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デート

「会うのって久しぶりだね。数年以上ぶりかな。あれからどうなったの?」

「別の奴が増えた。メールが打てないからアナログな文通と月に一回の電話で対応することになった」

「はあ?!?なにそれ、ねえ、その医師ってまともな人なの?」


向き合う席ではなくて隣に座る形の店で飲んでいる。

向き合う席よりも二人の距離は近い。

恋人というよりも気が置けない友人、互いに独身同士なのは時間に縛られないから気楽だ。


東医師とのやり取りを話すと、里美の百面相を見ることができた。内容はシリアスでも、それを見ていたらなんだか笑ってしまいそうになった。


「里美も共感疲労するタイプだよね?」

「多分そうかも。でも私は辛くなって来たら、もういいや、もう無理って感じたら後は適当で行こうって切り替える方だと思う」

「おお、流石だな」


里美は天性のカウンセラー、セラピスト気質だと俺は思う。

誰に教えられていなくても、知識がなくても自然に気がつく、会得し対応して行く力が備わっている。


「占い師はもうやらないのか?」


里美は心理学、カウンセラーの資格の必要性を感じて、学び直しのために昨年から占い師を休止している。それを彼女のブログで読んで驚いた。


「学び直すのも、離婚したからそれどころではなくなっちゃったからね。今は自分の生活の立て直しをするのが最優先だから。当分無いかな」


あんなにブログで色々偉そうなことを書いていたから「ブーメラン来た!」と自虐のおどけを見せた。


自虐ネタ、自虐で笑わせる余裕がある時は、堕ちていても、傷ついていたとしてもいずれ這い上がってこれる力がまだあると思っている。


自虐ネタにできるようにセルフケアするのは大人としての健やかさじゃないのだろうか。

もちろんカウンセラーなどの人の手を借りるのもありだけれど、あまりにも他者への過度な依存は避けないとならないだろう。

カウンセラーだって医師だって生身の人間で、ロボットじゃない。

疲れもすれば傷つくこともある、相談者と同じ人間なのだ。

カウンセラーや医師や教師は万能な神様なんかじゃない。


そうやって少しずつ自分を鍛えて強くするのが成長や進歩と呼ぶんじゃないだろうか。


「占い師やスピリチュアルカウンセラー、ヒーラーって本当にバツ1とかの人が多いのよね。私もそんなバツ1の仲間入りよ、あ~あ、悔しいな。再開する時は、どうも、バツ1占い師里美ですって言わなくちゃならないじゃない」


酒で少し赤く染まった頬を膨らませてムッとしながら言うから笑った。


「別にわざわざカミングアウトしなくてもいいだろ?」

「私は嫌なのよ、隠すのが。散々離婚するのはこういうケースで云々ブログで書いてたのに、自分のは隠す、それだとフェアじゃないよね」


全く、そんな一本気なところが里美らしい。


「医療事務だっけ?」

「取り敢えずはね。昔の仕事で社会復帰したけど、フルタイムってブランクがあるから大変。想像以上に感覚がなまっていて自分でびっくりした」


子どもがいない里美は結婚後もフルタイムで働き、夫の名古屋への転勤で仕事を辞めてからは、趣味でやっていたタロットを生かして占い師でパート並みの収入を得ていた。


「それでも制服を着るとシャキッとするわね」


俺が返答しようとしたとその時、思わぬ闖入者が現れた。


「あっ、拓実先生!」


ぎょっとして振り返ると、見知らぬ男と腕を組みながら浅野亮子が立っていた。


亮子は里美に視線を移すと、無言で凝視し始めた。


(こ、これは大丈夫な反応なのか?)


「はじめまして、渡辺です。浅野さんのことは深町君から伺っています」


察した里美が自分から亮子に挨拶した。


「あなたが先生の恋人?何歳?仕事は?拓実先生と結婚するの?」


亮子は矢継ぎ早に里美に質問した。


すると亮子の隣の男性が亮子の肩を軽く叩き、どうどうと馬をあやすように言った。


「亮子ちゃん、質問はゆっくりひとつずつにしようね」

「は~い」


何たる手綱捌き!天才的猛獣使い!


あの亮子がまるでレディのように従っているではないか。

五十はいっているであろう、いい具合の白髪頭のロマンスグレー、まさにイケおじだ。


「どうも、三田村と申します」


彼は亮子が行くつもりでいたオープンカレッジの大学講師だという。

説明会でお世話になって意気投合したと言う。


(意気投合?!それは凄いことだ)


「拓実先生、私、大学に行くのはやめたの。三田村先生が個人レッスンをしてくれるから」


亮子は蕩けるように頬を染めながら、三田村の腕にぎゅっとしがみついて身を寄せた。


保護された狂暴な野良猫が、保護者のご主人様にメロメロ、牙を抜かれた状態にしか見えない。


うおおおお······、これはまさかの奇跡?!


や、やった、これで俺は亮子から解放されるのか?


俺は内心糠喜びをしていたが、現実はそれ程甘くはないのだ。


「深町さん、どうぞこれからも亮子ちゃんをよろしくお願いしますね」


三田村は渋いトーンの声でそう言うと俺にウインクをした。

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