人としか見ていないが、1度目の人生で私は彼の本当の顔を知ることになる。

 彼の表の顔は行商人だが、その正体は裏社会にも通じる一流の情報屋だった。彼が扱う品物の中には、貴族社会の秘密を金で取引するための暗号が隠されていることもあった。

 この男を取り込めれば、資金と情報網を同時に手に入れられる。


***


 私はゼノンから得た情報を元にレオが次に学園に現れる日と場所を突き止め、彼が商売を終えて一人になったところを見計らって声をかけた。


「少し、お話よろしいかしら、商人さん」


 レオは私の姿を見ると、人懐っこい笑顔を浮かべた。赤みがかった茶色の髪を無造作にかき上げ、快活な翠の瞳をきらめかせる。


「おや、これはこれは、スカーレット様じゃないですか。俺みたいな行商人に、何か御用で?」


「あなたに、投資の話を持ちかけに来たの」


 私の言葉に、レオの笑顔がぴたりと止まった。彼の瞳の奥に、商人としての鋭い光が宿る。


「投資、ですか。俺はしがない商人ですよ? 公爵令嬢様が投資するような、大した元手はございませんが」


「元手は私が提供するわ」


 私は懐から1枚の紙を取り出し、彼に渡した。そこには数種類の宝飾品のデザインと、それらが流行する時期、そしてターゲットとなる客層までが詳細に記されていた。


「これは?」


「これから半年以内に王都で流行るアクセサリーよ。私がデザインし、社交界で宣伝する。あなたはこれと同じものを安価で製造し、市場に出回るより少しだけ早く売り出すの。利益は折半。いかがかしら?」


 1度目の人生の記憶。それは、未来を知っているということ。どの時期に何が流行り、何が廃れるのか。私にはすべて分かっているのだ。

 レオは腕を組み、疑わしげな目でデザイン画を眺めた。


「なるほど、面白い。ですが、なぜこれが流行るとお分かりに? 外れた時のリスクは誰が負うんです?」


「外れることはないわ。私が、流行らせるのだから。ヴァレンティナ公爵令嬢である私が身につけ、社交界の話題を独占すれば、王都の令嬢たちはこぞって真似をする。そうは思わない?」


 私の自信に満ちた言葉に、レオは目を見張った。彼はしばらく私とデザイン画を交互に見ていたが、やがて堪えきれないといった様子で吹き出した。


「ははっ、参ったな! こりゃとんでもないお嬢様だ。公爵令嬢の身分まで利用して商売しようってのか。気に入った!」


 彼は楽しそうに笑うとすっと真顔に戻り、私の目をまっすぐに見た。


「いいでしょう、その話、乗りました。ただし、条件がある」


「何かしら?」


「あんたの『先見の明』が本物かどうか、まずは試させてもらう。この中で一番原価の安いこのブレスレットで試してみましょう。もしあんたの言う通りに事が進んだら、その時は全面協力させてもらう。資金提供も、俺が持つ『情報網』も、あんたの好きに使ってくれて構わない」


 彼の口から、はっきりと「情報網」という言葉が出た。やはり、彼はただの商人ではない。


「望むところよ。ただし私が本物だと証明された暁には、利益の配分はこちらが7、あなたが3にさせてもらうわ。私の『未来視』には、それだけの価値があるはずよ」


「強気だねぇ! だが、それくらいじゃなきゃ面白くない」


 レオはニヤリと笑い、私の手に力強く握手を求めてきた。


「契約成立だ、お嬢様。あんたが俺にどんな景色を見せてくれるのか、楽しみにしてるぜ」


 こうして、裏社会の商人を巻き込んだ私の資金調達計画が始動した。


***


 約束通り、私はレオが作ったブレスレットを身につけ、週末に開かれた侯爵家の夜会に出席した。シンプルな銀の鎖に緋色の小さな宝石をあしらっただけのデザイン。だが、それが逆に他の令嬢たちの目を引いた。


「まあ、スカーレット様。素敵なブレスレットですこと」


「どちらの宝飾店のものですの?」


 注目の的になる中、私はわざとため息をついてみせた。


「これは、ある旅の職人に作ってもらった1点物なの。もう2度と手に入らないのが残念だわ」


 その言葉が令嬢たちの欲望に火をつけた。「スカーレット様と同じものが欲しい」「1点物ならなおさら価値がある」という噂は、あっという間に社交界を駆け巡った。

 そしてその数日後。レオの店に、あのブレスレットと酷似した商品が「限定品」として並んだのだ。

 結果は言うまでもない。商品は瞬く間に完売。小さな投資は、わずか1週間で10倍以上の利益となって返ってきた。


***


 後日、約束の場所に現れたレオは、興奮した様子で私に帳簿を見せた。


「すげえよ、お嬢様! あんたの言う通りになった。いや、予想以上だ! あんた、一体何者なんだ?」


「言ったでしょう、未来が視えるだけ、と」


 私は静かに微笑む。レオはもはや私の言葉を疑っていなかった。彼は深々と頭を下げ、その表情には尊敬の念すら浮かんでいた。


「完敗だ。約束通り、これからは俺のすべてをあんたのために使おう。金も情報も、何でも言ってくれ。俺はあんたという大商談に、人生を賭けてみたくなった」


 こうして、私は復讐のための強力な資金源と、裏社会にまで通じる広大な情報網を手に入れた。

 運営委員会という「権力」、レオという「財力」と「情報」。そしてゼノンという「知略」。

 私の復讐計画の駒は、着実に、そして静かに盤上に揃いつつあった。次の標的は、学園の最高意思決定機関である生徒会。あの偽りの聖女リリアが、その座を狙っている場所だ。

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