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メール

「ええ~?!断れば良かったのに!もう、深町君は真面目過ぎるよ。根っからいい人だし、繊細だから疲れるでしょ?」

「繊細?俺が?神経質とかじゃなくて?」

「神経質だとは思わないよ」


最近、あの女の件で里美にメールしてばかりだ。そしてなぜか返信がやけに早い。

年甲斐もなく、それがなんだか嬉しくて余計にメールを送ってしまう。まるで中坊のような自分に突っ込みを入れたくなる。


担当医師と相談した結果、浅野亮子とはメールでのやり取りに限定させてもらった。

直接会うことを俺が渋った(拒否した)からだ。

俺の自宅や職場には絶対来ないこと、俺の家族や友人に近寄らないこと、電話するのも無しということで手を打った。

それを必ず守ること、破ったらメールも一切絶つと母親に念書も書かせた。


メールの内容も医師に転送して共有している。毎日五通程送信されてくるが、今日はこんなことがあったという小学生の日記のような他愛の無い内容が送られて来る。

この程度なら許容範囲だ。


バツ2の彼女は二人の元夫とはどんなやり取りをしていたのだろうか?

離婚していたとしても、親兄弟とコミュニケーションがまともに取れていたら、俺のような第三者にこんな関係を求めることはまずしないのではないか。


浅野亮子の母親もバツ2だそうで、浅野亮子の二人の弟は、それぞれの夫が再婚してから引き取ったらしく、亮子だけが母子家庭で育ったようだ。

亮子の祖母もバツ3で、親子三代で母子家庭の家系らしい。亮子の祖母が精神疾患を患っていたフシがある。

浅野亮子も母親らの被害者と言えなくもない。

だが、安易な同情は向けない。


自己憐憫に溺れるのは楽かもしれないが、もっと慎重に相手を選ぶとか安易に結婚しないでおく、育てる自信や育てる力が無いなら結婚しても子どもは持たないようにするのも自分とその子どもを守る自衛策だ。


それを何一つせずに、自分への同情だけを請おうとするとか、他人から引き出そうとするのは非常に甘いと思う。


浅野亮子の母親は「亮子は可哀想な子なんです」が口癖のようだ。

だから優しくしてあげてくれ、だから何でもあの娘の言う通りにしてあげたいんですと宣う。

やたら甘やかすのと娘を大事にすることは全く別物だ。

可哀想だと言いながら我が子をスポイルする方が余程残酷なことだ。


自分のその残酷さに気がつかない亮子の母親こそが毒親なのだ。


可哀想と思うのであれば、より自立して一人でもなるべく生きて行けるようにしっかり育ててあげることが、我が子が生きやすく幸せにする道なのに、それを受け入れようともしない。

ただ子を甘やかして自分はこんなに子どもを愛しているという自己満足をしているだけ、自己欺瞞で歪んだ世界で生きているのであれば、それは毒親でしかない。


可哀想な人ねとか、可哀想だねと誰かに言われたならば、それで満足して自分ではもう何もやらなくなってしまう。自分ができることさえ受け身に徹して努力をしなくなるのが、そんな毒親の毒牙にやられた人達なのだ。



俺が若い頃にごく短い期間付き合った女性は毒親育ちのメンヘラ気質だった。

何かしら行き詰まるとると自殺をほのめかして、相手からの同情や憐憫を得たがった。


彼女は俺を心中の道連れにしようとした。


ある時丹沢湖にキャンプに行こうと誘われ、彼女を含む数人で集まった。

俺は何も知らずに飲み物に睡眠薬を入れられて、目を覚ましたら、窓を目張りした車の中で彼女が練炭を用意しているところだった。


「······俺はここで死ぬ気は無いっ!そんなに死にたいなら、死にたい奴だけで死ねよ!!」


俺は力を振り絞って逃げた。起きぬけでフラついて盛大にコケた。暗闇であちこち体をぶつけながら逃げたから、擦り傷と痣だらけになっていた。


彼女達は俺を追っては来なかった。


俺は自分のバイクでその場を去った。その後彼女とは連絡は取っていないし、今どうしているかは全く知らない。


あの日キャンパーが練炭自殺したというニュースは聞いていないし、彼女の訃報も聞いたことは無いから、死にたがりながら今もどこかで生きているだろうと俺は思っている。


そういう人間は、自分の欲求や願望さえ満たせれば、他人の意志などお構い無しで他人の人生や命すら犠牲にしても何とも思わないのだ。


傍にいてくれるなら誰でも良い、一緒に死んでくれるなら誰でも良かったのと彼女は最後にメールを送って寄越した。


その文面に謝罪の言葉はどこにもなかった。

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