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断罪された悪役令嬢は二度目の人生で冷酷な復讐者に変わる。偽聖女の化けの皮を剥がし、私を捨てた元婚約者は徹底的に叩き潰す  作者: 黒崎隼人


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第2話「悪名の支配者」

 学園生活が始まって1週間。私は宣言通り「傲慢で孤高の悪役令嬢」を完璧に演じきっていた。

 授業では誰よりも早く回答し、休み時間は一人で読書に耽る。話しかけてくる令嬢たちには冷たく一瞥を返し、令息たちの誘いは鼻で笑ってあしらった。

 私の徹底した態度は、瞬く間に学園中の噂となった。


「スカーレット様は近寄りがたい」


「王太子殿下の婚約者だからと、我々を見下しているのだわ」


 陰口は百も承知。むしろ計画通りだった。誰の干渉も受けず、私は放課後になると図書館や資料室に籠もり、運営委員会のメンバーたちの不正の証拠集めに没頭した。

 1度目の人生で聞き知った情報を元に、過去の学園新聞、貴族名鑑、商会の取引記録などを徹底的に洗い出す。記憶の断片が、記録という確固たる証拠へと変わっていく。

 最初の標的は、会計のマルクス伯爵子息。彼は父親が経営する商会から、学園の備品購入と偽って金を横領し、私的な遊興費に充てていた。私は図書館の書庫で過去数年分の備品購入リストと、マルクス商会の公的な取引記録を照合した。そこには、明らかに水増しされた請求書と存在しない備品の購入履歴が残っていた。完璧な証拠だ。


***


 翌日の昼休み、私はマルクス子息を人気のない中庭に呼び出した。


「何の御用でしょうか、スカーレット様」


 彼は私を軽んじた薄ら笑いを浮かべている。運営委員会のメンバーである自分は、王太子の婚約者といえど簡単には手を出せないと高をくくっているのだろう。


「あなたに、運営委員会を辞めていただきたいの」


「はっ、何を馬鹿なことを。私がどれだけ委員会に貢献しているか、ご存じないのですか」


 私は黙って、懐から数枚の書類の写しを取り出し彼に突きつけた。


「この数字に見覚えはありますわね? マルクス商会が学園に納品したとされる、存在しない魔法薬の材料リスト。そしてその代金があなたの個人口座に振り込まれた記録。これを公にされたくなくば、今すぐ委員を辞任し、横領した全額を返還なさい」


 マルクス子息の顔が、みるみるうちに青ざめていく。彼は震える手で書類を受け取り、その内容に絶句した。


「な、ぜ……これを……」


「私が誰だかお忘れ? ヴァレンティナ公爵家の情報網を甘く見ないでいただきたいわ。さあ、どうなさる?」


 脅しだ。けれど、今の私にはこれが必要な手段だった。正攻法で訴えても、彼の父親が握り潰すに決まっている。ならば毒には毒を。

 彼はしばらく呆然としていたが、やがて観念したようにがっくりと肩を落とした。


「……わ、わかりました。辞任します。金も、必ず……」


「よろしい。もちろん、この件は誰にも口外なさいませんように。もし余計なことを話せば、この写しがどこに届くかお分かりですわね?」


 冷たく言い放ち、私は彼に背を向けた。背後で彼が崩れ落ちる音がしたが、振り返ることはしなかった。

 同じ手口で、私は次々と委員たちの弱みを暴き、彼らを支配下に置いていった。不正な取引の証拠を突きつけて黙らせ、スキャンダルをちらつかせて従わせる。委員を辞めさせる者もいれば、あえて残して私の手駒とする者もいた。

 わずか1ヶ月後。学園運営委員会は表向きこそ変わらないものの、その実、完全に私の意のままに動く組織へと変貌を遂げていた。

 その冷酷かつ鮮やかな手腕は、これまで私を「ただのお飾りの婚約者」と軽んじていた生徒たちに、静かな恐怖を植え付け始めた。スカーレット・ヴァレンティナは、美しいだけの令嬢ではない。彼女に逆らえば破滅させられる。

