4
豊虫は本能的に逃げないといけないと脊髄からの警鐘を受け取っていた。
しかしそれが体を動かすかどうかは別である。
気づくと豊虫は目に見えない糸のようなもので包まれて動けなくなっていた。
「力を抜いて…。全部私に任せて身を委ねればいいの。」
「僕は喰われるんですか…?」
生存本能は働けど、不思議と恐怖はあまりなかった。
先生は冷たく微笑む。
「いいえ、安心していいわ。あなたは私と一生を共にするだけ。殺したいわけじゃないわ。悪い話じゃないでしょう?」
豊虫は首を振る。
「嫌じゃないですよ、もちろん。みんな仲良く暮らせるなら…ひぐっさんとか…ね?」
その言葉を聞いて先生の顔は一瞬恐ろしい形相になる。
鼻から息を吐くとゆっくりと豊虫を見て諭すように話す。
「ダメよ。誰にも合わす気はない。特に人間は。私たち物怪は異種族と平和に暮らせない。だからこんな形であなたを連れていくの。」
「なんで…ですか?やってみないと…」
豊虫の言葉の途中で先生から冷たい目を向けられ口をつぐまされる。
「やってみないと…?1000年以上生きた私が試していないと?そんなわけないじゃない。」
先生は一瞬悲しい表情をするがすぐに戻る。
「そうね…。納得できないわよね。」
小さくため息をついて続ける。
「元夫の話なんて聞きたくないかもしれないけど。どうしてか納得するには大事な話だものね。教えてあげる。人間がいかに愚かなのか…。」
黙って目を瞑り目の端から涙を流しながら小さく呟く。
「そして、それでも人間を愛してしまう物怪の話を…。」




