第10話「悪役令嬢から未来の女王へ」
すべての事件が解決し、王都が落ち着きを取り戻した数日後。王宮前の広場には大勢の民衆が集まっていた。彼らは偽りの聖女の裏切りに怒り、そして国を救った英雄たちの姿を一目見ようと詰めかけていたのだ。
王宮のバルコニーに、王族となぜか私も共に立つことを許された。私の隣には、アルフォンス殿下が緊張した面持ちで立っている。
やがて、国王陛下が民衆の前に進み出て事件の収束を宣言した。そして彼の合図で、アルフォンス殿下が私の前に進み出た。
会場が静まり返る。誰もが、これから何が起こるのかを固唾をのんで見守っていた。
アルフォンス殿下は、集まったすべての国民の前で、私の前に深く、深くひざまずいたのだ。
王太子が、一人の令嬢にひざまずく。前代未聞の光景に、民衆は息を呑んだ。
「スカーレット・ヴァレンティナ嬢」
アルフォンス殿下は顔を上げ、真摯な瞳で私を見つめながら、はっきりとした声で言った。
「私は一度君を信じることができず、君に無実の罪を着せ断罪するという、取り返しのつかない過ちを犯した。この罪は決して許されるものではない。王太子として、そして一人の男として、君に心から謝罪する。本当に、申し訳なかった」
彼は再び深く頭を下げた。その姿は、映像を映す魔法を通じて国中に伝えられていた。
1度目の人生の記憶が、私の脳裏をよぎる。断頭台の上で彼に憎まれながら死んでいった、あの日の私。その無念が、彼のこの行動によって静かに浄化されていくのを感じた。
彼はゆっくりと立ち上がると、懐から小さな箱を取り出した。その中に入っていたのは、王家に代々伝わる王太子妃の証である指輪だった。
「そして、私はこの過ちを生涯かけて償いたい。スカーレット」
彼はもう一度、私の名前を呼んだ。その声は愛しさに満ちていた。
「君こそが私の隣に立つべき、唯一の女性だ。君の知性、強さ、そして誰にも見せない優しさ。そのすべてを、私は愛している。どうか私と共に、この国を導いてほしい。私と、結婚してください」
公開プロポーズ。あまりに劇的な展開に民衆は静まり返り、そして次の瞬間、爆発的な歓声となって応えた。
私は、目の前で差し出された指輪とアルフォンス殿下の真剣な顔を、ただ見つめていた。
復讐のためだけに生きてきたはずだった。彼のことも、一度は憎んだはずだった。けれど2度目の人生で、彼もまた苦しみ、過ちを認め、変わろうと足掻く姿をこの目で見てきた。そして何より、この復讐の旅は私一人では成し遂げられなかった。ゼノンが、カイエンが、レオが、そしてアルフォンスがいてくれたからこそ、ここまで来られたのだ。
私の孤独な復讐は、いつしか多くの仲間と、そして新たな愛によって救われていたのだ。
私は、そっとアルフォンス殿下の手に自分の手を重ねた。
「……はい、喜んで」
その答えに、彼は心の底から安堵したような、幸せそうな笑顔を浮かべ、私の指にそっと指輪をはめてくれた。
再び、割れんばかりの歓声が広場を包み込む。
悪役令嬢と呼ばれた少女は、その汚名を自らの力で濯ぎ、王国の未来を照らす緋色の光となった。
未来の女王への道を、私は今、確かに歩み始めたのだった。




