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東医師

自殺の話等が苦手な方、精神的に不安になってしまう方はどうかスルーして下さいませ。

俺は東医師に抗議すると、亮子だけでなくできれば沼田の話相手になって欲しいと頼まれた。


「俺は無資格の素人ですよ。何かあったら責任を持てませんし、こちらの負担が重すぎます」

「あなたのお仕事はライターでしたよね?個人で開業している心療内科の取材をやりたくありませんか?」

「それとこれとではわけが違いますよ」


東はクリニックの応接室の椅子にもたれて深い溜め息を吐いた。


「医師と言えど、全てを個人で請け負うのはもう限界なのです。過労死どころか発狂寸前ですよ」

「······想像はできます」

「金○先生というドラマをご存知ですか?」

「······昔、少しだけ観たことはあります」

「どう思いましたか?」

「あれは理想であって、現実的には難しいでしょうね。物理的に無理だと思っています。教師があまりにもプライベートの時間が無さすぎて激務ですよね」


東医師は同志を見つけたとでもいうような、パッと表情が明るくなり生気に満ちた眼差しを俺に向けた。


「生徒も父兄も校長までも、皆が先生、先生と言って一人の教師を際限無く頼り倒す異常な物語です」

「······異常というか異様ではありますね。あれを教師の鑑、あれがデフォルトだと信じて頼られたら相当キツいでしょうね」

「実際の教育の現場も医療の現場もフィクションと同じではありません」

「もちろん、そうだと思います。東先生はまるで金○先生のような状態に今いらっしゃるということですね?」

「お察しいただけて嬉しいです」


彼は先日の作り笑顔とは別物の、心からの喜悦が滲む笑を浮かべた。


「ですが、なぜ俺に依頼を?」

「小鳥遊菜緒という女性に心当たりは?」

「······?!」


俺は瞬時に全身が強ばった。菜緒はかつて俺を心中の道連れをさせようとした、あの女のことだ。


「······その女性が、どうかしたのですか?」


ぶわりと冷や汗が出た。


「私の弟を巻き込んで心中しました」

「亡くなったのですか?それはいつです?」

「三年前です」


このクリニックは兄弟で経営していたが、弟が亡くなってから、後任が寄り付かないので、負担が激増しているらしい。

患者による暴言等に精神的にやられてしまう看護師、職員もいて辞める者も多いため、常にスタッフ不足に陥っているという。


医療従事者だけでは負担が重すぎる、このままでは廃業という窮地にいるということだった。


「······友人という話相手を外部に持たせることで、スタッフの負担を軽減、分散させたいと言うことですか?」

「ご理解いただけたようで、ありがたいです」


東は安堵の表情を浮かべた。かなり疲弊しているのは確かなのだろう。

共感疲労に蝕まれる辛さは俺もわかる気がする。


「小鳥遊菜緒とは二十代の頃に短い間ですが交際していました。練炭自殺に巻き込まれそうになって別れました。それでしばらく精神的にやられてしまった過去があります」

「それはお気の毒でしたね。······精神科医も人間ですから、病むこともあります。メンタルケアが必要なのは医師もです。······小鳥遊菜緒は弟が担当していましたが、男女の関係になったようでね。私は患者と交際するなと諌めたのですが、手遅れでした」


菜緒の携帯のアドレス帳に俺の名前が残っていたらしい。

メールのやり取り、通信履歴までは残ってはいなかったが。


「練炭自殺だったのですか?」

「いえ、リストカットです」

「弟さんは······殺されたということですか?」


睡眠薬を盛られた上で、菜緒が······ということだった。


しかも、菜緒は生還していた。



ぞわりと悪寒が走った。


やはり、菜緒はまだ生きていた。


犠牲者を出しながら。



「俺は、そんなに死にたいなら、死にたい奴だけが死ねと菜緒に言い放ってその場から逃げました。こんな俺に精神を病んだ人を任せられるのですか?」

「共感しなくて良いのです。むしろ共感しない方が共倒れを防ぎ生き延びれるでしょう」

「先生、俺は傾聴が苦手でストレスなんですよ」

「はははっ、傾聴は私も苦手ですよ。辛いなら適当で構いません。こちらが最善を尽くしても報われないことがあります。いつでも試行錯誤、何が最適であるのか手探りですから、そういう意味で適当に言ってみる、感情移入しないで適当にがいい場合もあります。今のところ浅野亮子はかつて無く良い状態です。どうか、しばらくご協力をお願いします」

「し、しかし······」

「報酬はお払い致します、どうか私を助けて下さい」

ちょこちょこ重くて大変申しわけありません。重いシーンはもう出てこないと思います、多分。

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