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プロローグ:白は、最後に黒を孕む
南極の氷床に、最初の亀裂が入ったのは、
風速23メートルの白い嵐の夜だった。
それは音もなく始まった。
衛星画像には、ただ一筋の線。
まるで大地に走る、細い血管のような裂け目。
氷床の崩壊。
アルベド効果の低下。
海洋循環の変調。
それは、予測されていた未来だった。
だが――
誰も、その“下”までは予測していなかった。
氷厚三千メートル。
そのさらに奥。
十万年前の層から、
未知の微生物が検出された。
自己増殖速度、既知種の14倍。
極低温でも活動停止せず、
宿主の扁桃体を刺激する特性を持つ。
攻撃性の増幅。
理論上は説明できる。
遺伝子の異常配列も解析可能だった。
だが、南極基地の隊員が最後に残した音声は、
科学とは無関係だった。
「……封印を、開けた」
通信は、そこで途絶えた。