 そんな空気が、学園内にゆっくりと広がっていった。


***


 そんなある日の放課後。私が運営委員会の資料室で次の計画を練っていると、不意に扉が開いた。


「面白いことをしているようだね、ヴァレンティナ公爵令嬢」


 静かだがよく通る声。振り返ると、そこに立っていたのは銀色の髪に怜悧な紫色の瞳を持つ、美しい青年だった。

 ゼノン・アークライト。

 ヴァレンティナ家と長年対立してきた、アークライト公爵家の嫡男。1度目の人生では、ほとんど接点がなかった男だ。彼は常に冷静沈着で誰とも馴れ合わず、学園の騒動をどこか冷めた目で見つめていた。


「……アークライト公爵子息。何の御用かしら」


 私は警戒を露わに彼を睨む。私の計画に気づいたというのだろうか。

 ゼノンは気にした様子もなく部屋に入ってくると、私が広げていた書類を一瞥した。


「運営委員会を掌握した手口、見事というほかない。まさかたった1ヶ月でここまでやるとは」


 彼の言葉に、私の心臓がどきりと跳ねる。


「何を言っているのかしら。私にはさっぱり」


「とぼけなくてもいい。君がマルクス会計やエルンスト風紀委員を『説得』する場面を、偶然にも何度か目にしているんでね」


 彼は悪びれもせず、面白そうに口の端を上げた。この男、どこまで知っている? 下手に隠そうとすれば逆に行動を探られるだけかもしれない。

 私は深呼吸を一つして、開き直ることにした。


「だとしたら、何か問題でも? 私は、学園の風紀を正しただけですわ」


「風紀を? 脅迫という手段を使って、かい?」


 彼は私の目の前に立つと、その紫色の瞳でじっと私を見つめた。まるで私の心の奥底まで見透かそうとするような、鋭い視線。


「君は、何を企んでいる?」


 まっすぐな問いだった。私は一瞬、言葉に詰まる。復讐のためだ、なんて言えるはずもない。

 しかし、ここで怯むスカーレット・ヴァレンティナではない。私は不敵な笑みを浮かべて彼の問いに答えた。


「さあ? ただ、この退屈な王国と学園の未来を、少しだけ面白くしてさしあげようと思っているだけですわ」


 精一杯の虚勢だった。けれど、その言葉を聞いたゼノンの瞳に意外な光が宿った。それは好奇心と、そしてほんの少しの賞賛の色。


「……面白い。実に、面白い」


 彼は楽しそうにつぶやくと、私に一つの提案を持ちかけてきた。


「その『面白いこと』、僕にも一枚噛ませてもらえないか? もちろん君の邪魔はしない。むしろ、有益な情報を提供できるかもしれない」


「あなたに何の得があるというの?」


「言っただろう、面白そうだから、と。それに、アークライト家としても腐敗した貴族たちが一掃されるのは悪い話ではない」


 彼の真意は読めない。ヴァレンティナ家を陥れるための罠かもしれない。だが、彼の申し出は魅力的だった。アークライト公爵家の情報網は、ヴァレンティナ家に匹敵する。彼が味方になれば、私の計画はさらに加速するだろう。

 リスクは大きい。しかしハイリスクなものほど、得られるリターンも大きい。

 私は数秒間、彼の紫色の瞳を見つめ返し、そして決断した。


「……いいでしょう。ただし、私の計画に口出しはしないこと。そして私を裏切ればどうなるか、覚悟しておくことですわ」


「承知した。契約成立だ、パートナー殿」


 ゼノンは優雅に微笑み、私の手を取ってその甲に誓いのキスを落とした。彼の唇が触れた場所が、じんと熱くなる。

 こうして、敵対する公爵家の子息との奇妙な関係が始まった。

 この時の私はまだ知らなかった。この冷静沈着な男が、私の復讐計画において、そして私の心において、どれほど大きな存在になっていくのかを。

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