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リトル·ブラック·ドレス

迷惑な女は、防犯カメラを設置したすぐ翌日にやって来た。

もちろん家には二度と上げるつもりはない。

インターフォンの電源を切って、応答しないようにした。


門前払いが通用しない女は、窓ガラスを打ち破ることにしたらしく、裏手にまわりベランダから侵入しようとしている。


一階住まいなのをこれ程悔いたことは無い。

これはもう転居するしかないのか。


今日の女の出で立ちはリトル·ブラック·ドレス。胸元も背中もばっくり開いた膝丈の黒いフォーマルドレスだ。

一体俺に何を相談するつもりなのかは知らないが、わざわざこんなブラックドレスを選ぶその感覚がマジでわからない。


花柄ワンピースだろうが、ブラックドレスだろうと、俺の対応は変わらない。

ベランダを乗り越える時に下着が丸見えになろうが、俺の知ったことではない。


見たくもないものを見せられて、不快でしかない。

こんなものを目にしたら目が腐りそうだ。

これが防犯カメラに録画されているかと思うと、ゲンナリとしかしない。


今日も里美の名を心の中で絶叫しそうになる。


バリンという破裂音がして、猛獣は侵入に成功したようだ。

まるでホラー映画のような展開に身の危険を感じながら110番通報をした。

たった今不審者に侵入されましたという動画付きで。


パソコンと貴重品を持ち出して、女から逃げながら警察の到着を待った。


なんでこの女はここまで凶暴なのか?


熊並みの破壊力だ。これはもう精神鑑定が必要なレベルだろう。


彼女は警官に拘束された時も暴れていた。


避難したホテルでつけたテレビには、夕方のニュース番組に我が家が映し出され、地元の新聞にも『深町拓実さん宅に侵入』という記事が掲り俺の本名まで晒されてしまった。

防犯カメラに録画されていた女がベランダから侵入する一部始終がネットでも拡散された。


女は浅野亮子、四十代でバツ2の子持ち、精神科に入退院を繰り返しているということがわかった。

この日彼女がリトル·ブラック·ドレスだったのは、親族の葬式の帰りだったらしい。


女の家族から陳謝されたが、俺は慣れ親しんだ部屋を引っ越すことにした。


被害者の名前は報道するのに、加害者の名前は公表されず顔の映像にもモザイクがかけられて保護されるのがなんとも不公平だ。



「深町君、大丈夫?」

「······なんとか」


里美から早速俺を気遣う電話が来た。

友人知人からの興味本位のメールはブロックした。

本当に心配してくれるのは、家族と一握りの本物の友人だけだ。


不動産屋に勤める友人も事情を知って便宜を図ってくれた。超速で新しい部屋を契約し、引っ越した。


黒いパンプスを放り投げベランダを乗り越えるあの女の鬼気迫る姿が脳裏に焼き付き、何度も夢に見てうなされることがしばらく続いた。



ようやく悪夢を見ることもなくなった頃、なんとまたあの女が俺の家にやって来たのだ。


だが、今度は家族に付き添われていて、どうか一度だけでいいので娘の話を聞いてやって欲しいと、老いた母親に嘆願されてしまった。


彼女の担当医師からも、可能であれば協力していただけると助かると言われたため、「絶対に二人きりにならないこと」「先生とは呼ばないこと」「今後自宅に来ないこと」を条件に仕方なく俺は承諾した。

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