嘘だらけ
浅野亮子がメールで毎日送ってくる内容は果たして事実なのだろうか?
そんな疑問が湧いて来た。
亮子の母親も信用ならないが、本当にこんなことがあったのですかという確認をすると、違うと答えた。
「嘘でも何でもいいんです。何でもいいからあの子は会話をできさえすれば満足するんです」
「あなたにも嘘の話をするのですか?別れた二人の夫とも?」
「······そうです」
「でも限度ってものがあるでしょう?元夫達はそれで限界が来たのでは?」
亮子は子どもの頃からよく嘘をつくことがあったが、離婚を繰り返し生活して行くのに必死で、諌めることもなく放置してきたという。
悪意のない嘘や他愛ない嘘だとしても、あまりにも嘘だらけだと対人関係は破綻するものだ。
嘘をつき続ける娘を諌めないというのは、誰かがずっとその嘘を聞かされることも放置しているということだ。
これは娘のことも、娘の相手のことも守っていない、守るつもりもない姿勢だということに他ならない。
それを俺が亮子の母親に指摘すると、「だって」とすぐ泣き出す振りをする。
───話にならない。
そうやって自分の義務や責任から逃避して来たのだろう。
本来治療や指導が必要なのはこの母親の方だ。
医師や誰かに丸投げで頼る、しつこくお願いすれば誰かが何とかしてくれる筈という認識のまま生きてきて、それをずっと押し通してきた無責任で未成熟な老婆だ。
そうやって親としての、嫁としての責任を果たせないのに結婚や出産を繰り返して行くことで被害が拡大して行く。
そんな娘を何の対策や予防策を取らせることなく結婚させてしまう親も親だ。
生まれながらの精神疾患ならば気の毒ではあるが、浅野亮子はこの母親とその祖母の負の影響の方が圧倒的に強いだろう。
無知で無力な母親の家系の被害者。そのとばっちりを元夫や娘の子ども、俺にまで食わせていることにすら気がつかない。
そして亮子の子ども達は現在それぞれの夫が育てているという。
亮子を自分の母親と全く同じ状態にしているのは、この親なのだ。
母親の言う『可哀想な娘』とは亮子ではなくて、亮子を自分の分身に仕立てて自己憐憫しているだけなのだろう。
「全くその通りだと思うわ。そのような人は占いやカウンセリングでも嘘をつくのよ。担当医師にもきっと嘘はついているでしょうね」
「それはわざとか?それとも無意識?」
「どうだろう。それも人によってそれぞれかもね。わざとやっている時と無意識で嘘をついているのと両方じゃないかな」
「不毛だな」
「自己防衛で自分が作った心の迷宮から出られないとか、そこから出たく無い人もいるからね」
「里美はまるで心理カウンセラーか精神科医みたいだよな」
「全然素人だよ。無資格だしね。これじゃあ占い師としてもダメなんじゃないかって最近思ってる。対応が難しいクライアントが本当に多いの」
里美のプロ意識は高い。リピーターが多いのはそのせいだろう。
「リピーターなんていない方がいいのよ」里美はよくそう言う。
あの浅野亮子の担当医師東に爪の垢でも飲ませたい。プロ意識に欠ける医師なんて危険かつ迷惑でしかない。
体の疾患を放置したら本人が倒れるか死ぬだけだが、精神疾患は必ずしもそうではなく他者への被害が甚大だというのに。
精神科は確かに対応や対処が大変で難しいものだと思うが、今一つ対応が行き届いていない気がしてならない。
浅野亮子の嘘を連ねたメールには、真面目に返さず適当に返答をするようになった。
あの女の嘘に真面目に答える必要など無いと感じたからだ。
糞真面目に応じていたら身が持たない。
だが、嘘をつく女っていうのは、他人の嘘にはすこぶる敏感なものなのだ。
「拓実先生の嘘つき!」「それは嘘でしょ」と見抜かれる。
「酷い、信じられない」「最低!」「鬼だ!」「人でなし!」
そして相手をこれでもかと責める。
自分のつく嘘はいいのかよ!?
「君は嘘が嫌いなのに、じゃあなぜ俺には嘘を書いて寄越すんだ?」
そう返信すると、拗ねたのかそれから一週間ほどメールが来なくなった。
鬼の居ぬ間に洗濯を。
亮子への返信に取られていた時間とエネルギーが浮いた分、久々に俺は解放感を味わった。




