しんどい②【里美目線】
浮気か。多分職場不倫というものなのだろう。
しかも、裏ピースするような女とするんだね、どんだけ~?!と突っ込みたくなった。
この時はまだ冷静だった。
これで離婚できるかもしれないと思ったからだ。
メールを送って来たのは不倫相手自身のようだ。
不倫でハイの状態なんだろうな。マウントしたくて仕方ない病の人がやるやつよね。
私って本当に見る目ないなあ。こんな夫と結婚するなんて。
もうこれで終わりにしよう。私は夫が帰宅する前に市役所に行き、離婚届を用意した。
そして先程のメールは夫の勤務先に転送しておいた。
夫も不倫相手も言い逃れができないようにだ。
下手すればクビ、左遷は間違いないだろう。若い不倫相手はクビ一択でしょうね。
会社にバレた時の事を全く想像していないから、ドヤ顔で裏ピースしている場合ではないことがわかっていないのだろうな。
不倫というのは、そこに本当に愛があるなら本来は隠すものよね。それをわざわざ不倫相手の妻にバラすなんて、頭がどうかしているわ。
だからマウント狂いの不倫には愛はないのよ。
帰宅した夫に離婚届とメールの写真画像を見せると瞬時に黙り込んだ。
「······わかった。離婚する。彼女は妊娠しているから、再婚するつもりだ」
「子どもは欲しくないんじゃなかったの?」
「彼女には産んでもらう。子どもが欲しくなったんだ」
私は夫と離婚することや浮気をしたことは、もうどうでも良かった。
それよりも、妻ではなく不倫相手の子は産ませるということに猛烈に怒りがこみ上げた。
いや、これはもう怒りではなくて殺意だ。
───私の妊娠可能期間には、子どもはいらないと散々言っておきながら。
ワナワナと震えて、夫を睨み付けた。
多分今の私は、憤怒をたぎらせた鬼婆か般若のような形相だろう。
別れ話で揉めて相手を刺殺、撲殺する人の気持ちが痛い程理解できる。
別れはするけれど、どうしても夫を許せない。
あんな不倫女はどうでもいい。
───私が産めたかもしれない子どもは?
それでもしばらくしてから私はまた冷静になった。
そうだ、私はこの人の子どもはいらないのではなかったか?何を激怒する必要があるのだろうかと。
子どもがいたら逆に別れ難くなるのだから、いなくて良かったのだと。
こんな自分勝手な夫の子を産まずに済んだのだから。
「私が明日出しに行くから」
夫が離婚届けにサインするのを見届けた。
必要最低限の荷物をキャリーバッグに詰め、後は荷造りして実家へ送った。
不要品引き取り業者を呼んで私の不要品は全部処分した。
私の行動の早さに夫は戸惑っているようだ。
「部屋をこのまま契約するなり新居に引っ越すなりご自由に。家具や食器類がいらないならそれはあなたの方で処分して」
「······慰謝料は、いいのか?」
「いらない。慰謝料なんかで償えることじゃ全然ないでしょ?慰謝料をもらったら私が子どもを産めるようになるの?あなたは私が母になる機会を奪ったのよ」
降格左遷だから収入は落ちるし、クビになった妊娠中の彼女は当分働かないだろう。
そうでなくても子どもが産まれたら子育ての費用が発生するのだから、慰謝料を払っている余裕は無いだろうし。
クズな両親でも子に罪は無い。親のせいでその子どもが経済的に苦労しないで欲しい。
「お前、本当に可愛い気がない女だな」
「そんな私に結婚を申し込んで来たのは自分でしょ」
部屋を出るまでぎすぎすしていたけれど、深町君からメールが来たので一息つけた。
深町君だったら、仮に夫婦として終わっても平和的な別れ方になる気がする。
離婚後も友人としてやって行けるかもしれない。
私はなんとか夫に寄り添おうと自分なりに努力はしたけど、上手くいかなった。
夫婦関係ってこんなにも難しいものなのだろうか。
結婚しろしろと五月蝿く言う割りに、どうすれば夫婦関係を良好にできるのかについてはちっとも教えられない癖にね。
それが出来ないのに、子どもに結婚ばかりをごり押しするとか勧めるのはおかしいわ。
どうすればいいかのを、まともに教えられる人がいないのに。
親ですらそれを教えてはくれない。
人生で最も長い付き合いになる筈の伴侶との関係を保つにはどうしたらいいか、誰も教えてはくれないのだ。
教わるよりも見つけるもの、人それぞれに、夫婦それぞれに色々な最適解があるのだとしても。
それだから、どうしていいかわからないから離婚や不倫や虐待に繋がるのでは?
結婚とはこうするものという明確な教えや羅針盤が無いままに、人は結婚という大海原に漕ぎ出す、放り出されているのだ。
下手をすれば座礁し難破してしまう。
私も見事に座礁しちゃったけどね。
あ、座礁じゃなくて転覆か。
別れたこの夫とは離婚後も友人として付き合いうなんてのは無理だ。
他の男にマウント取るためにプロポーズするような男は、彼女のようにマウント気質な人がお似合いなのだろう。
自滅しそうではあるけれど、もう私の知ったことではない。
私はマウント狂いの人とでは、疲弊し切ってしまうから、しんどさしかない。
私にとってこの結婚はとにかくしんどいものだった。
久々に聞いた友人の声に癒されて元気が出た。
私はもう前を向いて行こう。
いつでも私に寄り添ってくれる掛け替えの無い友人に、今すぐにでも会いたくなった。




