エピローグ
菜緒の復讐の対象という脅威が無くなり、俺達はまた寄りを戻した。
以前よりも会う頻度が増えて来て、毎日メールなり電話をやり取りするようになって行った。
浅野亮子と三田村氏は相変わらず睦まじく、痩せぎすだった亮子は少し太ったようで印象が柔らかくなったような気がする。
そんなに似合っていなかったリトル·ブラック·ドレスはもう着なくなった。
なんと沼田さんはガールフレンドと再婚することが決まった。これもラブレターの効果だろうか。
そんなわけで俺のまわりは今花盛りだ。
妊娠や子どもについて話すのは女性にとってデリケートなものかもしれないけれど、可能性がゼロではないならば諦めるのは早いと思う。
試してみてそれでも子どもができないならば、その時断念しても遅くは無い。
今ならまだ間に合うかもしれないならば、俺は諦めたくはないし、里美にも諦めて欲しくない。
タイムリミットがあるならば、躊躇なんかしていられない。
これまでの俺は、あまりにも押しが弱過ぎたんだ。
俺はダメもとでもいいからと、二度目のプロポーズを決行した。
「早期閉経だったら、不妊治療で妊娠も可能な場合もあるんだろう?それなら俺と一緒に試してみないか?」
「······深町君てさ、プロポーズが変化球過ぎるよね?!」
「ごっ、ごめん····?」
「学生時代に告白されていたら、私、深町君となら普通に付き合っていたと思うよ」
「ええ!?」
今更悔やんでも仕方ないが、これぞ一生の不覚。意気地のなかった過去の自分を、ハリセンで殴り飛ばしたい気分だ。
「······普通のでいいのに」
ボソリと里美は呟いた。
「俺と結婚して下さい。俺は里美の子どもが欲しい」
(ええ?!そこは俺の子を産んでくれじゃないんだ?!)
「まだ70点ね。でも、特別におまけして合格にしておくね」
(だって、これで断わったら深町君が泣いちゃいそうだから)
「······本当に?」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。私の旦那様と子どもの父親に是非是非なって下さい」
「ぶっ、是非是非って······、里美の返事も変化球だよな」
「そこは、似た者夫婦ってことで」
善は急げと、両家に挨拶と承諾を得た後入籍し、婦人科を二人で受診し不妊治療を開始した。
***
俺は四十にして一児の父親になった。それは同じく里美もだ。
母子ともに健康と聞いて感涙した。
「パパは泣き虫さんね」
「それはママもだろ」
「······無事に産めて良かった。深町君、私をお母さんにしてくれてありがとう」
里美は歓喜で泣き笑いをした。
最も信頼できる大切な友人と夫婦になるまでに、遠回りして長い年月がかかってしまった。
でも今はそれすらも一瞬のことのように思える。
これから愛娘と妻と暮らす年月の方がより長くなってゆくのは、この上なく嬉しい。
俺はあれから育児向け雑誌のエッセイなどの仕事が増えた。
新しく刊行された、心を病んでいる人達とその人達を支える家族向けの情報誌に、東医師が監修の元、読者からの相談に答える「拓実の適当相談室·無資格なのであしからず」というコーナーを担当することになった。
「無資格な俺なんかで、本当にいいんですか?」
「あなたは浅野さんや沼田さんなどの実績がありますからね。あなたなりの適当なもので構いません。適当はいい加減ということではありませんし、あなたの適当は信頼できます」
おっかなびっくりで始めた相談コーナーだったが、予想外に好評で単行本化することが決まった。電子書籍版も同時配信される予定になっている。
「無資格なのであしからず」これが俺の代表作になりそうだ。
筆名を本名に改めてからライターとしての認知度も上がり、今までなかったジャンルの仕事が舞い込むようになった。
「拓実先生」「深町先生」
先生と呼ばれることにも若干慣れて、抵抗も薄れては来たが、それよりも愛娘に「パパ」と呼ばれる日がとにかく待ち遠しくてたまらない。
我が子を溺愛する親の気持ちが、今なら激しく理解できる。
「ママ」に先を越されたが、次こそは「パパ」とあの愛らしい口元と声で呼んでくれることだろう。
我が愛しの娘実美、君が大きくなったら、パパが君のパパに、ママが君のママになるまでの馴れ初めを、いつか話させておくれ。
家族以外には、取るに足らない物語だとしても。
(了)
この度も最後までお読みくださりありがとうございました。
あら!?こんな話しになってしまったわと、筆者もびっくりな結末でした。
書き始めた当初とはなんだか別物に変わってしまいました(汗)
番外編が1話分ありますので、よろしければそちらもよろしくお願いします。




