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服部は冷静だった。
レンタカーの手続きをするよりも実家に帰り車を借りる方が早いと瞬時に結論が出たため時間を無駄にすることなく車を手に入れていた。
実家は両親が祖父母と共に大きな農園を経営しているため軽トラがすぐに浮かんだことも功を奏した。
両親の質問もまともに答えず飛び出してきたことに多少の罪悪感を覚えながらもこれから出会う動物に胸を躍らせていた。
「ここ…よね?ていうかどこから入ればいいんだろ?」
車で入れる限界まで来たはいいが肝心の「猿山温泉」がわからないでいた。
「すいませーん!誰かー!!猿帝さーん!いますかー!!」
大声で叫びながら山を登っていく。
すると間も無く遠くからすごい勢いで気を伝ってくる影が見える。
その影はあっという間に服部の頭上まで来ると彼女を舐め回すように見る。
「ウホホッ、可愛いじゃないの、可愛いねぇ。俺様をお探しかな。」
顔は真っ赤で毛はところどころ白い。
しかし想像するよりも倍くらいは体格の大きい猿が膝をつき着地し手に持ったキノコを服部に差し出す。
「あ、ありがとう…。」
服部は引き攣った笑いを浮かべ差し出されたキノコを受け取る。
それをみて猿は嬉しそうに歯を剥き出しにして笑う。
「ウホホッ!俺に…惚れると…」
そう言って途中で考え出す。
「ん?のぼせちまうぜ?違うな…煮だっちまうぜ?いやいや…」
ぶつぶつ考える猿に服部は無視して質問する。
「あなたが猿帝?」
「ん?ああ、いかにもいかにも。君は特別にダーリンと呼んでくれてもいいがね。」
そう言ってウィンクをしてくる。
必要以上に口角を上げたウインクに服部の苦笑いは止まらない。
「ごめんなさい。今日はあなたに会いに来たんじゃないの…。ひぐっさんを探してるの。どこにいるか教えてくれる?」
それを聞いた猿帝は途端につまらなそうにして座り込む。
「なぁんだよ。他に男がいるのか…。しかもひぐっさんとは…あいつもなかなか隅に置けないねぇ。」
少し服部をジロジロと見つめると背中を見せ歩き出す。
「着いてきなよ。俺様は人のレディでもリスペクトは忘れない。案内してあげるよ。」
服部は顔を明るくして追いかける。
「ありがとう!」
猿帝も顔を明るくして振り向く。
「お礼なら一緒に風呂に入ってくれるでいいぜ。」
「バカ変態!」




