番外編 第3話「商人が捨てた天秤」
陽気な商人レオ。その正体は、隣国エストリアの第二王子、レオナルドだった。
彼は自国の利益のため、そして自由を求めて身分を隠してクレスメント王国に潜入し、情報を集めていた。金と情報、利益と損失。彼が動く基準は、常に天秤のどちらに傾くか、それだけだった。
スカーレット・ヴァレンティナという公爵令嬢に初めて会った時も、彼はその天秤で彼女を測っていた。彼女の「未来視」は莫大な利益を生む。彼女に投資することは、国益にも繋がるだろう。最初は、それだけの打算だった。
だが、彼の天秤はすぐに狂い始めた。
彼女の大胆さ、誰にも屈しない強さ、そして時折見せる復讐という重荷に耐える健気な姿。そのすべてが、彼の心を掴んで離さなかった。計算高く、常に利益を追求してきた自分が一人の女性のために採算度外視で動いている。それに気づいた時、彼は自分が本気で恋に落ちたことを悟った。
暁光団との最終決戦。もし失敗すれば自分もただでは済まない。下手をすれば国際問題に発展する可能性すらあった。天秤は、明らかに「危険」に傾いていた。
だが、彼は迷わなかった。自国の利益よりも、スカーレットを助けることを選んだ。彼女のいない未来など、彼にとってはなんの価値もなかったからだ。
事件が解決し、彼女が未来の女王となることが決まった後。レオはスカーレットの元を訪れた。
「お嬢様、いや、未来の女王陛下。俺は、そろそろお暇させてもらうぜ」
彼はいつものように、おどけて言った。
「そう。今まで、ありがとう、レオ。あなたがいなければ、私の計画は成功しなかったわ」
「へへっ、お役に立てて光栄だ。……なあ、最後に一つだけ、本当のことを教えてやるよ」
彼は真剣な顔になり、自分の本当の身分――レオナルド・フォン・エストリア、隣国の第二王子であることを明かした。
驚くスカーレットに、彼は優しく微笑んだ。
「あんたに相応しい男になるために、一度国に帰る。王子としてやらなきゃいけないことがあるんでな。でも、必ず正式な使者として、今度は一人の男として、改めて君に会いに来る。その時まで、待っててくれるかい?」
それは、商人が捨てた天秤の代わりに手に入れた、彼の真実の想いだった。




