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それでいい

俺は意を決して、菜緒が復讐として行った行為について里美に謝罪した。


「巻き込んでしまったことを許してもらおうなんて、おこがましいことは言わない。だけど一生をかけて俺に償わせて欲しい」

「どうして深町君が謝るの?あなたは被害者なのに」

「それでも俺のせいで···」


里美は俺の発言を遮った。こんなことは滅多に無い。


「全然違うよ。100%菜緒さんのせいだから。それに私の決断力不足で離婚する時期が遅れただけなんだよ。菜緒さんが介入してなくてもアホな私なら夫と結婚していたかもだし、不倫がなくてもどのみち離婚はしてた。だから、罪悪感からプロポーズするなんて絶対にダメ!そんなの全く嬉しくないし」


一世一代のプロポーズも、あっさり断わられてしまった。

しかもダメ出し······。


「それにね、私は深町君には絶対に幸せになって欲しいの。私とではなくて、別のもっと若い女性なら子どもも産めるんだからその方が断然いいよ。私、深町君の子どもに会ってみたいな。きっとパパに似て優しい子だろうね」


そんなことを言うなよ。


俺は里美がいい。


俺は里美じゃなければ嫌だ。


そう告げて必死に食い下がることを許さないオーラを里美は出していた。

俺は仕方なくその言葉を押し止めた。


「······そんな······、里美はこれからどうするんだ?」

「誰とも再婚はしないよ。恋愛も当分したくない。私は元々恋愛が命の人じゃないから問題ないし。それでも、あなたには今まで通り友人でいて欲しい。······それじゃあダメかな?」

「······本当にそれでいいのか?」

「それでいい。どうか、今まで通りでお願いします!便宜上の恋人役も継続で。ああ、でも喧嘩して別れたって設定の方がよりリアルかもね?どうする?」


里美は悪戯っぽく笑った。


本当に、俺は里美には敵う気がしない。


「亮子がどんな反応するか見てみたい気もするな」

「でしょ?それに亮子さんを通じて私達が別れて疎遠になったと菜緒さんに思わせることができたら、彼女の裏をかけるよ。そうしたら満足して私達への関心が薄れるかも」

「そうだな。やられっぱなしじゃなくて、こっちも罠を仕掛けてみるか。油断して下手をコクかもしれないからな」

「こちらが仕返しをしなくても、きっとあの人はロクな死に方はしないでしょうね。色々な人から憎まれたり恨まれているでしょうから」

「畳の上では死ねない人間だな」

「沢山の人の負の念を受けているんじゃないかな?そういうの私は見えないけど」

「生霊とか?」

「そう、そういうのがいっぱいなんじゃないかな。本人は自覚無いんでしょうね」



里美とはメールと電話でのみ連絡を取り合い、外では一切会わずリモート飲み会をするにとどめた。


周囲には里美との交遊関係を断ったように見せたため亮子に別れた理由を聞かれた。


「プロポーズしたけど断わられたんだよ」


残念ながらそれは嘘ではなかったから、事実を述べた。


「三田村さんとは上手く行ってるんでしょ?応援しているよ」

「結婚はできないけれど、私の人生のパートナーになってくれるって」

「それは素敵だね。良かったな」


夫婦ではないけれど、人生のパートナーか。

それも悪くはないな。

籍は入れず一緒には住まないけれど、夫婦と同等かそれ以上の間柄。

流石魔術師三田村、言うことが違う。


亮子とのやり取りにも慣れて来て、最早タメ口になっている。



「ええ~、それって凄く素敵ね。亮子さんたら新しい夫婦の形の最先端よね」

「ははっ、確かにね」



菜緒が入院先の精神科病棟から脱走を試みてその最中に事故に遭ったという連絡を東医師から受けたのはそれからしばらくしてのことだった。

脛椎を損傷し全身麻痺だという。



「それは、ある意味死ぬよりも大変かも」

「身動き取れないからな」

「身体の痛みは麻痺して無いかもしれないけれど、精神科的な苦痛は増したでしょうね」

「プライドが高いから屈辱的かもしれないな」


菜緒の自殺願望はポーズでしかなく、どこまで自分に寄り添ってくれるか相手を試すための手段なのだろう。


これからは嫌でも他人が常に看護や介護でお世話してくれるだろう。

これで自分に寄り添って欲しいという強烈な欲望は満たされたのでは。


自分自身の自由と引き換えに。

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