訪問者
亮子は最寄りのオープンカレッジヘ通うことになりそうだと、嬉々としてメールを送って来た。
費用は亮子の母親の最近ゲットした裕福な内縁の夫が出すと言う。
あの母親、内縁の夫がいるのか。そういうところだけは一丁前、七十過ぎてるのにお盛んなことで。
家の経済的理由から進学を断念して来ただけで、彼女には向学心が無いわけではなさそうだ。
「どうせすぐに行かなくなるだけよ」「続きっこない」「無駄よ」という亮子の母親の反対を押しきって行く気満々だ。
親が自分の娘を信頼していない、信じよう応援しようとしないのはなぜなのか。
「可哀想な子」とか言いながら、娘の可能性を潰し、せっかくのやる気を否定し娘が羽ばたこうとするのを邪魔しているのはこの母親自身なのだ。
亮子の最初の結婚は二十四歳、見合いで結婚したというよりも、気乗りでなかった亮子を母親がごり押しして結婚させたようなものだったらしい。
「とにかく早く結婚して頂戴」と言う割には亮子に家事は殆んど教えておらず、一般常識も疎く何もできないまま嫁に出した。
婚家では、「使え無い嫁」「ダメ嫁」呼ばわりされて、冷遇される羽目になった。二年後長男が生まれ授乳期が終わると同時に離縁された。
子どもは夫が引き取り、それ以来会わせてもらうこともできなくなった。
最初の結婚が上手く行かなくなってから、精神を病むようになって、救いを求めて不倫を含めて色々な男を渡り歩くようになった。
三十歳になってした二度目の結婚は、最初はそれでも上手く行っていたが、夫が気分を害すると暴力を受けるようになり、子どもは生まれたが、耐えられなくなって子どもを置いて逃げたという。
実家に戻るも「あんたはろくに働けないんだから、早くいい男を見つけて嫁げ」と圧力をかける母親に精神的に追い詰められて自殺未遂を起こして搬送された。
そこから東医師の治療を受けることになったようだ。
亮子の言い分がどこまで事実かは確かめようが無いが、亮子の母親が毒親であることは間違いないだろう。
母と離婚した亮子の実父は既に他界していて、母親の再婚によって出来た義父には懐けず折り合いが良くなかったそうだ。
母親も結婚が長続きせずバツ2になり、経済力が無かったため、素直で従順な弟達は夫側が引き取っていた。
自分は母親に顔も性格も似ているから引き取ってはもらえなかったのではないかと亮子は言う。
子どもの頃から人の言うことを聞かない、ルールを守れず衝動的で頑固で融通が効かない、育てにくい子どもだったのは、どうやら嘘ではなさそうだ。
友人はいない、欲しいけどできなかったと言うが、それは亮子の性格的なものからなのかもしれない。
現在ではタガが外れたように、他者の家に押し入ってでも友人を持つことに振り切っているが。
亮子についての情報が集まって来た頃、また新たな訪問者がやって来た。
「亮子ちゃんのお友達の先生なんですよね?」
「······は?!」
インターフォン越しにそう答えるのは、亮子が「話したことも挨拶したことも無いけど知人」と言っていた沼田という男だった。
(な、なんでこの男がここに?なぜ俺の家を知っているんだ?引っ越したばかりなのに)
「······どのようなご用件でしょうか?」
「亮子ちゃんみたいに、私ともお友達になってもらえませんかね」
新聞や訪問販売、宗教の勧誘でもあるまいに、わざわざ家に来るって······!
俺は暗澹たるこの状況に絶句した。
常識も話しも通じない、猛獣がまた一人······。
────本当に勘弁してくれ。
うちは外来は受け付けてはいないんだよ······じゃなくて!
そもそも俺は先生じゃ無いっ!!
おい、糞東、お前の患者だろ、何とかしろよ!
お読みくださってありがとうございます!
これはあくまでもフィクション、ギャグですので(笑)
どうか細かいところはお目こぼしを。




